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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

条件付き交際から始まる合法独占婚

掲載日:2026/02/16

これは、少しだけ歪んだ恋の話。

独占欲が強すぎて、

不安が暴走して、

好きが時々、刃みたいになる女の子と。

そんな彼女を「怖い」で終わらせなかった、

一人の男の子の物語。

壊れかけて、

間違えかけて、

それでも逃げずに向き合った先にあったのは、

完璧な愛じゃない。

少し重くて、少し不器用で、

でも確かに“選び続ける”関係だった。

これはヤンデレの物語であり、

同時に、成長と約束の物語。

もしあの時、違う選択をしていたら――

そんな分岐も含めて、

これは二人の「選んだ未来」の記録。

四月。

 桜がまだ校門の上に残っていて、風が吹くたびに花びらが落ちる。

 俺――三年二組の相沢悠真は、いつも通りギリギリに登校していた。

 新学期。クラス替え。受験生。

 全部どうでもいいとは言わないけど、正直、特別なことが起きるとも思っていなかった。

 あいつを見るまでは。

 教室の扉を開けた瞬間、視線を感じた。

 強い、まっすぐな視線。

 教室の一番後ろ、窓際の席。

 黒くて長い髪の女子が、俺を見ていた。

 目が合う。

 にこり、と笑う。

 知らない顔だった。

 なのに――

 なぜか、俺のことを「知っている」ような目だった。

 

 ホームルームが終わったあと、担任が言った。

「転校生を紹介する」


 ざわつく教室。

 さっきの女子が立ち上がる。

「春宮澪です。よろしくお願いします」


 静かで、柔らかい声。

 でもその目だけが、ずっと俺を見ている。

 いや、気のせいだろ。

 自意識過剰だ。

 そう思って目を逸らした。

 

 昼休み。

 コンビニで買ったパンを開けようとしたら、隣の席のやつが言った。

「相沢、お前のこと見てるぞ。転校生」

「は?」


 顔を上げる。

 やっぱり、春宮は俺を見ていた。

 目が合う。

 また、笑う。

 ゆっくりと、立ち上がる。

 俺の席まで歩いてくる。

 周りが冷やかす声を上げる中、彼女は俺の前に立った。

「相沢くん、ですよね?」

「……そうだけど」

「やっと、会えました」

「……?」


 やっと?

 初対面だろ。

 俺が戸惑っていると、彼女は少しだけ首を傾げた。

「覚えてないですか?」

「いや、初めてだと思うけど」


 その瞬間。

 一瞬だけ、彼女の表情が消えた。

 笑顔が、なくなった。

 目の奥が、冷たくなった。

 ぞくり、とした。

 でもすぐに、また笑った。

「そっか。じゃあ、これからいっぱい思い出作りましょうね」


 言い方が、どこか重い。

 俺は曖昧に頷いた。

 

 放課後。

 帰ろうとしたら、スマホが震えた。

 知らない番号。

 開く。

『今日は話せて嬉しかったです』


 誰だ。

 次の通知。

『相沢くん、青いパン好きなんですね』


 背筋が凍った。

 今日、俺が食べたのは青いパッケージのパン。

 それを知っているのは、同じ教室にいたやつだけだ。

 また通知。

『明日はちゃんと野菜も食べてくださいね』


 俺はゆっくり振り返った。

 校門の向こう。

 春宮が立っていた。

 スマホを握ったまま。

 俺と目が合う。

 にこり。

 手を振る。

 

 俺の番号、誰から聞いた?

 

 その夜。

 家に帰ってベッドに寝転がる。

 スマホを見る。

 知らない番号からのメッセージは止まらない。


『今、ベッドにいますよね』


 俺は飛び起きた。

 カーテンを開ける。

 二階の窓。

 外は暗い。

 誰もいない。

 

『安心してください。見てません』


 即座に通知。

『でも、だいたいわかります』


 指が震えた。

 既読をつけないように画面を閉じる。

 数秒後。

『既読つけないの、ずるいです』

 心臓がうるさい。

 

 翌日。

 教室に入ると、机の上に弁当が置いてあった。

 綺麗に包まれた、手作り弁当。

 付箋が貼ってある。

『野菜、入れました』


 俺の席。

 俺の机。

 誰も何も言わない。

 まるで、最初からそこにあったみたいに。

 振り向く。

 春宮が、微笑んでいる。

「食べてくださいね?」

「……なんで俺の番号知ってるんだよ」


 小声で言う。

 彼女は、少しだけ目を細めた。

「好きな人のことは、全部知りたくなるんです」

 好き?

「俺たち昨日会ったばかりだろ」

「ううん」


 彼女は首を振る。

「私は、ずっと前から相沢くんを知ってます」


 教室の空気が遠のく。

 彼女の声だけが、やけに近い。

「三年前、文化祭。ギター弾いてましたよね」


 心臓が止まりかけた。

 確かに弾いた。

 でも、あれは一年の時。

 客席なんて覚えていない。

「その時から、好きでした」


 にこり。

 でも目が笑っていない。

「やっと、同じクラスになれたんです」

 

 逃げたい、と思った。

 でも、足が動かない。

 彼女は俺の机に指を這わせながら、静かに言った。

「大丈夫ですよ。相沢くんは、私だけ見てればいいんです」

 

