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文化祭に向けて

 持ち前の明るい性格で、結太はすぐに立ち直った。

 次の目標は文化祭だ。

 キャラ学では重大なイベントで、

 外部の創作関係者を呼んで、制作物を発表する。

 その結果によって、プロへのスカウトされたりすることもある。

 ラノベ研では、毎年作品を制作して、上映会を行っている。

 まずは作品選びから始めなければならない。


 部室に集まって相談をする。


「ねー、結太くん。

 ボクもおいしいヒロインやりたいなっ!」

「男の娘ってポジション的に大体ヒロインだと思うけど?

 まぁ出てくる作品そのものが少ないけど」

「違うよ、全然違う。

 男の娘ってサブ扱いが多いんだもん。

 それ所か物語を引っ張る便利キャラ扱いだよ、まったく。

 メインの場合は、ライバル不在とか多いしね。つまんない」


 大げさに頬を膨らませる薫。

 そういう演技丸わかりの仕草は結太が毛嫌いしている。

 わざとらしい事するから結太に便利キャラ扱いされるんじゃないか、

 と思うのだが本人は気づいてないらしい。


 つーか、そういうワザとらしさが可愛いとか勘違いしている。

 うへー。

 ため息の代わりに会話に参加することにした。


「次の作品はハーレムなんだろ?

 だったら、とりあえずはヒロインとして参加できるんじゃないの?」

「ただのヒロインじゃ、ヤダ!

 男の娘にも、もっと夢を持たせて欲しいよ!」

「とか言ってるけど……」


「うーん、難しいな。

 やっぱさ、男の娘作品じゃないと扱い辛い。

 可愛いヒロイン演じさせておいて、実は男でした!

 なんてのはひんしゅくを買うだけだ。

 本当に脈ありヒロインとして出たいなら、

 男の娘って事を隠して女としてやって貰う事になると思うけど?」

「うーん、そうするとボクのアイデンティティがー……」

 薫は頭を抱え込んで机に突っ伏す。


「仲里先輩、今回の正ヒロインって誰なんですか?」

「うーん、基本的にハーレムの掛け合いみたいなのを

 メインにやりたいんだけど……」

「だけど?」

「正ヒロインは朋夏ちゃんかなー」

「やったー! 朋夏とお兄ちゃんが結ばれるんだ!」


 俺の袖を掴んでいた腕を頭の上にあげて朋夏は喜んだ。

 隣の唯が憮然とした顔をする。

 俺と唯は普段からカップルを組まされることが多い。


「主人公が年下だと先輩ってのも損だよなぁー。

 選ばれる機会が少なくて困るよ」

 口調の割にはニヤニヤしながら紅音先輩は言う。

 こういうのは傍から見ている方が楽しいからだろう。


「ねぇねぇ、私だって関係をかき回すだけで、

 ぜんっぜんおいしい想いさせてもらったことないんだけど」

 とビッチちゃん。もとい、八代。


「あたしだって、正ヒロインじゃなきゃひっかき回すだけよ」と唯。

「あんたはヒロインやること多いんだから、

 文化祭くらいはわき役に回りなさいよ」

「なによっ!」

「もう、うるさいわねぇ……。あんたすぐそれじゃない」

 唯と八代が言い合いを始める。

 騒がしい事この上ない。

 放っておいて話を進めることにする。


「妹が正ヒロインってのも珍しいね。どんな作品なんだ?」

「うーん、まだどうしようか迷ってるんだけど。

 『愛妹ガールフレンド』にしようかな、と思ってる。

 愛する妹、ガールフレンド。

 1年の時、課題図書として読んだでしょ、あれ」

 結太が説明を続ける。


「原作通りだと妹キャラが正ヒロインだね。

 でも、この作品の魅力ってそれこそ『曖昧』な関係性の中で

 ヒロイン同士が掛け合いをするって所だから、改変するかも知れない」


「えー原作通りやりましょうよ。お兄ちゃんと結ばれたいです!」

「私とくっつけちゃおうよ!」

「ボクも正ヒロインやりたい」

「年上の先輩と結ばれる話やろうぜー」

「あ、あたしもやりたい!」

 と、みんなが口々に意見を言う。


 文化祭はキャラ学の卒業生で、

 今現在活躍しているプロの人も来たりする。

 在校生にとっては良い発表の場なのだ。

 そこでプロダクションにスカウトされることもある。


「まぁまぁ、どうするかはまだ決めてないんで後で発表しますよ。

 古い作品だから、例えば男の娘なんてキャラいないしね。

 どっちにしろ、ある程度改変は必要だし、

 そのままやるだけじゃ評価に繋がらないから

 どうにかこうにか作り直す必要がある」


 女性様たちがあれやこれやと自分のキャラが

 有利になりそうな提案を結太に矢継ぎ早に話す。

 最終的には、創作科の彼が全てを決めるからだ。

 キャラ科の人間はそれを忠実に演じることを求められている。


 グループのみんなが「俺」こと「桐原春人」と結ばれたい、と言う。


 たまにこの学校を知らない人とか、

 創作科の人間に「うらやましい」と言われる。

 だが、そんな事はない。謙遜とか皮下している訳じゃない。

 俺らがやっているのは演劇であり、

 選ばれる演目として主人公とヒロインが結ばれる確率が高いだけだ。


 もちろん、通常の演劇でも役に徹した結果、

 役者同士が恋仲に発展することはある。

 けれど、そこに付け込むのは不誠実だし、

 そういった関係性は長くは続かないだろう。

 一緒の空間にいるから成立した恋愛は、

 そうでなくなればあっさりと消滅する。


 俺も創作の一旦を担っているからには、

 よくある事をよくある事として片付けたくはない。

 それに、俺には家庭の事情ってものもあった。

 普通の恋愛をする事は叶わない。


 女の子たちの喧騒を眺めながら、ぼんやりとそんな事を考える。


 俺が考えることは益体のない事ばっかりだなー。

 なんて自嘲していたら、

 女の子たちが「あんたは誰を選ぶの?」と聞いてきた。

 俺はそれまでの話を「聞いていなかった」と謝り、みんなから叩かれた。

 物理的な意味で。

 痛い。


 収集がつかなくなった所で部活は終わった。

 いつものように朋夏と唯と一緒に帰路につく。


 最近、朋夏の機嫌がいい。

 唯との登下校の掛け合い演劇は続いているが、

 度を越えた激しさがなくなった。

 俺が叩かれる機会も減ったので凄く良い傾向だと思う。



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新連載 『転生勇者は魔王の手先!? -チーレム勇者の異世界無双-』 開始しました!

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