可愛い妹に起こされるというアレ
俺の上に何かが覆いかぶさっている。
身体が重くて思うように動いてくれない。
手足に鎖でもつけられたように自由が制限されている。
思考をフルに回転させて、どうするかを考える。
なるべく重さを感じなくて済むように。
なるべく辛く感じなくて済むように。
そんな夢を見た。
夢の中の俺はカタチのない重圧をまとって、居心地が悪そうだった。
そして、目を覚ましてなぜそういった夢を見たのか気づいた。
朋夏が俺の上に布団を挟んで乗っかっていたからである……。
「おはよう、お兄ちゃん」
語尾に(はぁと)でもつきそうなくらい甘ったるい声で朋夏は言った。
頬杖をついている片方の腕を崩して、俺の頭を優しく撫でまわしてくる。
まだ眠気まなこな俺は、それに身を委ねるか数瞬迷って、
兄の威厳のほうを優先させることにした。
朋夏にのしかかられている中、苦労して腕を手繰り寄せる。
その過程で朋夏は「あんっ……」なんて声を出しやがったけれど無視。
男性特有の朝のアレ的なアレが反応しそうになるが、理性で抑え込む。
……のは生理的なものだから無理だとして、
そうだと悟られないように俺は済ました顔をキープする。
ようやく重さから解放された腕で、
未だに頭を撫で続ける朋夏の手を振り払う。
「おはよう。早く退いて」
布団ごと朋夏を押し返す。
朋夏は抵抗することもなく、俺およびベッドから降りてくれた。
「起こしてくれるのはありがたいけどさ。
毎回毎回、変な起こし方しないでよ。普通に起こして」
上半身だけ起こして言い放つ。
「お兄ちゃんが起きないのがいけないんだよ。
普通にしても起きてくれないもん。
揺すったり、手を握ってみたり、ほっぺ触ったり、
布団の中に一緒に入ってみたり」
「おい! 入ってくんなよ。
それが普通じゃないって言ってるの。
女の子なんだから、もっと恥じらいを持てよ」
「朋夏だって恥ずかしいよ? でも、お兄ちゃんだから……」
胸の前で手を合わせて、もじもじとさすり始める。
可愛い仕草をして、俺を誘惑しないでほしい。
「……もういいから。起こしてくれて、ありがとう。
着替えるから出てって」
しっしと手で追い払うジェスチャーをする。
「着替えさせてあげようか?」
「いや、いいから、そういうの」
まだ布団に包まれているものの、話していてだいぶ頭が冴えてきた。
これなら二度寝してしまう心配もなさそうだ。
「ねぇねぇお兄ちゃん。
なんでお布団から出てこないの? それとも、出てこれないの?」
朋夏がニヤニヤと楽しそうに俺の顔を覗き込んでいる。
小悪魔的な笑みだ。
「私が解決してあげる」とでも言い出しそうだったので、
「早く出て行って」と手を伸ばして朋夏の身体を室外へと向ける。
押し出すように力を込めると、
それに従って朋夏はドアの方へと歩いて行った。
「そろそろご飯できるから。早く起きてきてね。
なるべく早く、ね?」
はいはい、と応えて朋夏を追いやる。
扉が閉められたことを確認して、ふーっと息を吐く。
開かれたカーテンから日差しが差し込んでいて暖かい。
手を伸ばして窓を開けて、清涼な空気を大きく吸い込む。
何度か深呼吸していると膨張していた自意識がしぼんでいく。
ふぅ……。