 その言葉が、妙に甘くて、怖かった。

 俺はまだ、このとき知らなかった。

 彼女が「ずっと前から」って言った意味を。

 俺の部屋の本棚の写真を、

 俺しか知らないはずの昔の怪我の跡を、

 俺の幼馴染の名前を、

 どうして彼女が知っているのか。

 そして。

 どうして、俺の家の前の電柱に、

 小さなハートのシールが貼ってあるのか。

次の日

その日から、春宮澪は俺の“隣”が定位置になった。

 席替えなんてまだ先のはずなのに、気づけば彼女は自然に俺の近くにいる。

 朝、教室に入ると、

「おはようございます、悠真くん」


 昨日まで“相沢くん”だった呼び方が変わっている。

「……名前で呼ぶなよ」

「だって、好きな人の名前はちゃんと呼びたいじゃないですか」


 周りに聞こえないくらいの声。

 でも、はっきりと。

 心臓が妙にざわつく。

 

 昼休み。

 俺が購買に行こうと立ち上がると、彼女も立つ。

「どこ行くの?」

「パン買いに」

「今日はお弁当、作ってきたのに」


 机の上に、昨日より豪華な弁当が置かれていた。

 彩りが良くて、明らかに時間がかかっている。

「頼んでないだろ」

「でも、食べたいと思いましたよね?」

「思ってない」


 即答した。

 その瞬間。

 彼女の笑顔が、ほんの少しだけ固まった。

 次の瞬間にはまた微笑んでいる。

「じゃあ、一口だけ」


 距離が近い。

 箸で卵焼きをつまんで、俺の口元に差し出す。

 周りがざわつく。

「やめろって」


 俺が手で避けると、卵焼きが床に落ちた。

 教室が静まり返る。

 春宮は、落ちた卵焼きをじっと見つめる。

 何秒か、動かない。

 それから、ゆっくりしゃがんで拾い上げた。

「……ごめんなさい」


 そう言ったのは俺のほうじゃない。

 彼女だった。

「私、距離感間違えちゃいました?」


 声が小さい。

 震えているようにも聞こえる。

 罪悪感が、胸に刺さる。

 俺が悪いわけじゃないのに。

 

「別に……」

「嫌いにならないで」

 即座に言われた。

 その言葉が、妙に重い。

「嫌いとかじゃねえよ」

「じゃあ、好きになってくれますか?」

「……は?」


 教室の空気が凍る。

 彼女は真剣な目で俺を見ている。

 冗談じゃない。

 本気だ。

 

 放課後。

 俺は逃げるように帰った。

 今日はまっすぐ家に帰ろう。

 そう思ったのに。

 駅前で声をかけられた。

「悠真くん」


 振り向く。

 春宮。

 私服姿。

 偶然のはずがない。

「なんでここに」

「だって、悠真くん今日は部活ない日ですよね?」

 背中が冷える。

「……なんで知ってる」

「好きな人の予定くらい、把握してます」


 笑顔。

 優しい笑顔。

 でも、言っていることが異常だ。

 

「送ります」

「いらない」

「危ないですよ」

「ここ地元だし」

「それでも」

 一歩、距離を詰めてくる。

 逃げるように歩き出すと、当然のようについてくる。

 家の前。

 門の前で足を止めた。

「ここまででいい」

「はい」


 素直に頷く。

 ほっとした、その瞬間。

 

「でも、もう知ってますけどね」

 

 何を?

 聞き返す前に、彼女は続けた。

「お母さん、夜勤多いですよね」

 心臓が、嫌な音を立てる。

「……なんで」

「この前も、昨日も。帰り遅かったです」

 頭が真っ白になる。

「見てたのか?」

「違います」


 即答。

「見守ってるだけです」

 

 その言葉の意味を考えたくなかった。

 

 その夜。

 風呂から上がると、スマホに通知。

『今日は一緒に帰れて嬉しかったです』

『手、触れそうでしたね』

 触れてない。

 なのに。

『次はちゃんと繋ぎましょう』

 

 さらに通知。

 画像。

 震える指で開く。

 

 俺の家の前の写真。

 さっき別れたはずの、あの門。

 

 撮影時間。

 ――今から三分前。

 

 喉が詰まる。

 カーテンを勢いよく開けた。

 暗い夜道。

 街灯の下。

 

 黒い影。

 スマホがまた震える。

『気づきました?』

『大丈夫ですよ』

『逃げないでくださいね』

 

 次の瞬間、インターホンが鳴った。

 

 ――ピンポーン。

 

 心臓が止まりそうになる。

 母さんはいない。

 家には俺一人。

 

 もう一度、鳴る。

 

 ピンポーン。

 

 スマホ。

『出てください』

 

 足がすくむ。

 でも、無視できない。

 恐る恐る、モニターを見る。

 

 そこに映っていたのは――

 

 満面の笑みの、春宮澪だった。

 

「こんばんは、悠真くん」

 

 マイク越しの声が、やけに甘い。

「少しだけ、お話しませんか?」

 

 逃げ場が、なくなっていく。

インターホン越しに映る春宮澪は、相変わらず完璧な笑顔だった。

「こんばんは、悠真くん」


 甘い声。

 でも俺の心臓は、恐怖よりも別の感情で強く打っていた。

 ――このままじゃ、終わる。

 逃げてるだけじゃダメだ。

 俺は深く息を吸った。

 そして、マイクを押す。

「……なんで来た」

「会いたくて」

「今何時だと思ってる」

「好きな人に時間は関係ないです」


 当たり前みたいに言う。

 狂ってる。

 でも。

 ここで押され続けたら、ずっとこのままだ。

「帰れ」


 低く言った。

 自分でも驚くくらい、冷たい声だった。

 モニターの中で、春宮の笑顔が一瞬揺れる。

「……冗談、ですよね?」

「本気だ」


 沈黙。

 ほんの数秒。

 でも永遠みたいに長い。

「迷惑だ」

 言った。

 はっきりと。

 

 彼女の目から、光が消えた。

 

