いわく付き物件
バッドエンドバージョンです
今日はリンちゃんにプレゼントを買ってあげようかと思っている。
そんな訳で、俺は今その店屋にいる。
これならいつでもリンちゃんの姿を見れるってわけだ。
俺天才!
さて、ネコ耳カチューシャも買ったし、帰りますか。
急いで家へと帰る。
「リンちゃん、ただいま。プレゼント買ってきたよ」
反応はない。まぁ、反応も何も声は聞こえないんだからな。
とりあえず買ってきた物を机に置き、袋から出すように言ってみる。
がしかし、やはり反応はない。
「リンちゃん…? か、かくれんぼのつもりかい?」
ある程度、わかってはいた…。でもそれを認めるわけにはいかなかった。
台所、風呂場、寝室。家の中全部探した。
家から出れないリンちゃんが、外にいるわけがない。
どこに…どこに行ったんだよ…。出てきてくれよ!
血眼になって探したかった。でもどこを探せっていうんだよ。
足の力が一度に無くなり、その場に倒れこむ。
そのまましばらく動けなかった。気が付けば、外は暗くなっていた。
「戻って来てくれよ…リンちゃん…」
呼んでも戻ってこないことはわかっていた。
でも、呼ばずにはいられなかった。
夜も明け、空は明るさを取り戻していた。
足に力は入らないはずなのに、俺は外を歩いていた。
行く当てはない。
リンちゃんの気配を感じたかったのかもしれない。
交番の前を通った時、警官に呼び止められた。
ヤク中の人とでも間違われたのだろう。
そんなに俺は死んだ顔をしているのか。そんなに俺は…。
事情を言っても信じてくれるわけがないので、適当な嘘をついた。
すると警官は、家に帰れと言う。
…リンちゃんのいない家に帰ったって…。
言われるがまま、俺は家へと歩を進めた。
静まり返った家の中。
振り向けば、そこには紙切れが浮かんでいるよう。
ふと見た下駄箱。
見慣れたメモ帳が置いてあった。
そこには、たった一言。
『おわかれのじかんです』
認めたくなかった。認めることなんて出来なかった。
目の前が真っ暗になったのは、これが初めてだった。
急に視野が狭まったと思うと、意識まで持って行かれた。
寝すぎると、リンちゃんが起こしてくれる。
そう、甘い考えを持っていた。
寝て起きれば、リンちゃんがいる。
そんな甘い現実を望んでいた。
ハッピーエンドなんて存在しない。
現実はいつだって冷酷だから。
むしろ、今までがおかしかったのかもしれない。
幽霊との生活なんて。どう考えたっておかしかった。
でも、それは現実だった。その現実が甘すぎたんだ。
これで普通の生活に戻れる。一番幸せなことじゃないか。
おいしい手料理もない。楽しい会話もない。
冗談を言って、困らせて笑いあうこともない。
ようやく…現実に戻れたんだ…。
あれから2年が過ぎた。
あの時のことは、今でもしっかりと覚えている。
同い年の彼女もできて、不満のない生活を送っていた。
偶然か必然か。それとも、あの子の仕業なのか。
彼女の名前は『夏鈴』
元気ハツラツ。いつも周りを明るく照らしているような存在。
「リンちゃん、今日はどこ行く?」
もちろん、彼女のことは『リンちゃん』と呼ばせてもらっている。
彼女がいなかったら、俺はきっと立ち直れなかっただろう。
「私、あなたの家に行きたい!」
…俺の家か。ま、いいだろう。掃除はしてないから、驚くだろうな。悪い意味で。
玄関を開けると、あの時と変わらないまま。
下駄箱の上のメモ帳は、一番上の部分だけ破られ、真っ白の状態。
あの子が使っていたシャーペンも、机の上に置いてある。
心の中で、いつか戻って来るんじゃないかと思っていたから。
戻ってきたら、三人で生活しようと思って。
「えへへー。おじゃましまーす」
ちなみに、彼女を俺の家に呼ぶのは初めて。
今までは、何かと理由を付けて断ってきた。そんなに長く付き合ってるわけでもないし。
それに、あの子のことも話してはいない。
どうせ信じてはくれないだろうと、一人で決めてかかっていた。
しかし今日、踏ん切りがついた。
あの子と生活していたこの場所で、打ち明けようと思う。
彼女を居間へと案内し、机にお茶を出す。
そしてついに話を…。
「あれ? このシャーペン、見覚えがあるような…」
…? いやいやまさか。このシャーペンは、どこにでも売ってるものだし。
見覚えがあるのも当然だろう。
「それに、初めて来たとは思えないような…」
…いやいや…嘘でしょ? リンちゃんの訳がない…。
だってリンちゃんはあの時…。
「リンちゃん…?」
声は無意識に出ていた。
「何?」
「あ、いや…。そっちじゃなくて…。順を追って話すよ」
幽霊少女との生活、幽霊少女との別れ。全部話した。
最初は信じてくれなかったが、俺のあまりの真剣さに気付いてのか、茶化さずに聞いてくれた。
もしかしたら、彼女はリンちゃんの生まれ変わりじゃないかと、話しているうちに思えてきた。
それなら一層、彼女を大事にしようと誓った。
もう二度と、リンちゃんを手放さないために。
そこで俺の意識は、ようやく戻ってきた。
玄関の段差を枕にするように寝ていたらしい。
目の前には下駄箱が大きく見えた。辺りは暗かった。
自分でも言ったじゃないか…。現実は冷酷だって…。
立ち上がる気力もなく、再び目を閉じた。
もういっそのこと死んでしまおうか。
夢の世界で生きられるなら、こんな冷たい現実の世界で生きるよりマシなのではないか。
運が良ければリンちゃんに会えるかもしれない。
俺は台所へと足を動かした。
リンちゃんがいつも使っていた包丁を手に取った。
「リンちゃん…会いたいよ」
その家は再び『いわく付き物件』となった。
補足…いらない?
まぁ、最後は主人公がアレしたということで。
次はヤンデレエンドを書く予定です。
ただし予定に変更は付き物です。