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メタ空間

「春人、ちょっと用があるから」

 と昼食の時間に結太に声をかけられた。

 普段、食事の後はそのまま食堂でだべっているけれど、

 早々に切り上げて結太についていく。

 同様に呼ばれた薫もついてくる。


「なにかな、なにかなー」と俺の腕をとって隣でちょこちょこと歩く。


 行き着いた先は、メタ空間だった。

 一般教室が点在する中、息抜き用に用意された部屋だ。


 部屋の右上にあるランプは消灯している。

 ランプで中に誰もいないらしい事を確認して、

 結太はそのメタ空間に入った。

 俺と薫もそれに続く。


 そのメタ空間には、背の低いテーブルと取り囲むようにして

 4つ用意されたソファーがあるだけだ。

 俺は結太の向かいに座り、薫は当然だと言うように俺の隣に座った。

 おまけに肩を寄せて身体を預けてくる。


「わくわくっ」とか言葉に出しながら、

 俺の腕を取ったまま薫は身体を揺らす。

 鬱陶しい。


「メタ空間なんだから、やめろよ」

 と言うと、「はーい」としゅんとした感じに唇を尖らせて身体を離した。

 少し罪悪感を感じる。


「文化祭の演劇、『愛妹ガールフレンド』に決めようと思うんだ。

 ……けども、他のキャラはともかく

 やっぱり男の娘キャラってのが扱いが大変でさ。

 どうしようか迷っているんだよね。

 僕だけじゃ決めかねるんで、2人の話を聞きたいんだ」


「ボクはどんなでも良いですよ」薫はいきなり真面目に話だした。

「良いように使ってもらっても、構わないですし」

 男の娘の扱いは難しい。

 流行り廃りの波もあるし、

 男の娘がいるってだけで作品を毛嫌いする人もいる。


 でも、オカマキャラは風当たりがそこまで強くない気がする。

 なぜだろうか。

 やっぱり、主人公との関係性に関連しているのかも知れない。

 オカマは惚れたのなんだの言ってもネタで済ませられるけれど、

 男の娘は少し本気度が違うように思う。

 もちろん、これは外側から見た勝手な意見で、

 オカマの人を貶めたい訳じゃないけど。


「あーいや、その事なんだが……」

 結太の歯切れが悪い。

 男の娘を隠して女キャラとして出る話だろうか?

 それとも、……男キャラとして出てほしいという意味なのだろうか?

 専攻キャラを演じられないというのは、さすがに可哀想だ。

 つまり、薫の才能は必要ないという事だから。


 部屋の中がシンとする。

 目線だけで薫をちらりと見ると、

 特に気にしていないとでも言うように小首をかしげている。

 不自然な間が空いた後、結太は口を開く。


「……実は、メインヒロインの候補にしようかとも悩んでいるんだ」

「「え?」」

 声がハモる。

 俺と薫は顔を見合わせた。薫は驚いた顔をしている。

 俺も同じだろう。


 結太の言葉がおかしかった事を2人で確認した後、結太に視線を戻す。


「その、なんていうか。

 『愛妹』じゃなくて『曖昧』の方に着目してさ。

 原作では、ヒロインたちとの関係性が

 煮え切らないって意味で『曖昧』をかけているけど。

 つまり、まぁ、なんていうか、……」


「性別が『曖昧』な男の娘をメインヒロインにする、ってこと?」

 言いづらそうだったので俺は助け舟を出す。

 結太はバツの悪そうな顔をして、「まぁ、そういうこと」と頷いた。

 視線を落として、机の角を見ている。


 愛妹、あいまい、曖昧。

 元々の作品がダジャレみたいなものだし、それはそれで良いとは思う。

 けれど、けれど俺が最初に思ったのは、そういう事じゃなかった。


「この前の『アイしてる』を気にし過ぎじゃないかな?」

 言おうかどうか迷ったけれど、言ってしまう。

 結太だって、創作家だ。

 ただ同意する為だけに俺たちを呼んだ訳じゃない。

 意見があるならぶつけた方が良いだろう。


「いや、そんな事は……」結太は顔をあげて、咄嗟に否定する。

 けれど、「……そうだよな」とすぐにまた視線を落とした。


「作風を変えるってなら応援するけど。

 でも、結太の魅力は基本的には王道な話だと思うよ。

 アイデアが奇抜だったりすることもあるけど、

 中身は丁寧に王道を貫いてるっていうか……」

 結太はアイデア1つでぶち上げるタイプじゃない。


「だから、まぁ考え直した方が良いんじゃない?」

 あ、と思って薫を見る。

 せっかくメインヒロインになれそうな、

 せっかくの機会なのに酷い事を言ってしまった。


「あ、いや、ごめん」

「ううん、いいよ。

 ボクも結太くんは王道っぽい感じが上手だと思うし」

 薫はあっけらかんと言った。

 でも、演技上手の薫の事だ。

 気を使っているのを悟らせないようにしているのかもしれない。


「いや、本当にごめん。そういうつもりは……」

「ふふ、気にしてないって。

 ボクだって、自分の立ち位置は理解してるからさ。

 無理にヒロインやりたい訳じゃないもん。

 優しいね、春人くんは」

 目じりを下げてにっこりと薫はほほ笑む。


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