「……迷惑?」

 かすれた声。

「俺はお前と付き合ってない。勝手に家の前に来るな。写真もやめろ。気持ち悪い」

 言い切った瞬間、手が震えた。

 でも止まらなかった。

「好きとか言うなら、最低限の距離守れよ」

 

 画面の中で、彼女の唇がわずかに震える。

 泣くかと思った。

 でも違った。

 

 笑った。

 

 さっきまでの甘い笑顔じゃない。

 もっと静かで、もっと冷たい笑み。

 

「……そうですか」

 声が低い。

「悠真くんは、そういうタイプなんですね」

「何が」

「強く言えば、私が引くと思ってる」

 背筋が冷える。

「違う」

「違いません」

 断言。

「でも、好きです」

 その言葉が、一番怖い。

 

「迷惑でも、気持ち悪くても、好きです」

 彼女はモニターに顔を近づけた。

 画面いっぱいに、彼女の瞳。

「嫌われても、やめません」

 心臓が嫌な音を立てる。

 

「でも」

 彼女はふっと微笑んだ。

「今日は帰ります」

「……は?」

「悠真くん、勇気出しましたもんね」

 褒めるみたいに言うな。

「反撃、できましたね」

 その言葉に、ぞっとした。

 まるで――

 最初から試していたみたいな口ぶり。

「じゃあ、おやすみなさい」

 インターホンの画面から、彼女が消えた。

 

 静寂。

 足音が遠ざかる。

 本当に、帰った。

 

 俺はその場に崩れ落ちた。

 勝った……のか?

 

 スマホが震える。

『ちゃんと言えてえらいです』

 

 ぞくり。

 

『でも、次は私の番ですね』

 

 嫌な汗が背中を伝う。

 

 翌日。

 教室に入った瞬間、異変に気づいた。

 視線。

 昨日とは違う種類の視線。

 ざわざわとした空気。

 隣のやつが、気まずそうに言う。

「相沢……お前、春宮に何したんだ?」

「は?」

「泣いてたぞ、朝から」

 心臓が止まりかける。

 

 教室の前。

 女子たちに囲まれている春宮。

 目は赤く、涙の跡。

 か細い声で言っている。

「私、嫌われちゃったみたいで……」

 

 教室中の視線が、俺に向く。

 

「相沢、ひどくね?」

「転校生に何言ったの?」

「最低」

 

 違う。

 俺は――

 

 春宮が、こちらを見る。

 一瞬だけ。

 泣き顔のまま、ほんの少しだけ、口角を上げた。

 勝ち誇ったみたいに。

 理解した。

 これは、戦いだ。

 

 俺が強く出れば、彼女は弱者になる。

 俺が逃げれば、彼女は追ってくる。

 

 完全に、盤面を読まれてる。

(---あ〜もう、なんなんだあいつは)

こんな事をされ、自分はイラつく

 

 その日の放課後。

 下駄箱を開けると、一通の手紙。

 

『二人きりで話しましょう』

 

 場所は――屋上。

 

 俺はゆっくり息を吐いた。

 逃げるか。

 行くか。

 

 でも、もう決めた。

 受け身じゃ終わらない。

 屋上のドアを、押し開けた 

 風の中。

 フェンスの前に立つ、春宮澪。

 

「来てくれたんですね」

 涙の痕は、もうない。

 

 その目は――

 完全に、捕食者の目だった。

 屋上のドアが、重く閉まる音がした。

 がちゃん。

 背後。

 反射的に振り返る。

 ――鍵。

 内側から、かかっている。

「何してんだ」


 俺が低く言うと、春宮は首を傾げた。

「風、強いですから」

 嘘だ。

 今日、風なんてほとんどない。

 

 夕方の空は、やけに赤い。

 フェンス越しに街が見える。

 逃げ道は、ドアひとつ。

 

「話って何だよ」

 距離を保ちながら聞く。

 彼女はゆっくり近づいてくる。

 一歩。

 一歩。

 

「悠真くん、昨日ちゃんと言いましたよね」

「……」

「迷惑って」

 胸がざわつく。

「だから、考えました」

 にこり。

「どうすれば、迷惑じゃなくなるか」

 

 嫌な予感が、確信に変わる。

 

「簡単です」

 彼女はポケットから何かを取り出した。

 小さな透明の袋。

 中には、白い錠剤。

 

「……それ何だ」

「眠くなるお薬です」

 さらっと言った。

 

「安心してください。危ないものじゃないです。ちゃんと調べました」

 調べた、って何だよ。

「少しだけ、寝てもらえればいいんです」

 背筋が凍る。

 

「何のために」

「お話するため」

 

 意味がわからない。

 

「悠真くん、逃げるから」

 彼女の目が、細くなる。

「ちゃんと、最後まで聞いてくれないから」

 

 一歩、さらに近づく。

 もう、腕が届く距離。

 

「寝てくれれば、逃げませんよね?」

 

 心臓が爆発しそうだ。

「ふざけんな」

 思わず声が荒くなる。

「それ犯罪だぞ」

「大丈夫です」

 即答。

「愛があれば、犯罪じゃないです」

 

 ぞっとする。

 

「私、全部準備してきました」

「準備?」

「今日はお母さん、夜勤ですよね」

 血の気が引く。

「家、静かですよね」

 

 こいつ――

 

「合鍵、作りました」

 

 世界が止まった。

 

「……は?」

「ポスト、昨日少し開いてました」

 思い出す。

 昨日、新聞を取り忘れていた。

「その時に」

 息ができない。

 

「だから大丈夫です」

 何が大丈夫だ。

「ゆっくり、二人きりで話せます」

 

 彼女は薬の袋を指で揺らした。

 かさ、と小さな音。

 

「嫌なら」

 ふっと、微笑む。

「ここから落ちますか?」

 

 フェンスを指差す。

 冗談じゃない目。

 本気だ。

 

「私、悠真くんに嫌われるくらいなら、生きてる意味ないです」

 

 屋上の空気が重くなる。

 

 選択肢。

 薬を飲むか。

 彼女が落ちるか。

 

 完全に、追い詰められている。

 

「やめろ」

 声がかすれる。

「そういうの卑怯だろ」

「卑怯でもいいです」

 即答。

「だって、好きだから」

 

 彼女が一歩、フェンスに近づく。

 本当に、やる気だ。

 頭が高速で回る。

 どうする。

 止めるには。

 

 そのとき、ふと思った。

 ――本当に薬だけか?

