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リンちゃんの看病

またクリスマス。

今回のクリスマスは、リンちゃんに看病してもらう事にしました。

「…」


 これはいったいどういうことだ。


 朝起きて、いつも通りにリンちゃんを呼ぼうとしたのに、声が出ないではないか。


 マズイ。


 このままではリンちゃんとの会話が楽しめない。


 それに今日はクリスマスだ。


 こんな大切な日に風邪で声が出ないなんて、リンちゃんが知ったら悲しむだろう。


 意地でも声を出そうと、喉に鞭打って強制労働を試みるも、出てくる声は声とは言えない。


 もはや妖怪がすすり泣くかのような音を立てていた時、目の前に一枚の紙が浮いていた。


 『風邪ですか? ゆっくり寝ていた方が良いと思いますけど…』



 バレた。



 「でもクリスマスだし、今日くらい大丈夫だよ!」と言おうとして、再び奇妙な音が鳴る。


 一瞬目の前が歪み、力なくベッドに舞い戻ってしまった。


 『大丈夫ですか? 顔が赤いですけど。もしかして、熱があるんじゃ』


 書かれた紙を俺に落として、タンスの引き出しが開いていく。


 おそらく体温計を探しているのだろう。


 生憎だが、そんな滅多に使わない物は置いてない。


 どこをどんなに探しても、見つかるはずがない。


 と伝えたくても、声は出ないし…ジェスチャーしか…。


 ふと、近くに落ちていた紙切れが目に入る。


 さっきリンちゃんが書いた紙だ。


 裏はまだ使われていない。


 あとは何か書く物さえあれば…。


 近くの机には出しっぱなしにされたシャーペン。


 いつもはリンちゃんが片付けてくれるはずだが、これはラッキーだ。


 立っている感覚さえ危うい程だが、なんとか倒れずに取ることが出来た。


 取るまでは倒れなかったが、取った後はベッドに崩れ去った。


 タンスの動きが止まると、メモ帳とシャーペンが動き出す。


 おそらく、再びベッドに倒れる音を聞いて、心配してくれているのだろう。


 だが、リンちゃんが丁寧な字を書いて俺に見せるまでにはラグがある。


 俺ならその倍は早く書くことが出来る!


『だいじょうぶ』


 …我ながら、風邪を引いているとはいえ酷く汚い。


 とりあえず読めるので、それをメモ帳の浮いている方へと向ける。


 すると、動いていたシャーペンが一旦止まり、再び動き出す。


 メモ帳は一枚めくられて新しいページとなっているようだ。


 『体温計はどこに?』


『ごめんね。買ってないんだ』


 『え…? じゃあ、どうすれば…』


『風呂桶に水入れて、あとタオルもお願い』


 メモ帳とシャーペンは飛んで行き、テーブルに置く音が聞こえた。


 リンちゃんとの筆談か…。


 まさかこんな日が来るなんて思わなかった。


 でも、少し…かなり新鮮で良いものかもしれない。


 リンちゃんと同じ境遇になれた、この同一感。


 ベッドの上で仰向けになりながら、病人のクセして以外に元気が有り余っていた。


 それに、リンちゃんから看病してもらえるなんて。


 こんな事ならナース服でも買っておけばよかった。


 コスプレをしたリンちゃんの姿を想像しつつ、メモ帳にペンを走らせた。




 やがて、ゆっくりとした調子で水の入った風呂桶とタオルがやってくる。


 俺の隣にそれらが置かれると、タオルを水に浸し、滴り落ちる水滴の音が聞こえる。


 冬場の水は冷たいのに、文句一つ言わずに看病してくれる。


 俺の額にヒンヤリと、温かいリンちゃんの愛情を感じるタオルが乗せられる。


 それが終わると同時に、先ほど書いておいたメモ帳の紙を渡す。


『ありがとう、リンちゃん』


 普段恥ずかしくて口にできない事も、文字にすれば大丈夫。


 …気がする。


 照れているのか、メモ帳とペンは浮かんだまま止まっている。


 顔を真っ赤にして思考停止しているリンちゃんを想像すると、悶えそうなくらい可愛い。





 しばらく眠っていた。


 有り余る元気はどこへやら。


 水分を多く含んだ雪のように、あっという間に地面に着いてしまった。


 額に乗せられたタオルは、まだ冷たいままだった。


 いや、まだではない。


 『うなされていたようですけど、大丈夫ですか?』


 風呂桶に入った水は減っており、タオルは冷たい。


 つまり、隣にいてタオルを代えてくれていたという事になる。


 優しすぎるリンちゃんの愛情は、涙となって現れた。


 涙を流せばメモ帳が動かない訳がなく、俺の事を心配してくれている様子である。


 それよりも俺が一足早く文字を書き上げ、力なくそれを上に上げる。


『平気。それより、リンちゃんの手料理が食べたいなぁ』


 ホントは食欲なんてないんだが。


 あまりリンちゃんに心配かけさせるわけにもいかないし、そう言っておいた方が安心できるだろう。


 『わかりました。おかゆ作ってきますね』


 紙を見せたあと、その場に置いて台所へと向かっていったネコ耳カチューシャ。


 部屋に一人残される。


 自分の書いた紙とリンちゃんが書いた紙を見比べて、自分の字の汚さを改めて実感する。


 隙間が綺麗に空いていてバランスが良い字と、大きさが不揃いでバランスの悪い字。


 お粥が出来るまでの間、余った紙に文字の練習のために文を書いてみた。


 恥ずかしくて見せれるような文章でもないけど。


 一枚書いては丸めてゴミ箱へ。


 時間潰しのために書いていただけだった。





 そう遅くない内に食事が運ばれて来る。


 リンちゃんと一緒にやろうと思っていた鍋パーティ用の土鍋にお粥が入っている。


 初めての仕事がそれだとは…お前に同情するよ。


 『熱いですから気を付けてくださいね』


 丁度よく一人分ほどの量である。


 冷まして食べてみると、病人に優しい塩加減である。


 まったく…どこまでも優しすぎる…。


 食欲がないと言っていた割に手が進んでいき、気付いた頃には土鍋の底が見えていた。


「やっぱり…んちゃんの料理はさ…こうだよ」


 …あれ?


 まだ調子は悪いものの、声を取り戻すことが出来た。


 このお粥には不思議な力でも宿っていたのだろうか…。


 『良くなってきたみたいですね。お薬もないようなので、安静にしていてくださいね』


 ベッドに横になると、丁寧に布団がかけられる。


 寝る前に一言だけ言いたい。


 リンちゃんに感謝の言葉を。


「好きだよ、リンちゃん」


 『またそんなことを』


 照れているのか、いつもより字が乱れている気がする。


 ツンデレリンちゃんもあり、か。




 ゴミ箱には、丸められた紙に、俺が口に出したセリフと同じことが書かれていた。

前回の更新から1年…。

大変長らくお待たせいたしました。


見たら分かると思うとおり、ネタも執筆意欲もほとんど残っておりません。

つきましては、あと1話で完結にしたいと思っております。


…最終話はやりたい放題やらしてもらうがなっ!

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