仲が良すぎる兄妹の夜
教科書を見るのを再開すると、
朋夏が身体を寄せてきながら一緒に教科書を覗きこんでくる。
2年の教科書ではあるが、去年もこうして一緒に教科書を
読んだので朋夏にとっては難しい内容という訳でもない。
ふと視線をあげると、
千秋もちらちらと俺の読んでいる教科書の方を見てくる。
さっきはまだ進路を決めたわけじゃないと言っていたが、
やはり気になるのだろうか。
「千秋ちゃんも一緒に見る?」と聞いてみると、
パッと視線をあげて恥ずかしそうに「いい」とだけ言った。
覗き見ていたのがバレて恥ずかしがっているのだろう。
頬が赤く染まっている。
「そんな事言わずにさ。受験勉強にもなるから。ほらほら」
そう言って、千秋にも見やすいように教科書の向きを変える。
少し強引な気もするけれど、
意図通り千秋はおずおずと教科書を眺めてくれた。
「どうせなら千秋ちゃんに似合ってそうなキャラの所を見ようか。
えーと、何が似合うかな」
クール系なのは間違いないけれど、
俺の趣味で+デレを混ぜ込んだクーデレの欄を見せることにした。
今から仕込んでおけば、すごいキャラクターになること間違いなしだ!
そんな俺の内なる思惑はいざ知らず、
千秋は真面目に教科書や俺の解説を聞いている。
ぐへへへへ。
そのひたむきな姿勢に少し罪悪感が湧き上がってきたが、
これも妹のキャラ確立の為だと我慢する。
俺と朋夏はどれなんだと質問されたので、
俺は鈍感系、朋夏はデレデレの欄を見せた。
朋夏の分類としてはヤンデレが適切だが、
朋夏は間違えた方向性でキャラを確立してしまった。
だから、チャンスがあれば逐一軌道修正を図っているのだ。
包丁とかナイフとか携帯し始めたら気が気じゃなくなる。
千秋はそういった感性が鋭いようだ。
俺の欄を見た時はこくこくと小刻みに頭を揺らし、
朋夏の欄を見た時には頭をかしげた。
そうこうしている内に、千秋の頭が船をこぎ始める。
時刻を確認すると21:30を回った所だった。
そろそろ寝る時間だ。
千秋を胸に寄せ、お姫様だっこして部屋に連れて行こうかと思ったが、
千秋の冷めた視線と朋夏の怨嗟の視線を感じて手をひっこめた。
かと言って、寝惚けて階段で転ばれても困るので手を繋いで
2階へとあがることにする。
後ろから朋夏の刺すような視線を浴びせられるが、
無視して階段をあがる。
2階は手前から順に俺、朋夏、千秋の部屋がある。
逆側の壁は、トイレ、
それから主人のいない部屋と書斎が配置されている。
千秋を自室まで送り届けて、
引き返す途中で朋夏がぎゅーと俺の胸に頭を寄せて抱きしめてきた。
ぎぅー。
「いつもの?」
「じゅうでんちゅう。
良い夢を見る為に必要なの」
そういう事らしかった。
「それとも、一緒に寝てくれる?」
何がそれともなのか分からなかったけれど、
朋夏が顔を離した隙に肩に手をやって身体を引き剥がす。
何を勘違いしたのか朋夏は期待するような顔をした。
眼を瞑って、恋人のキスを待つ女の子みたいに。
俺は朋夏の部屋の扉を開けて、肩を押して部屋に入れる。
「おやすみ」
扉を閉じる。
文句を言う声が聞こえたが、無視して俺は自分の部屋へ入る。
遮光カーテンを閉じて、布団の間に潜り込む。
今日も長い一日だった。
ぼんやりと考えている内に、意識が微睡に包まれていった。