 ――本当に合鍵だけか?

 もし俺が拒み続けたら。

 こいつは。

 春宮が、そっと俺の手を取る。

 冷たい。

 

「大丈夫」

 ささやく。

「痛くしません」

 

 その瞬間。

 俺は、決めた。

 

 ――今は、勝てない。

 

 俺は、震える手で薬の袋を掴んだ。 

「……飲めばいいんだろ」

 

 彼女の目が、ぱあっと輝く。

 「はい」

 

 風が止まる。

 夕焼けが、二人を赤く染める。

 

 俺は袋を開け――

 

 次の瞬間、全力でフェンスの外へ投げ捨てた。 

「は?」

 

 彼女の視線がそれた一瞬。

 俺は彼女の手首を掴み、フェンスから引き離す。 

「落ちるとか言うな!」

 

 怒鳴った。

 本気で。

「死ぬとか、軽々しく言うな!」

 

 彼女の目が、大きく見開かれる。

 その表情は。

 初めて見る顔だった。 

 驚き。

 戸惑い。

 そして――

 歓喜。 

「……怒ってくれた」

 

 震える声。

 

「私のために、怒ってくれた」 

 まずい。

 

「やっぱり、優しい」

 彼女は、ゆっくり俺に抱きついた。

「もっと壊したい」

 

 耳元で、甘く囁く。

「悠真くんの、その余裕」

 

 屋上のドアの向こうで、誰かの足音がした。

 

 がちゃ、とノブが回る。

 鍵。

 ――閉めたのは、彼女。

 

 春宮が、小さく笑う。

「先生に見られたら、大変ですね」


 俺を抱きしめたまま、動かない。

 完全に、詰みかけている。

  屋上のドアノブが、がちゃがちゃと鳴る。

「おい、誰かいるのか?」

 先生の声。


 春宮は俺を抱きしめたまま、動かない。

 むしろ、強くなる。

「離れろ」

 小声で言う。

「無理です」

 即答。

「今、離れたら終わっちゃう」

「何が」

「私の覚悟」

 

 その言葉の意味を理解する前に――

 彼女は、俺の腕からすり抜けた。

「ちょっ――」

 

 フェンスのほうへ走る。

 本気だ。

 

 俺は反射的に追いかける。

「やめろ!」

 

 春宮はフェンスに背を預けたまま、ポケットから何かを取り出した。

 

 カッター。

 

 細い銀色が、夕焼けを反射する。

 

「っ……!」

 

「悠真くん」

 笑っている。

 泣きそうな顔で。

 

「私、本気って言いましたよね?」

 

 先生が外から叫ぶ。

「鍵開けろ!」

 

 春宮は俺から目を逸らさない。

「証明します」


 カチ、と刃が出る音。

「待て」

 声が裏返る。

「それ下ろせ」

「嫌われたら、生きてる意味ないんです」

「そんなわけあるか!」

 

 彼女の手首に、細い赤い線が走る。

 浅い。

 でも血が滲む。

 視界が真っ赤になる。

「やめろっ!!」

 

 俺は飛びついて、彼女の手を掴んだ。

 刃が落ちる。

 コンクリートに当たって、乾いた音。

 春宮は、抵抗しない。

 ただ俺を見ている。

「……止めてくれましたね」

 

 その声は、どこか満足そうだった。

 当然だろ!」

 怒鳴る。

「ふざけんな!」

 

 血が、俺の手につく。

 生温かい。 

「痛いか?」

 

 震えながら聞く。

「少し」

 微笑む。

「でも、悠真くんが触ってくれてるから、平気です」

 

 頭がぐちゃぐちゃになる。

「こんなの愛じゃない」

 俺は言った。

「脅しだ」

 

 彼女の瞳が揺れる。

「脅しじゃないです」

「じゃあ何だよ!」

 

 沈黙。

 風が吹く。

 屋上の空気が冷える。

 

「……怖いんです」

 初めて聞く、弱い声。 

「また、いなくなるのが」

 意味がわからない。

 

「三年前、文化祭」

 彼女は震える声で続ける。

「ギター弾いてましたよね」

「……ああ」

「私、あの日、屋上にいました」

 胸がざわつく。

 

「飛び降りようとしてたんです」

 

 時間が止まる。

「でも、下から聞こえたんです」

 

 俺のギター。

「笑ってた」

 

 彼女の目から、涙が落ちる。

「楽しそうで、眩しくて」

 

 喉が詰まる。

「生きてみようって、思った」

 

 だから。

「いなくならないで」

 

 それが本音だった。

 歪んでる。

 狂ってる。

 でも、嘘じゃない。

 ドアが外から強く叩かれる。

「開けろ!!」

 現実が戻る。

 

 俺は春宮の傷口を押さえながら、低く言った。

「死ぬな」

 

