リンちゃんとの初めて
クリスマスの1時間フライングスタート!
タイトルは「のクリスマス」と続きます。
「ひゃっはー、買ってきました。ネコ耳カチューシャ」
ハイテンションのまま帰宅。
途中で恥ずかしかったが、無理やりテンションを維持させたのは内緒。
リビングに向かうと、すぐにメモ帳が飛んでくる。
『何か、いやらしい事、考えてませんか…?』
「…な、何をおっしゃる。そんな事は考えておりませんぞ?」
一体リンちゃんは今、どういう目で俺を見てるだろう。
蔑むような目で俺の事を見下しているのだろうか。
そう思うと体が勝手に…いかんいかん。つい癖で。
『それで、その持ってる物は何なんですか?』
「よくぞ聞いてくれました! これはなんと…!」
ゆっくりと焦らすように取り出す。
そして、ネコ耳が見えだしたところで一気にそれを出した。
きっと呆れ返ったいるだろう。
だがしかし、このアイテムは非常に重要な物なのだ。
「さぁ、晩御飯でも作ろうか!」
手に持ったそれを強調して言った。
『もしかして…』
わかってくれたようだ。
作ってもらおうか、ネコ耳の幽霊メイドさん。
納得したのか諦めたのか、ネコ耳は浮いて台所へと飛んでいく。
そうしてしばらくすると、見事な晩御飯が宙を舞って登場する。
白い皿に乗せられた料理は、机に着陸する前に、俺に被弾した。
熱さを感じないものの、それは本当に一瞬だけだった。
「あっつぁぁぁぁぁ!!」
頭から綺麗にぶっかけられ、服を汚してズボンも汚していった。
『ごめんなさい! わざとじゃないんです! 本当にすみません!!』
拭く物が先に飛んできて、その後にこのメモ帳である。
「だ、だいじょぶ…大丈夫…。平気だから」
『すみません…』
「いいって。誰にでもミスはあるよ」
慰めてあげるために、リンちゃんの(いると思われる)方に行き、座って頭を優しく撫でてあげる。
「そういえばさ、来週ってクリスマスだよね」
『そうですけど…』
「ケーキとか食べたいなぁ。手作りケーキとか美味しそうだなぁ」
『作って…欲しいんですか?』
その言葉を待ってました。作って欲しいのです、はい。
「では、よろしくお願いしますです」
座ったまま深々と頭を下げて、お願い…いや、懇願する。
『…悪気はないと思うんですが…』
こう書いてある紙が見えたのだが、何のことか分からない。
状況を詳しく分析しよう。
まず、俺は座っている。
そしてリンちゃんは、たぶん向こうを向いて座っている。
少なくともそういう風に想像している。
俺は後ろに回り込んだような配置のはず。
そこで頭を下げた。深々と。
…まとめると…なんだ?
そんなこんなでクリスマスがやってきた。
リンちゃんを知ってからは初めてのクリスマスだ。
『材料は大丈夫ですか?』
「大丈夫である。絶好調である! 大興奮である!!」
『それでは作りますね。ええと…』
はい。分かっております。
私がいるとケーキにエリンギが生えてしまうので、完成まで大人しくしております。
この日のために買っておいたケーキの材料。
作り方は知らないけど、まぁリンちゃんならやってくれるだろう。
猫耳カチューシャとエプロンを着けて、台所をあっちこっちしている姿がとても愛らしい。
すでに時刻は夕方で、ベランダの窓を開けると、少し肌には冷たすぎる風が流れた。
窓を閉め、カーテンを閉め、暖房をつけて完成を待った。
もちろんケーキだけじゃなくて、普通に晩ご飯も。
普通と言っても、そこはクリスマスらしくローストチキン。
そしてさらに炭酸飲料!
…ケーキの材料とかカチューシャとかエプロンとか、いろんな物買ってたらお金が危なくなったので、飲み物代はカットなのです。
いや、感嘆符でもつければ、それなりにそれっぽく見えるかなって。
スポンジを焼く良い香りと、生クリームを泡立てる音が漂ってくる。
テレビなどを見ながら、いったいどれだけ待っただろうか。
メモ帳がゆらゆらと近寄ってきた。
そこには、いつもよりも少し震えた文字で書いてあった。
『とりあえず…完成です』
ケーキ作りは大変だからな、うん。
作ったことないけど。
「お疲れさま、リンちゃん」
ぎゅっと抱きしめて、リンちゃんに全力の感謝。
「疲れたでしょ? 少し休憩した方がいいんじゃない?」
『じゃあ…ちょっとだけ、休もうと思います』
「俺はその間に、晩御飯食べちゃうね」
チキンとか、そんなのは前菜に過ぎない。
メインディッシュはケーキにあり!
骨付きのローストチキンに喰らいついて、たった三分で骨のみにしてしまった。
「さぁて、ケーキケーキ」
『休けい…終わりですか?』
「時はケーキの時代だよ!」
ふと、窓の外を見た。
白い、雪が視界を包んでいた。
ホワイトクリスマス。
リンちゃんも、きっと俺と同じものを見ているだろう。
「雪だね…」
返事は返ってこなかった。
雪に見とれているのだろうか?
「リンちゃん?」
意味ありげな紙を一枚、床に落とした。
『…雪…ですね』
「…」
何かしらの理由があるのだろう。
しかし、今日はそういう日ではない。そう、
「リンちゃん、あーん」
『…えっ?』
「だから、あーん」
『それは…つまり…』
無言で頷いて、催促。
それ以上は何も聞かれないで、ゆっくりと、ケーキの乗ったフォークが近づいてくる。
「うん、ウマい! さすが! おいしいよ」
『ありがとうございます。嬉しいです』
「今日は楽しまないと。そういう日なんだから」
『…はい!』
こうして、リンちゃんとの初めてのクリスマスは過ぎていった。
どこかに行くわけじゃない。
ただ、一緒にそばにいるだけで、それだけで。
残ったケーキは、翌日のおやつとして出てきた。
どうやらそれ以来、ケーキ作りの楽しさを覚えたらしく…。
「…またケーキでございますか」
『今回はブルーベリーのケーキに挑戦しました!』
飽きるくらいに出てくる。
それでも、リンちゃんの作ったケーキなら、いくらでも!
リンちゃんが作ったチーズケーキが食べたいです。
次回作は、やる気があればお花見(4月くらい)→(4月中は無理かも…。5月にします)の話。