友達一号
とりあえず見切り発車で連載始めてみました
他にも書いてみたい話とかあるので続くのか自分でも心配です(汗
「アナタ達一人相手に大勢で恥ずかしくないの?」
アレはいつの頃だったがどうか、いじめっ子達に囲まれていた僕を助けてくれた女の子が居た。
「あ? なんだよお前?」
「女は引っ込んでろよ!」
そう悪態をつくいじめっ子達に、その子は一切引かずに凛とした態度で挑んでいた。
「女だからといってアナタ達の所業を見逃すほど、私は甘くないわよ」
「うっせえこの野郎!」
そう言って殴りかかったいじめっ子の一人を皮切りに、その子は全員をの場で倒してしまった。
「あなたも気を付ける事ね」
そう言って立ち去る彼女を今でも覚えているのは助けてくれたのもあるが、何よりその子の深めに被った帽子と、真っ白な長髪がとても印象的からだ。
「ふぅ、これで全部かな」
そう言いながら今日から新しく住む下宿の一室を見渡し、僕は思わず独り言を呟いてしまった事に気付いて少し苦笑いをしてしまった。親元を離れ、少し遠めの高校を選んだのは少しでも親から独立したちゃんとした人間になろうと思ったからだが、まあ流石に引越し初日から一人暮らしに順応できるわけもないだろうから段々と慣れていこう。
そう改めて決心を固めていると、ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
「あ、はいちょっと待って下さい」
引っ越して早々誰だろうかと思いながら玄関を開けると、白いワンピースを着た女性が何やら紙袋を持って立っていた。
「こんにちは、大間悠真君でよかったよね。隣に住んでる白川吹雪です」
「あ、すいません。こっちから挨拶に行かなきゃ行けなかったのに」
「気にしなくてもいいですよ。あ、これ引越し祝いってわけでもないけど家にあったお菓子適当に持ってきたからどうぞ」
そう言って吹雪さんは手に持っていた紙袋を手渡してきたが、チラッと中身を見えた感じだとアイスのようだったのでどうやら親に買ってもらった小さめの冷蔵庫が早速役立ちそうだった。
というか何故紙袋にアイス?
「何か分からない事や困った事があったらお隣なんだし良かったら相談してね。あ、それと物騒だから暗くなったら外に出ちゃ駄目ですよ?」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
今後もよろしくと言って吹雪さんは自室に帰っていった。
今更ながらお隣さんがあんな綺麗で優しい人というのは結構嬉しいものだと思いながら紙袋からアイスを一つ取り出して食べた。まだ春先だがこの時期にアイスというのも悪くないなと思いながら残りは冷蔵庫に入れておいた。
その夜、窓の外にコンビニの看板を発見し、まだ自炊する為の食料もなかったので吹雪さんに出るなと言われたものの弁当でも買いに行くかと僕はコンビニに向かっていた。
どんなのがあるかなと考えながらそういえば隣の白川さんがアイス好きらしいからお返しにアイスも買っとくかなと思いついたその時、ふと背後から足音がしている事に気付いた。
最初はこっち方向に向かっている人かと思ったが、コンビニへの向かう僕と同じ道を通っていると気付いた時、少し怖くなった。
「……いや、もしかしたらコンビニに向かっているだけかも知れない」
また独り言を言ってしまったと思ったが、それより疑念を晴らしたく、ふと見えた自販機の前で止まり、何か買おうか迷っている振りをしながら後ろから来る人が通り過ぎてくれるのを待とうとしたが、その足音も同じく止まった。
「……いやいや」
小さくそう呟いて一応適当に炭酸飲料を買ってまたコンビニに向かい始めると、その足音もまた聞こえ始め、本格的に怖くなった。
あの足音は間違いなく僕の後をつけている。そう確信するには十分すぎる状況ではなかろうか。
そんな感じで背筋が寒くなっていると数十メートル先にコンビニの明かりが見えてきた。
「…よし」
ここで僕は一つ決心をした。いきなり走り出し、もし後ろの足音も付いてきたらコンビニに逃げ込もうと。自慢じゃないがいじめっ子から逃げている内に多少人よりかは足は速くなった。……本当に自慢できないな。
「い、行くぞ!」
そう決心して走り出そうとしたその時。
「おっと、逃がさねえよ」
そう耳元で聞こえたと思ったと同時に僕は地面にかなり強い力で押さえつけられ、突然の事に一気に頭が混乱し始めた。足音は大体だが十メートルは後ろから聞こえていた筈であり、僕が走り出そうとしているのを感づいて押さえ付けてきたとしてもあまりにも一瞬過ぎやしないだろうか。
というかそもそも何故僕をつけていたのだろうか。お金か? 生憎と親に渡された普段持った事がない額の生活費はアパートに置いている僕の鞄の中なので、手持ちは財布の中の2千円程度なのだが。
