とあるダンジョンの日常
ダンジョンといえば、剣と魔法が繰り広げられる舞台の一つ。
あるいはダンジョンメーカーによって作られ、冒険者を返り討ちにする装置。
どの道、ファンタジー作品には欠かせないステージだと私は思います。
いいですねぇダンジョン。浪漫があって(笑)
ですけど当作品は、あらすじにあったように、中二的な物は一切ありません。
モンスターもダンジョンもありますが、白熱のバトルがあるわけでもありません。
あくまで自然の一つとして対処している世界の一片を描いた物語です。
それでもよろしければ、どうかお読みください。
楽しんでもらえれば幸いです。どうぞ!
世界には、ダンジョンと呼ばれる地形が存在している。
遥か昔に栄えていた古代都市が、大規模な自然災害によって滅ぼされ、自然の一部として地形化したものだ。
ダンジョンと聞いて人々が浮かんでくるのは、モンスターの巣窟というイメージだろう。
そのイメージは間違ってはいない。
実際、世間はダンジョンの定義の一つとして「2種類以上のモンスターが生息していること」が挙げられている。
では何故、ダンジョンにモンスターが住み着くのかを考えたことがあるだろうか?
答えは簡単だ。動物やモンスターにとって居心地が良いからである。
入り組んだ地形……例えば遺跡の残骸や樹海の中など……なら、小型の動物やモンスターが多くなる。
捕食者である大型モンスターから逃げやすく、巣となる空間や餌となる物が豊富で過ごしやすいのだ。
また、小型モンスターが繁栄すれば、例え捕獲しにくくとも大型モンスターが集まってくるのは当然の流れ。
そして動物やモンスターの糞尿が大地に撒かれた種子に栄養を与え、それが草木となって豊かな自然を育む。
そして必然と自然が広がっていき、その恵みを求めて人々が集い、集落を築いていく。
ある集落は名のある王国となり、ある集落はのどかな農村となって、人々の心と体を癒した。
モンスターという脅威はあるが、下手に刺激を与えない限りは大人しい為、割と問題が無い。
むしろ、自らの利益を上げるべく戦争を起こそうとする前にモンスターに襲われたケースの方が多い。
その回数は、歴史の恥さらしとなった私利私欲で戦争を起こす愚か者の人数と、それにより救われた国の数に比例する。
よって、人々が暮らす都市や村の近辺には、必ずと言っていいほどダンジョンが存在する。
時には恵みを与える土地であり、時には国を守る最高の防壁となり、時には愚か者を粛清する枷となる。
モンスターの巣窟というデメリットはあるが、無闇に刺激を与えない限りは安全だ。
そんなバランスの取れた世界だからこそ、世は平和に満ち溢れていた。
戦争もない。強大な悪もいない。当然ながら勇者もいないし英雄もいない。
あるのは、スリルとサスペンス、血沸き肉踊る冒険と、お宝と、それに挑む冒険者ぐらいか。
(ちょっと聞いていないよ、母さん!?)
僕こと、アダン=ミーンリィ(19・男)は、崩れていた壁に背を当てて必死に息を殺していた。
荒げそうになる呼吸を懸命に抑え、静かに深呼吸をしながら、全身の感覚をフル稼働させる。
壁越しに居るであろう、ダンジョンの奥に潜んでいた怪物から身を隠す為に。
(なんでこんな田舎村のダンジョンに、オオリュウモドキトカゲがいるわけ!?)
―オオリュウモドキトカゲ。
竜のモドキというように、そいつはドラゴンのような姿をした、全長7mという巨大なトカゲだ。
元々ドラゴンというのは爬虫類から進化したとされるモンスターで、その祖先がこいつだという。
祖先って言うからには大昔にも生息していたんだけど、今でもバリバリの現役。
僕達ダンジョントレジャーにとって登竜門、いや羅生門とも言える凶悪モンスターなのです。
確かにこのダンジョンは鉱山の洞窟だから、オオリュウモドキトカゲには好ましい地形だろうけど!
この洞窟のおかげで石炭や鉱石が取れて、それらが僕らの村を潤してくれているんだけど!
どうしてこんな大切なことを事前に話してくれなかったのさ、母さん!?
むしろ母さんも知らなかったのか!?最近になって居ついたのか!?