 彼女が、息を止める。

「俺が嫌いでもいい。迷惑でもいい。でも、死ぬな」

 

 俺の声は震えていた。

「俺を理由にするな」 


 その瞬間。

 彼女の表情が崩れた。

 泣き顔。

 今度は演技じゃない。

 

「……ひどい」

 かすれた声。

「優しいのに、突き放す」

 俺は歯を食いしばる。

「依存するな」

 

 はっきり言った。

 

「好きなら、ちゃんと立て」

 沈黙。

 春宮の手が、俺の制服を掴む。 

「……治りますか」 

 小さな声。

 

「私、普通になれますか」

 先生が鍵を壊す音がする。

 

 俺は、迷った。

 でも――

「俺は医者じゃない」

 

 正直に言う。

「でも、逃げない」

 彼女の瞳が揺れる。

「逃げないから、代わりに死ぬな」

 

 その瞬間。

 ドアが開いた。

 先生の怒鳴り声。

 血のついた俺の手。

 崩れ落ちる春宮。

 屋上の夕焼けが、終わる。

あの日の屋上事件は、学校中に広まった。

 「転校生が情緒不安定」

 「相沢が何かした」


 噂は好き勝手に形を変えた。

 でも、真実は誰も知らない。

 春宮澪は、しばらく学校を休んだ。

 俺は毎日、落ち着かないまま席に座る。

 後ろの窓際。

 空っぽの席。

 あそこから視線が飛んでこないだけで、こんなに静かになるのかと気づく。

 

 正直、ほっとしている自分もいる。

 同時に――

 妙な空虚感もあった。

 三週間後。

 教室のドアが開いた。

「おはようございます」

 

 その声で、空気が変わる。

 春宮が戻ってきた。

 髪は少し短くなっていて、表情も穏やかだ。

 包帯は、もうない。

 俺と目が合う。

 一瞬だけ。

 微笑む。

 でも、以前みたいにまっすぐ近づいてはこない。

 席につく。

 距離がある。

 ホームルーム後。

 彼女のほうから近づいてきた。

 でも、一定のラインで止まる。

「……ごめんなさい」

 

 小さな声。

「色々、迷惑かけました」

 

 俺は何て返せばいいのかわからない。

「カウンセリング、受けてます」

 

 視線は床。

「依存って言われました」

 苦笑い。

 

「ちょっとショックでした」

 正直すぎて、胸が痛い。

 

「でも」

 彼女は顔を上げる。

「悠真くんのせいじゃないって、ちゃんと理解しました」

 

 その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。

「……ならいい」

 

 気まずい沈黙。

「連絡、控えますね」

「……ああ」

 

「家にも行きません」

「それは絶対やめろ」


 少しだけ、彼女が笑う。

「はい」

 

 その笑顔は、前より静かだった。

 でも。 

 放課後。

 靴箱を開けると、メモが入っていた。

『今日はちゃんと野菜食べてくださいね』

 

 署名はない。

 でも、わかる。

 振り向く。

 廊下の向こう。

 春宮が友達と話している。

 普通に。

 

 俺と目が合う。

 ――ほんの一瞬だけ。

 

 ウインクした。

 ぞくり、とする。

 放課後、帰り道。

 スマホは鳴らない。

 静かだ。

 

 でも。

 家の前の電柱。

 あの小さなハートのシール。

 前より少し増えている。

 誰も気づかないくらい、小さく。

 

 翌日。

 昼休み。

 クラスの女子が俺に言った。

「相沢って、春宮と仲良かったんでしょ?」

「まあ……」

「最近落ち着いたよね、あの子」

 

 俺は無意識に、彼女を見る。

 春宮は笑っている。

 普通に、楽しそうに。

 でも。

 机の上に置いた俺のシャーペン。

 それがいつの間にか、彼女の机にある。

 

 目が合う。

「借りました」

 口パク。

 返されたシャーペンには、

 小さく、目立たない位置に、

 ――“M”の刻印。

 

 背筋が、静かに冷える。

 完全には消えていない。

 でも、暴走はしない。

 

 距離はある。

 それでも。

 

 放課後、昇降口で彼女が言った。

「悠真くん」

 

 振り向く。

「私、ちゃんと好きでいますね」

 

 穏やかな声。

「迷惑にならない範囲で」

 

 その目は、落ち着いている。

 でも、奥に揺れるものは変わらない。

「逃げないって言いましたよね?」

 

 俺は少しだけ笑う。

「死ぬなって言っただけだ」

 

 彼女は、くすっと笑う。

「じゃあ、生きます」

 

 一歩、下がる。

「でも」

 

 ほんの少しだけ、顔を寄せる。

「他の女の子と距離近かったら、ちょっとだけ壊れるかも」

 

 冗談みたいな声。

 でも目は、冗談じゃない。

 夕日が二人の影を長く伸ばす。

 俺は気づいている。

 

 彼女は落ち着いた。

 でも、

 “俺限定”で、まだ危うい。

 それを理解した上で、

 俺は隣を歩いている。

 

 これが正しいのかは、わからない。

 ただ――

 

 春宮澪は、今日も笑っている。

 前より静かに。

 前より危うく。

 それは、本当にただの偶然だった。

 日曜の昼。

 駅前のショッピングモール。

「悠真ー!」

 

 背中を叩かれ、振り返る。

 そこにいたのは、従姉妹の美咲だった。

 同い年で、小さい頃から兄妹みたいに育った存在。

「なんでここいんの?」

「買い物。てか、背伸びた?」

「うるせ」

 

 自然と並んで歩く。

 距離も近い。

 昔からそうだから、何も意識していない。

 アイスを一つ買って、二人で分ける。

「彼女できた?」

「いねーよ」

「怪しい〜」

 