「全く、こんな夜に人間が出歩くなんて馬鹿だなぁ。もしかして自殺志願者? OKOK、殺してやるよ」
「え? 何? 殺す?!」
いきなり予想もしてなかった殺害予告された事に驚くと押さえ付けている相手は僕の様子が面白いのか、笑っていると分かる声色で答えた。
「ああ、殺すよ。だって人間は、俺の食りょ……」
と、そこまで言いかけた時だった。一陣の風が吹いたとふと思った次の瞬間。
「あぎゃあぁ!?」
何やら物々しい音と共に僕を押さえ付けていた強い力は取り除かれ、押さえ付けていたと思わしき奴が僕の目の前に転がったのだが、
「え? 何だ?」
一瞬大きな毛玉かと思ったが、それがムクリと起き上がり、人のような姿をした毛玉…というより毛むくじゃらの怪物がそこにいた。
「痛ってぇ、てめぇ何しやがんだ! 人の晩飯の邪魔すんな!」
何やらその怪物が怒鳴ると僕の後ろの方から、
「人間を食うのは禁止されている事、知らないわけはないでしょ?」
と言う女の子の声が聞こえ、まだ地面に寝転がったままの状態で後ろを見て、僕は唖然とした。
タンクトップとチノパンの上から羽織という変わった格好、その手には一見金属バットにも見える表面に突起物の付いたおとぎ話に出てくるような金棒、そして深めに帽子を被ったどこか見覚えのある白い長髪女の子がそこに居た。
そしてその姿に驚いているのは何やら怯えた感じだが怪物の方も同じらしかった。
「あ、いやその……ほら、こんな夜更けに人間が一人で出歩いてちゃ危ない奴に食われるかも知れないだろ?」
「へえ、ならつまりさっきの晩飯っていうのはどういう意味かな?」
……どこまで見てたのか知らないけど、押さえ付けられる前に来て欲しいかったな。
「こ、言葉の綾さ」
「まあ、どっちにしろ…」
次の瞬間、女の子は物凄いスピードで僕の方、つまり僕の向こうの怪物の方に突撃した。
「懲罰対象だよ」
「あ、あの助けてくれてありがとうございます!」
「いいよ、あたしの仕事だから」
僕がお礼にさっき買った炭酸飲料を渡すと一気に飲み干し、白髪の少女――鬼倉加奈さんは素っ気無くそう言った。
「仕事? あの怪物を追い払うのが?」
「怪物じゃなくて妖怪よ。因みにさっきのは猩猩という猿の妖怪なんだよ、ゲッフ」
あ、締めでゲップしちゃったよこの子。まあ炭酸飲料を一気飲みすれば出るよね。
「ん、ぅん! え~とにかくこの綾霞市は古くから妖怪の隠れ里として存在していたの。基本的に人と共存してるんだけど、妖怪の中にはさっきみたいに人を襲っちゃうのもいるんだよね。私はそういった妖怪から人間を守る組織の手伝いをしているの」
こう言っちゃなんだが、えらく物騒な手伝いだな。
「まあ時折貴方のようにここがどんな場所かも知らない人間が紛れ込む事もあったみたいだけど、その殆どはうまく外に出されるか、全部知った上でここで共存するらしいよ」
正直信じ難いけど、さっきの猩猩とか言う妖怪に襲われ、それを一発でノックアウトさせたこの鬼倉さんが目の前に居る以上とりあえず絶対嘘だと言う確証もない。
「あ~ところで鬼倉さん? 一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「ん? なにかしら?」
「昔僕と会った事ない? 僕がいじめられている所を助けてくれたと思うんだけど」
こんな白髪の女の子がこの世にそうそう居るとも思えないし、さっきみたいにピンチな時に来てくれたシチュエーションが何となく重なって意を決して尋ねてみると、鬼倉さんはあっさりとこう言った。
「多分違うと思うよ、あたしこの町から出た事殆どないし、大体あたしそういう弱虫は見るのも嫌だし」
「あ、そうですか…」
何だか自分が責めれられている気分だなと内心気落ちしていると、
「あ、居た居た。加奈さ~ん」
不意に上から声がしたので見上げてみると、背中に黒い羽が生えた何やら昔っぽい服装の女の子が降りてきた。
「あらカスミ早かったわね」
そう言いながら鬼倉さんは持っていた炭酸飲料の缶を両手で簡単に潰し、ゴミ箱に投げ入れた。
……缶ってあんな綺麗に潰れるものだっけ?
「当然ですよ、人が食われかけるなんて面白…いえ、大変な事態が起きたのですから」
今面白いって言いかけた、絶対言いかけたよこの人!
「まあとにかくアレ連行するから適当に縛っといてくれる?」
そういえば言い忘れたが、僕を襲ってきた猩猩という妖怪は僕らの横でまだ気絶している。まあ目の鼻の先とはいえ一切言及したくもないのは察して欲しい。
「あら~これまた一切手加減なしですね。骨は折れているかもしれませんね」
「お灸には丁度良いでしょ」
というかあれはただ殴り飛ばしたしただけに見えたのだが、よく考えたら数十メートル先のコンビニまでただのパンチでここまで飛ぶものだろうか?
