創作者の悩み!
アニメーションによるコミカルなキャラクターの後ろ姿が
グレーアウトしていく。
部室の壁面にプロジェクターがエンドロールを流していく。
壁際に一番近かった唯が明かりをつけた。
暗闇から一転して照らされる室内にまぶしさを覚えながら、
俺はプロジェクターの電源を切った。
隣に座っている監督の結太は黙ったままだ。
先ほどまで映像が流れていた壁面を凝視している。
真剣過ぎるその眼差しは、思いつめたような顔、と形容できなくもない。
「結太、あっ、いや監督。
よかったと思うよ。
この短期間で作ったにしては上出来だと思うけど」
少し心配になって声をかける。
結太は、言葉の意味を噛みしめるかのように
顎に手を当てて無精ひげを指でなぞった。
「登場人物がたった2人で、延々と口喧嘩をしているだけ……。
やりたかった事はやったけどさー、これって一体なんなの?」
なんなの、と聞かれても作った本人が分からないものを
役者として演じただけの俺が分かる訳がない。
助けを求めるべく唯の顔を拝んでみると、
「しょうがないわね」といった感じの表情を浮かべて、口を開いた。
「仕方ないんじゃない? 課題が課題なんだし。
『登場人物は2人だけ。
キャラクターの造詣に焦点をあてる』、でしょ?
他にやりようがなかったわよ。
『ツンデレが外的イベントなしで如何に自分を表現していくのか?』、
題材も悪くないと思うよ」
「それは僕も分かってるんだけど。
でも、なんというか、こう既視感みたいなのがさー……」
鈍感系主人公が専攻の俺と、
暴力系ツンデレが専攻の唯を配役に選んだ時点で、
それは致し方のない事だった。
「テンプレ的って言えば、そうだけどさ。
他のキャラクター構成よりは、見栄えもいいと思うよ。
ある意味で、『これしかない』ってのはやりきってる。
それにキャラが少ないから、
よりヒロインの心理描写を深く掘り下げてると思うしね。
割と良い評価いくよ、これ」
俺のフォロー……
というよりは、本心そのものの言葉も結太には届かないらしい。
この2週間かけた課題が、自分の思い通りに行かなかったのだから
仕方がないのかもしれない。
どうしたもんか、と唯と顔を見合せていると、
結太は急に椅子にもたれかかって腕を伸ばして伸びをした。
「まーできる事はやったし、やり直しも利かない!
次に活かすしかねーわなー。
次は女の子たくさん集めてハーレムものにしよう」
持ち前の切り替えの早さで、結太は気を取り直したらしい。
そう叫ぶと、勢いよく椅子から立ち上がり
「後片付けはしておくから、今日はもういいよ。協力、ありがとう」
と言って、プロジェクターを持ち上げた。
机には、創作ノートやら参考資料などが散らばっている。
手伝おうかとも思ったけれど、どう仕舞えばいいかは分からなかった。
お言葉に甘えて結太の創作室を後にすることにした。