 そんなやり取りをしていた。

 ただ、それだけだった。

 

 ――視線に気づくまでは。

 

 ガラス越し。

 向かいの歩道。

 黒いワンピース。

 長い髪。

 春宮澪。

 目が合った。

 

 笑っていない。

 でも無表情でもない。

 静かすぎる。

 俺の隣で、美咲が笑う。

 その声がやけに遠く聞こえる。

 もう一度、視線を向ける。

 

 春宮は、スマホを持っていた。

 カシャ。

 

 シャッター音は聞こえない。

 でも、確信した。

 撮られた。

 その夜。

 スマホが震える。

 

 久しぶりの通知。

『楽しそうでしたね』

 

 心臓が嫌な跳ね方をする。

『白いトップス、似合ってました』


 美咲の服。

『距離、近かったです』

 

 既読をつける。

『従姉妹だ』


 すぐに返信が来る。

『証拠は?』

 

 指が止まる。

『血が繋がってる証明、できますか?』

 

 ぞわっとする。

『嘘、つきますよね』

 

 画面の向こうで、何かが剥がれ落ちているのがわかる。

『でも大丈夫です』

 

 嫌な予感。

『私、今回は壊れてません』

 

 その一文が、一番怖い。

『ちゃんと落ち着いてます』

 

 さらに通知。

 写真。

 

 昼間の俺と美咲。

 並んで笑っている。

 ズーム。

 

 アイスを一緒に持っている瞬間。

 さらにズーム。

 俺の手。

 その小指に、赤い糸が巻かれている。

 見覚えがない。

『似合ってますね』

 

 血の気が引く。

 あれは――

 

 昼間、気づかなかった。

 アイスを渡されたとき。

 美咲の手と触れたとき。

 

 その前に。

 駅前で、誰かと一瞬ぶつかった。

 

 あれ。

『つけました』

 

 呼吸が浅くなる。

『目印です』

 

 次の通知。

『私の』

 

 胸が締めつけられる。

『浮気したら、切りますね』

 冗談みたいな文章。

 

 でも。

 すぐ次に送られてきたのは、

 

 カッターの刃の写真。

 新品。

 

『今回は、自分じゃないです』

 指先が冷える。

 

『相手のほう』

 世界が静まり返る。

 

 すぐに電話をかける。

 ワンコールで出た。

 

「もしもし」

 声は、穏やかだった。

 

「何考えてんだ」

 低く言う。

 

「何も」

 静か。

 

「従姉妹です」

 俺が言うと、数秒の沈黙。

 

「……本当ですか?」

 声が、ほんの少し揺れる。

 

「本当だ」

「キスしてませんか?」

「してない」

「好きって言ってませんか?」

「言ってない」

 

 呼吸音だけが聞こえる。

 

「……信じたい」

 その言葉が、壊れそうだった。

 

「でも」

 

 声が変わる。

「私、想像しちゃうんです」

 

 小さな笑い。

「二人がもっと近づく未来」

 

 まずい。

「春宮」

 

「安心してください」

 その声が、逆に怖い。

 

「今回は」

 間。

 

「壊す前に、止めます」

 何を。

 

「明日、放課後。屋上」

 また、あの場所。

 

「来てくれますよね?」

 断れば。

 どうなる。

 

 俺は、ゆっくり息を吐いた。 

「行く」

 

 電話の向こうで、安堵の息。 

「よかった」

 

 甘い声。

「じゃあ、ちゃんと説明してください」

 

 一瞬の沈黙。

 

「それで納得できなかったら」 

 ぞくり。

 

「次は、本当に壊れます」

 通話が切れる。

 

 静まり返った部屋。

 

 小指を見る。

 赤い糸。

 ぎゅっと引っ張ると、痛い。

 ただの糸のはずなのに。 

 まるで、首輪みたいだった。

 月曜の放課後。

 俺は落ち着かないまま席に座っていた。

 春宮はいつも通り。

 静かで、穏やかで、笑っている。

 昨日の電話が嘘みたいに。

 

 でも違う。

 俺が少しでもスマホを見ると、

 彼女は一瞬だけ目を細める。

 放課後。

 屋上へ向かう前に、スマホが震えた。

 

 美咲から。

『ねえ』

『さっき変な子に話しかけられたんだけど』

 

 血の気が引く。

『悠真の彼女?って聞かれた』

 

 呼吸が止まる。

『違うって言ったら、笑ってた』

 

 指が震える。

『黒髪で、すごい綺麗な子』

 

 間違いない。

 すぐに電話をかける。

 

「何話した!?」

『え、なに急に』

 

 美咲は困惑している。

『なんか、悠真と仲良いですよねって』

『どこで知り合ったんですか?って』

『あと』

 

 嫌な沈黙。

『血縁って証明できますか?って』

 全身が冷える。

 

「他には」

『うーん……』

『悠真くん、独占欲強いから気をつけてくださいねって』

 

 逆だ。

 完全に逆だ。

『あの子、ちょっと怖かったよ』

 

 胸が締めつけられる。 

「今どこにいる」 

『駅前』

 

「そのまま人多いとこにいろ。知らないやつに近づくな」 

『は?何なのほんと』

 

 電話を切る。 

 屋上のドアを開ける。

 春宮は、フェンスの前で風に揺れていた。

 

「来ましたね」

 

 振り向く。

 いつもの穏やかな笑顔。

「従姉妹に会ったな」

 

 俺が言うと、彼女は少し目を丸くした。

「はい」

 

 隠さない。

「ちゃんと確認したかったので」

「何を」 

「敵かどうか」

 空気が凍る。 

「敵じゃない」 

「本当ですか?」


 一歩近づいてくる。

 