ちらり、と僕は壁の向こうにいるはずのオオリュウモドキトカゲに目を向ける……うわぁ……いるいる。
薄暗くても割と広い空間のど真ん中で、長い体を巻いているオオリュウモドキトカゲが眠っている。
洞窟を好むオオリュウモドキトカゲには翼が無い。本物の竜と比べると体は小さいし、火も吹けない。
その代わりと言っては難だが、小さな盾のような大きい鱗が並び、どっしりとした四肢の先には鋭くも太い爪が並んでいる。
若干長い首の先には鏃のように尖った顔があり、その大きな口には小さな牙が並んでいる。
ドラゴンの面影があるとはいえ、よく見ればやはりこいつはトカゲなんだぁなって思える。
……暢気に観察して現実逃避している場合ではありませんでしたね。解かっていますとも。
僕が求めている……正しくはトレジャー修行の最終試練クリアの為に必要な宝はその奥にある。
ダーキ鉱石……綺麗なオレンジ色をしている石で、その高い硬度によって作られた防具は中々のお値段で売られている。
もちろん貴重品なのだが、このダンジョンでは結構採れるので、これを目当てに他方からのトレジャーが集ってくるほどだ。
そんなレア物があるにも関わらずここのダンジョンの難易度は割りと低い。
入り組んでいるとはいえ大雑把だし、出てくるモンスターも平凡で大人しいものばかり。
岩に似た岩石虫、穴を掘り進んで行動範囲を広げる土木蟻、それらを捕食する大型のイワハダガエルが主なモンスターだ。
恐れるべきモンスターといえば、少量の血を吸う吸血蛇か、噛まれると超痛いショウグンムカデぐらいかな。
そんなんだったから、元一流トレジャーだった母さんから「最終試練」としてこのダンジョンに潜り込ませたんだけど……。
挑んだことがある母さんといえども、流石にこれは予想外だったろう。引退してからのブランクって怖い。
オオリュウモドキトカゲはグウグウ眠っているけど、あそこを通るには勇気が居る。
別にオオリュウモドキトカゲは僕を獲って食べるわけではない。奴らにとって僕ら人間はマズいらしいし。
奴は寝起きと寝相がすんごい悪いことで有名らしく、僕はそれにビビっているんだ。
寝ていれば寝返りや寝言(寝咆哮?)で脅かすし、起こしてしまえば長く太い尻尾を振って排除しようとする。聞いた話だから定かではないけど……。
少なくとも、目の前のオオリュウモドキトカゲがゴロゴロと転がっているから、間違いない話なのだろう。
(さーて、どうしようかなぁ……)
ここで逃げる、というのが選択肢として一番安全なのだろう。
ただしそれは、ダーキ鉱石を手に入れず、ほどほどな手土産しか持って帰れないということ。
そんなことをすれば僕は殺される―――母さんの手によって。
(うん。俄然やる気が出てきた)
母さんの『私の祖母より代々受け継がれ虐げられてきた超絶痛い拳骨』に比べれば、あんなトカゲぐらい。
急に恐怖心が衰えた僕は、よく眠っているオオリュウモドキトカゲの鼻提燈を確認してから、身を潜めつつ移動する。
壁よりに移動すれば、万が一起きても尻尾は届かない。この調子なら行けそうだ。
―そして僕はついに手に入れたぞ……ダーキ鉱石を!
実際に手に入れるのは始めてだけど、本当に呆気なく見つかった。
洞窟の奥にたどり着いた途端、空間いっぱいにダーキ鉱石が埋めこまれていたんだもん。
これ本当に世界から見て貴重な鉱石なのだろうか?ってぐらいに沢山。
まぁこんなに広いダンジョンの中でもここしか取れないって考えれば、妥当かな?
目的のものを手に入れられたこと、これで母さんから殺されずに済むと思ったことにより、僕は安堵感を得ていた。
思わず軽やかな足取りでこのダンジョンから出て行こうとして……僕は動きを止めた。
だって、オオリュウモドキトカゲが正面を向いて僕を見ているんだもん。
(ま、まるでルビーみたいな目をしているんですね、オオリュウモドキトカゲさんって)
あは、あはは、笑いしかこみ上げてきませんよ。いやー、参ったな……。
―グオオォォォォォ!!!
「ひいいぃぃぃ!お、お邪魔しましたぁぁぁぁ!!」
安眠を妨げちゃってごめんなさい!けど不可抗力なんですー!
そう考えながら僕は、背後からドシンドシンいって追っかけてくるオオリュウモドキトカゲから逃げる。
自慢じゃないけど、逃げ足の速さなら村で一番さ!これも母さんの教育の賜物!