「あ、貴方が今回の被害者になりかけた人間さんですか。私は見てのとおり烏天狗の鞍馬カスミと申します」
「こ、こちらこそ申し遅れました。僕は大間悠真っていいま……って何ですか?」
やたら鞍馬さんが僕の顔を覗き込んできたので思わず仰け反ると、鞍馬さんは何やらニンマリと笑った。
「大間さんですか、こう言っては何ですが私たちを見てそんなに驚かれていないようですね」
「……最初からかなりのびっくりに遭いましたから」
正直あんな毛むくじゃらに比べれば人の姿をしている彼女らの方がまだ妖怪としてというより変な格好の人だと思えるから驚きもどうにか半減しているのが現状だ。
「ですがこの程度で驚いていてはこの街じゃ心臓が持たないと思いますよ」
「……ですよね」
むしろ自分でもよく落ち着けているなと思う。
「とにかくこの人駐在所まで持っていきますからあなたはもうお帰りなさい」
そう言うと鞍馬さんはどこから出したのか縄を持ち出し、猩猩をグルグル巻きにし始めた。
「まあそういうことだから私たち行くね」
そう言うと鬼倉さんはグルグル巻きにされた毛むくじゃらの物体を片手で持ち上げ、とても重いものを持っているとは思えない足取りでスタスタと歩き、鞍馬さんはその後を少しだけ飛びながら付いていき、僕はその光景を改めて信じられないなと見ていると、不意に鬼倉さんがこっちを振り向いた。
「あ、そうそう。私の事は鬼倉じゃなくて加奈って呼んでね、祐麻君」
最後に加奈さんは笑顔でそう言い、二人は去っていった。
翌日、僕は入学した鬼怒川高校の校門の前に立っていた。新入生を迎えるに当たって鮮やかな花の飾りのアーチが校門に飾られており、そのアーチを僕と同じ新入生や在校生がくぐっているが、何故僕がその門をくぐらずに目前で立ち止まっているかと言うと、
「お早う、悠真君」
何故か加奈さんが満面の笑みで校門になって僕を待ち構えていたからであった。ちなみに流石に格好はこの学校の制服であったが、見たところ新しいので僕と同じ新入生であるようだ。ちなみに昨日と違い、女の子らしい格好なせいかかなり可愛く見えるのは他言無用だ。
「お、お早うございます」
思わず敬語で答えると加奈さんは可笑しそうに笑った。
「ふふ、別にかしこまらなくても良いわよ。ちょっとアナタともう少し話がしたくなったのよ」
……来たのか、ついに僕にもモテ期などという幻の黄金期が!
「まあとにかく入りましょう、ずっと校門に立っているのもなんでしょ?」
「そうですね」
なんだかもう人生の何らかのベクトルが良い方向に向き始めた気がしてきた。やはりちょっと遠めの高校選んで良かった。
「とりあえず、これ」
そう言って加奈さんが差し出してきた手には120円が乗っていた。
「昨日はジュースありがとうね」
「いやいや、助けてもらったのにジュース一本の方が悪いですって!」
確かによく考えたら命の恩人にジュース一本おごるだけというのは虫が良すぎるじゃないか。
「むしろ、何でも頼んでください! それだけの事をしてもらいましたから!」
思わず気合を込めてそう言うと、加奈さんは苦笑しながら、
「まあ、何かあったら頼る事にするわ。とにかくありがとう」
そう言って貰ったら本望です。
「あ、そうだ。じゃあ早速一つお願いなんだけど」
「はい、何でしょう」
僕はなんでもやってやろうという気概で加奈さんの次の言葉を待った。
「友達になってくれない?」
「是非とも!」
「は、速いわね」
そりゃあそうですよ、流石にまだお付き合いなんてのはモテ期(多分)の僕でも心の準備が出来ていない。まずお友達からでも距離を縮めよう、うん!
「僕も加奈さんとはお友達になりたかったので!」
「……君、昨日とキャラが変わってない?」
気にしないでください! ぶっちゃけ作者も探り探りです。
「まあいいわ、これでまず一人目ね」
「一人目? どういうことですか?」
僕がそう尋ねると加奈さんは何やら不敵な笑みを浮かべて目の前の鬼怒川高校の校舎を指差した。
「いちねんせ~いになった~ら、いちねんせ~いになったら~♪ 友達百人できるかな~♪ って歌あるじゃない? 私あれを小中で達成したから高校でもやり遂げたいの」
いきなり歌いだした事はまあ彼女自身気にしてないようだが、正直横の僕の羞恥心は多分人生のベストテンに入っている。ちなみにトップは中学の頃に文化祭のカラオケ大会で女の子向けのアニメの主題歌歌わされた事である。
「って、よく考えたら一つの学校で友達百人は難しくないですか?」
「初日の朝から一人目をゲットしたのよ? 楽勝よ」
ああ、そうかと僕はやっとというか、悟るしかなかった。
この鬼倉加奈さんは少しばかり面白い人なのだと。
「あ、そういえば昨日の鞍馬さんはお友達なんですか?」
「ええ、彼女は記念すべき小学校のお友達第一号よ」
……鞍馬さん、僕は今あなたをなんだか心の底から尊敬したくなりました。