「悠真くん、あの子といるとき、すごく柔らかい顔してました」

 心臓が嫌な音を立てる。

 

「私といるときより」 

 言葉が刺さる。

 

「家族だ」

「家族でも」

 

 彼女の声が、少しだけ震える。 

「取られる可能性はあります」

 

「ない」

「ゼロって言えますか?」

 

 言葉が詰まる。

 理屈じゃない。

 彼女の中では、“可能性”があるだけで危険なのだ。

 

「何する気だ」

 

 低く聞く。

 春宮は、ゆっくり首を傾げた。

 

「何もしませんよ」

 微笑む。

 

「ただ、忠告しただけです」

「何を」

 

「悠真くんは、傷つきやすいから」

 ぞくり。

 

「近づきすぎないでくださいね、って」

 つまり。

 

 俺を理由に、牽制した。

 春宮はポケットから何かを出す。

 赤い糸の切れ端。

 

「これ、外してください」

 

 静かな声。 

「今すぐ」

 

 命令じゃない。

 お願いでもない。

 “確認”だ。

 

 俺は小指の糸を見る。

 

「外さなかったら?」

 彼女は、少しだけ目を細めた。

 

「私が、外しに行きます」

 

 誰から?

 答えは言わない。 

 でもわかる。

 沈黙 

 風が吹く。

 俺はゆっくり糸をほどき、地面に落とした

 春宮の目が、わずかに緩む。 

「ありがとうございます」

 

 その声音は、ほっとしていた。

「これで安心です」

 

 本当に?

 俺は一歩近づく。

 

「もう接触するな」

 真っ直ぐ言う。

 

 春宮の目が揺れる。

「悠真くんが」

 

 小さな声。 

「私を選んでくれるなら、しません」

 

 またそれだ。

「選ぶとかじゃない」

「じゃあ何ですか」


 感情が、じわじわ滲み出す。

「私はまだ、不安定なんです」

 

 初めて、自覚を口にする。

「理性で止めてます」


 視線が鋭くなる。 

「でも、刺激しないでください」

 

 ぞっとする。

「壊れたら」

 

 静かに微笑む。

「今度は、本当に止まりません」

 

 屋上の空気が重く沈む。

 これは脅しじゃない。

 宣言だ。

 俺は理解する。

 彼女は落ち着いた。

 

 でも。

 

 俺の“外側”に対しては、

 まだ牙を隠している。

 そしてその牙は、

 俺よりも他人に向く。

 

 それが一番、怖い。


水曜の放課後。

 教室にはもうほとんど人がいなかった。

 窓の外は薄暗い。

「悠真くん」

 

 後ろから呼ばれる。

 振り返らなくてもわかる。

 

 春宮澪。

「少し時間いいですか?」

 

 声は穏やか。

 でも俺は、もうその穏やかさを信用しない。

「ここで話せ」

「それだと足りません」

 

 足りないって何だよ。

 彼女は俺の机の上に、スマホを置いた。

 

「見てください」

 画面には、動画。

 

 再生。

 

 駅前。

 

 美咲が映っている。

 今日の映像だ。

 遠くから撮られている。

 

「……なんで」 

「何もしません」

 

 即答。 

「まだ」

 

 喉が締まる。

「やめろ」

 

「やめますよ」 

 にこりと笑う。

 

「悠真くんが、ちゃんと選んでくれたら」

 またそれだ。

 

「何を」

「私を、最優先にするって」

 

 目がまっすぐすぎる。

「家族でも、友達でもなく」

 

 心臓が重くなる。

「私が一番って、言ってください」

 

 教室がやけに広く感じる。

「言わなかったら?」

 

 春宮は少し考える素振りを見せる。

「壊れます」

 

 淡々と。

「今回は私じゃないかもしれません」

 

 背中に冷たい汗。

「脅してる自覚あるか」

 

「あります」

 迷いなく答える。

 

「でも、止められない」

 一歩近づく。

 

「悠真くんが、私以外を見るの」

 声が少し震える。

 

「怖いんです」

 目の奥が揺れている。

 

「また置いていかれる気がして」


 教室の時計の秒針がやけに大きい。

 

「選べ」

 静かな声。

 

「今ここで」

 逃げ道はない。

 

 俺はゆっくり息を吐いた。

「……お前」

 

 春宮の瞳が揺れる。

 

「それで俺が言ったとして」

「はい」

「一番だって」

 

 彼女の呼吸が止まる。

「それ、本当に安心できるのか?」

 

 沈黙。

「俺が怖がって言った言葉で?」

 

 春宮の目が揺れる。

「それって、勝ちか?」

 

 声が低くなる。

「それで満足か?」

 

 彼女の唇が震える。

「俺が他を切って、お前だけ残して」

 

「……はい」

 かすれた声。

 

「それでやっと」 

 涙が一粒落ちる。


「安心できます」

 その言葉は、本音だった。

 

 歪んでいるけど。

 でも本気。

 俺は、彼女のスマホを手に取る。

 

 動画を削除する。

 ゴミ箱も空にする。

 

「……悠真くん?」

 俺は彼女の目を見た。

 

「一番にはしない」

 はっきり言う。

 

 春宮の表情が凍る。


「でも」

 

 一歩、近づく。

 

「逃げない」

 彼女の瞳が揺れる。

 

「家族も友達も切らない」 

「……」

 

「それでもお前がそばにいたいなら」

 心臓がうるさい。

 

「俺の世界ごと受け入れろ」

 静寂。

 

 春宮の呼吸が乱れる。

「できないなら」

 