「グゴアアァァァ!」
「ひゃあぁぁぁぁ!?」
怒ってる!オオリュウモドキトカゲの怒りがヒシヒシと伝わってくるほどに怒ってるーっ!
せめて一発ぶん殴らせろ!と言わんばかりの八つ当たりっぽい何かも伝わってくるし!
とにかく逃げないと……って、げぇーっ!?あそこに居るのは、オオクログマ!?
オオクログマは昔からこの洞窟の支配者として君臨している、その名の通り黒くて大きな熊だ。
秋になると食欲により危険、冬になると冬眠しているが起こすとさらに危険と、どの道危険なモンスターである。
大抵のトレジャーはこいつを無視していく。普通、人間が挑むべき相手じゃないって。
ちなみに今の季節は夏。
オオクログマは暑さで苛立っていて大変危険……あんま変わらないか。
じゃなくて、どうすんのこの事態!?
後ろには這うようにして走るオオリュウモドキトカゲ、目の前にはこっちを見ているオオクログマ!
これってメチャクチャピンチじゃないですか、ヤダー!
……かと思ったら、オオクログマも血相を変え、後ろを向いて走り出しました。
そっか。クマとトカゲとはいえ、全長7m以上のトカゲを見たらそりゃ逃げるよね。
しかも相手はオオリュウモドキトカゲ。ドラゴンに匹敵する相手なんだから当たり前か。
こうして、僕とオオクログマはダンジョンの出口まで走り続けました。
オオリュウモドキトカゲの最大の弱点……それは意外にも、日の光なのです。
完全に洞窟に適応していないとはいえ、薄暗い洞窟に住み続ければ目も衰えるというもの。
真夏の日差しを目にしたオオリュウモドキトカゲは驚いて洞窟の奥に逃げ出す始末。
ちなみに、何気に知能が高いオオクログマは、共に逃げてきた僕に奇妙な友情を感じたらしい。
洞窟に住むホラアナバチの巣から採取した蜂蜜を上げることで許してもらい、そのままお帰りしてもらった。
つくづく思うが、モンスターっていうのは不思議な生き物だな。
この後、無事に村へと帰宅し、お求めの品を納めることで母がトレジャーとして認めてくれた。
母が「今夜は贅沢できるな」と喜んでいたから、良しとしよう。拳骨も無いし。
ちなみにオオリュウモドキトカゲの情報を村に伝えたけど、評判の良くない不良トレジャーだけが鼻で笑った。
まぁ、村の皆は信じてくれたからいいけど……あまり調子に乗って笑わない方がいいよ?
フラグ立っちゃうから。
後日、全治一ヶ月の大怪我を追った不良トレジャーが入院した。
話によるとオオリュウモドキトカゲにやられたらしい。言わんこっちゃない。
―完―
名称:オオリュウモドキトカゲ
種族:爬虫類蜥蜴目
特徴:竜に告示した姿・硬い鱗・長い尻尾・強靭な四肢
竜の祖先にあたる巨大なトカゲ。その姿を維持したまま大昔から生き永らえてきた。
洞窟を主な生息地としており、翼は無いものの、長時間走り続けるほどの高い体力を持つ。
時にオオリュウモドキトカゲは、別の洞窟へ引っ越す為、長い旅に出ることもある。
名称:オオクログマ
種族:哺乳類熊目
特徴:真っ黒な毛・赤い目
主に洞窟に生息する、全長3mの巨大な熊。雑食性で何でも食べる。
怒りやすい性格だが知能が高く、人の言葉をある程度なら理解できる。
場合によっては食べ物で許してもらえることがある為、出会ったとしても落ち着いて対処しよう。
恐竜は鳥に進化したと言われるので、鳥にすればよかったかなぁと考えていたりします。
けど舞台が洞窟だったのでトカゲになりました。鳥だと狭いでしょうし(笑)
そんなこんなで、ダンジョンや冒険というよりはトカゲがメインになってしまいました(笑)
主人公は元から影が薄いので良しとして(滅)
いかがでしたか?こんな平和な世界ですが、楽しんでいただけたでしょうか?
以前は二次創作でモンスターのほのぼの作品を書いていたので、今回もその流れにしてみました。
はっきり言いますと、こういった作品を書いているときが私的には楽しいです(笑)
ですが読者の皆様はどうでしたか?剣と魔法ぐらいはあった方が盛り上がるでしょうか?
酷評でも構いませんので感想をいただけるのなら、是非ともお願いします。
では改めまして……読んでくれてありがとうございました!
またどこかでお会いしましょう。ではでは。