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劇場型リアリズム

 教室に戻ると、唯と八代から突き上げをくらう。

 片方は怒り、もう片方は好奇心だろう。


「薫ちゃんと、どこに行ってたのよっ!」

「ねぇねぇ、早乙女ちゃんと、どこでなにしてたの?」

「結太も一緒にいたという事実を無視しないで欲しいな。

 単に文化祭の打ち合わせをしてただけだよ」

「だって薫ちゃん可愛いし」

 唯が頬を膨らませてそっぽを向く。


「でも、男だよ」

「でもさ、妙に仲が良いよね。早乙女ちゃんと。

 学年も違うのに、ざっくばらんっていうかさ」

「それは、薫がそういうヤツだからでしょ。

 あいつ年上だろうがなんだろうが敬語使わないし」

「え、そうだっけ」

 薫は、メタ空間じゃなければ、敬語を使うことはない。


「そうだよ。あいつの前では年齢も性別もかんけーねーの。

 みんな等しくため口」

「へー、そういうのってなんかいいね」と八代。

 あれ、八代が敬語使ってないような気がするけれど。

 気のせいだったろうか? 単なる印象の問題かもしれない。

 八代=不良、みたいなイメージによる。


「春人、薫ちゃんのことよく知ってるね。

 やっぱり、気になってるんじゃないの?」

「だよね、だよね」

 女生徒2人は「きゃーっ」とか言って、身体の前で手を合わせた。


 女学生の前では男は一億総ホモなのだ。

 そんな事は有り得ないという現実を飲みこんでいながらも、

 そうだったらいいな、みたいな感覚がいつの間にか、

 そうに違いないに変質してしまっている。


 もっとも、薫に言わせると「メンタルは女の子」らしい。

 身体が男なのは、戸籍上仕方ないにしても

 心まで男に奪われた訳じゃないという事らしい。

 だから、女の恰好をするし女としての腕を磨いていく。


 そんな薫の気持ちとかそういったものを全部無視して、

 唯と八代は凄く嬉しそうで凄く楽しそうだ。

 出来ることなら俺も混ざりたいが、

 変な妄想の当事者になるのは勘弁だった。

 あまり妄想がぶっ飛びすぎない内に釘をさす。

 この釘をさすって行為が実は大切なのだ。

 暴走させ続けないために。


「んな訳ないでしょ。

 薫のやつ朋夏と仲が良いから色々話を聞いてるだけだよ」

 朋夏の名前を聞いて2人の表情が強張る。

 唯はキャラとしてそうしているのは分かるけれど、

 いかんせん八代の方はどうだか分からない。


 キャラとしてやっている節もあるし、本当に嫌っている節もありそうだ。

 お兄ちゃんとしては、妹がよく思われていないのは、複雑だった。


「春人くん、妹さんをちゃんと躾ておいてよね。

 後輩の癖に生意気だったらありゃしない」

 さっきと言っていた話が違うような


 ……薫はため口で良くて、朋夏は駄目なのだろうか。

 いや、そうじゃないな。

 朋夏の攻撃的な性格が駄目なのだろう。

 ヤンデレとビッチ、どう考えても水と油みたいな存在だ。


 どちらが悪いかと聞かれれば、うちの妹の方が圧倒的に悪い。

 なにせ最初から喧嘩腰なのだ。

 俺は兄として謝っておくことにする。


「ごめんね、八代さん。

 俺の方からも一応注意しておくよ」

 一応じゃ駄目なのよ!

 と八代は言うが、朋夏は異性関係とかに関しては

 何を言っても一切聞き入れてくれないので仕方ねーのである。


 午後の授業は実習だった。

 各々の机を後ろに下げて、即席の舞台を作った。

 みんなの前で4人程度で台本の通りに劇を進めて、

 教官やクラスメイト内で問題点や改善点を指摘しあう。

 もちろん、良い所などがあればそこも指摘する。


 演劇にはリアリティが求められることもあれば、

 見てくれが重視されることもある。大抵は見てくれだ。

 舞台で演じることを想定することが多いから、

 声をはっきりと響き渡らせなければならない。

 それに、動きが遠くの席からでも分かるようにしなければならない。


 けれど、例えば結太のような演出家の下だとリアリティが求められる。

 結太は、物語は話自体よりもキャラクターがどのように考えるか、

 そして振る舞うかを重要視しているらしい。


 どちらの言い分も正しいから、

 俺らキャラ科の人間としては演じ分けなければならない。

 それは難しい。

 もちろん、そういった難しさをモノにしていかないと、

 配役として選んでもらえる可能性はぐんと狭まってしまう。


 じゃぁどうすれば良いのかと言えば、

 俺個人に関しては、スイッチを切り替える感じで役割を変えている。


 俺はキャラの特性もあるかも知れないけれど、

 普段から学園内の現実は普通に過ごしている。

 だから、見てくれの演劇が求められる時だけ、

 自分の中にあるスイッチを切り替えればいい。

 スイッチを入れたら、俺は普段の自分を捨てて、

 自分の存在感を一気にのし上げるように演技をする。


 それが上手くいっているのかは自分で評価するのは難しい。

 演劇の成績は悪くないから及第点くらいは越えてくれているのだろう。


「あめんぼあかいな、あいうえお」

 発声練習をしながら、そんな事を考えた。


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