ヤンデレ VS ビッチ
来たときはまばらだった部室も、徐々に部員でいっぱいになってくる。
朋夏と薫も授業が終わったようで、顔を見せた。
朋夏は目をひん剥いて、俺の隣に座っている唯と八代を睨みつける。
どっちを撃退しようか迷っているようだ。
交互に2人を見まわした後、テーブルの向いの椅子を持ってきて、
俺と八代の間に椅子を割り込ませようとする。
素直になれない性格であるツンデレよりも、
誰彼かまわず唾をつけていくビッチを懸念したのだろう。
しかし、あからさまに「ここを開けろ」と
無言の圧力をかける朋夏に対して、八代は一歩も引かなかった。
「なによ。私、桐原くんの隣が良いの。妹さん、邪魔なんだけど」
「邪魔なのは、あなたです!
朋夏のお兄ちゃんに手を出さないでください」
「おー、さっそく修羅場ってるねっ」薫は楽しそう。
こいつは何が起きても楽しいのだ。
しばらく2人でいがみ合っていたが、
朋夏は押してもまったく引いてくれない相手は苦手だ。
そして、八代はそれをニヤニヤと小馬鹿にするタイプだから相性が悪い。
八代の方が色々な意味で経験が豊富だ。
閉じた世界でぐるぐると回る朋夏では敵わないだろう。
これが唯相手だと、最終的には唯の方が
「べ、別に隣に座りたいわけじゃないし」と不貞腐れて引いていく。
ツンデレは、恋愛を真っ向から見据えられないのが弱点だ。
その癖、一挙手一投足を監視して、何かあれば暴力に訴えてくる。
女同士で争っているはずなのに犠牲者はなぜか、男の方だ。
ということでツンデレが相手ならまだしも、
ヤンデレとビッチだと本格的に喧嘩になる可能性がある。
だから、俺は朋夏の方をなだめる。八代は俺の影響範囲外だ。
俺が何を言った所で聞き入れるキャラでもない。
「ほら、朋夏。後から来たんだから空いてる席に座りなよ」
八代に向けていた殺意を俺に切り替えて睨み付けてくる。
「……じゃぁ、もうそこに座ってな。ね?」
俺は立ち上がって、朋夏の肩を掴んで座らせる。
俺と八代の席のななめ後ろくらいの所に腰を下ろさせた。
「なに桐原くん。
妹さんのブラコンまだ治ってないの?」
口を開こうとして、先に朋夏が反応する。
「ブラコンで何が悪いんですか?」
「悪いでしょ。妹のくせに出しゃばり過ぎだよ。
桐原くんの隣に女の子がいるとすぐ目くじら立てるじゃん。
みんなに迷惑なの」
「他の人なんてどうだっていいわ。
朋夏はお兄ちゃんと一緒にいたいだけだもの」
「そのお兄ちゃんにも迷惑がかかってんのよ。
あんたがいちいち騒ぐから。
これじゃぁ、彼女だって作れないじゃない」
ねぇ? と八代は俺に同意を求めてくる。
いや、あの、いきなり俺に振らないでください。
周りを見渡すと、いつも話の流れを作ってくれる薫は
ニヤニヤとみているだけだし、紅音先輩も同様に楽しそうにしている。
まぁ紅音先輩の場合は、元からかき乱すくらいしかしないけど。
唯は立場上、2人の喧嘩を止める理由が希薄だ。
「お兄ちゃんに彼女なんて必要ないわよ!
私がいるんだもの。そうでしょ、お兄ちゃん?」
肩を置いて俺に訴えてくる。
鈍感系の俺に同意を求める行為をするのはやめて欲しい。
さすがにこの流れで「今の話聞いてなかった」作戦は通用しないだろう。
俺が黙っていると、朋夏の顔がどんどん険しくなっていく。
「ほら、それが迷惑かけてるっていってんの。
あんたに何ができんのよ? 彼女にもお嫁さんにもなれないでしょ」
「なれるわよ!」朋夏は椅子から立ち上がった。
「ねぇ桐原くん。あなたの妹さん、常識すら知らないみたいね。
悪いけど、ちょっとは教育してあげないと駄目だよ?」
肩でもすくめて、俺もほとほと困ってるんだ、
とか言おうものなら朋夏の怒りのボルテージが最高潮に達してしまう。
どう言うべきか、どう演じるべきか。
頭を回転させようとするが、うまい解答が思いつかない。
「常識くらいよーく知ってるわよ。
それがなんだって言うんですか?」
「何にも分かってないじゃない。
あのね、妹ってのは彼女になれないし、Hなことだってできないし、
結婚だってできないのよ。
兄妹である以上、なーんにもできないの。
あんたにできるのは、
お兄ちゃんが他の女の子と仲良くしてるのを影から見守るくらいね」
「そんなの、全部できるわよ! だって、私とお兄ちゃんは、」
「 と も か ! 」
気づいたら、腹から大声を出していた。