 喉が乾く。

「本当に離れる」

 

 その言葉は、刃だった。

 彼女の肩が震える。

 選ばされているのは、

 彼女のほうかもしれない。

 長い沈黙のあと。

 

 春宮は、ゆっくり笑った。

 泣きながら。

「……ずるい」

 

 小さな声。

 

「私に選ばせるんですね」

「お前が始めたんだろ」

 

 数秒。

 やがて彼女は深く息を吸う。

「……努力します」

 

 震える声。

 

「でも」

 目が細くなる。

 

「失敗したら、また壊れます」


 ぞくり。

 

「そのときは」

 少しだけ首を傾げる。

 

「止めてくださいね」

 それは依存か、信頼か。

 まだ、わからない。

 

 でも一つだけ確かなのは。

 火は消えていない。

 ただ、今は小さくなっているだけ。

 

 彼女は笑う。

「じゃあ」

 

 甘い声。

 

「一番じゃなくていいです」

 一歩、近づく。

 

「特別でいてください」

 夕闇が教室を包む。

 俺は理解する。

 これは終わりじゃない。

 均衡だ。

 薄氷の上の。


 均衡は、意外なところから崩れた。

 期末テスト明け。

 クラスの打ち上げで、カラオケに行くことになった。

 

 俺は正直、気が重かった。

 春宮は「行ってください」と言った。

 笑って。

 でも。

 

 部屋の隅で、俺が女子と隣に座った瞬間。 

 空気が変わった。

 

 笑っている。

 ちゃんと笑っている。

 でも。

 

 ストローを噛む力が、強すぎる。

 その夜。

 俺のスマホに通知は来なかった。

 

 代わりに。

 

 翌朝、学校に行くと。

 黒板いっぱいに、赤いチョークで書かれていた。

 

 『悠真くんは、誰のもの?』

 

 教室がざわつく。

 俺の心臓が止まりかける。

 振り向く。

 

 春宮は席で本を読んでいる。

 目が合う。

 ほんの少しだけ、笑う。

 

 限界だった。

 俺は彼女の手を掴み、教室を出る。

 

「限度超えてる」

 

 廊下で低く言う。

「壊れましたか?」

 

 静かな声。

「少しだけ」

 

 目が揺れている。

 でも完全に暴走はしていない。

「怖かったです」


 小さな声。

「昨日、隣に座ってた子」

「クラスメイトだ」

「近かった」

「普通だ」

 

 沈黙。


「……無理です」

 

 春宮の指が震える。

「理屈わかっても、感情が追いつかない」

 

 それは本音だ。

 

 俺は、深く息を吸う。

「じゃあ、試すか」

「……何を?」

「付き合う」

 

 空気が止まる。

 春宮の瞳が見開かれる。

 

「ただし条件付き」

 彼女の喉が鳴る。

 

「監視しない。脅さない。俺の世界を壊さない」

 

 一つずつ言う。

「守れなかったら、終わり」

 

 刃みたいな約束。

 春宮の呼吸が乱れる。

 

「……本気ですか」

「本気だ」

 

 沈黙。

 長い、長い沈黙。

 

 彼女は目を閉じる。

「……努力します」

 

 震える声。

「恋人になったら」

 

 ゆっくり目を開ける。

「独占していいですか?」

 

 俺は少し笑う。

「適度にな」

 

 彼女は、泣きながら笑った。

「難しいですね」

 

「練習しろ」

 それが始まりだった。


 付き合った、という事実は、意外と静かだった。

 春宮は本当に努力していた。

 

 メッセージは減った。

 位置情報も送られてこない。

 家の前に立つこともない。

 

 でも。

 

 俺が他の女子と話すとき。

 少しだけ、距離が近くなる。

 服の袖をつまむ。

 

 笑いながら。

「彼氏です」


 宣言する。

 

 それはまだ可愛いレベルだ。

 ある日、従姉妹からメッセージが来た。

 

『あの子、また会った』


 心臓が跳ねる。

 

『普通だったよ』

『ちょっと怖いけど』

 

 安心しかけたとき。


『悠真のこと、好きすぎるね』


 俺は画面を見つめる。

 帰り道。

 

「美咲に会ったのか」

 

 俺が言うと、春宮は頷く。

「確認です」

「何を」

「敵じゃないか」


 俺は立ち止まる。

「まだそこか」

 

 彼女は、少しだけ俯く。

 

「治りませんね」

 正直な声。

 

「でも」

 

 顔を上げる。

「壊しません」

 

 強く言う。

「悠真くんとの約束です」


 その目は、前よりも理性的だった。

 危ういけど。

 ちゃんと、踏みとどまっている。


 冬。

 吐く息が白い。

 

 放課後の校門。

「ねえ」

 

 春宮が俺のマフラーを掴む。

「もし、私がまた壊れたら」

 

 目は真剣だ。

「離れますか?」

 

 俺は少し考える。

「壊れ方による」

 

 彼女がむっとする。

「正直ですね」

「嘘つくよりマシだ」

 

 沈黙。

 それから。

 彼女は、ゆっくり俺の手を握った。

 昔みたいに強くない。

 逃げ道を残す握り方。

 

「私、頑張ります」

 

 小さな声。

「好きだから」

 

 歪んでいる。

 不安定だ。

 

 でも。

 

 俺は、逃げなかった。

 彼女は、壊さなかった。

 

 完璧じゃない。

 健全とも言い切れない。

 

 でも。

 

 選んだ。

 お互いに。

 

 春宮澪は、少しだけヤンデレのまま。

 俺の隣にいる。

 そして俺も。

 

 その危うさごと、手を握っている。


 --終


ーーーーーーーーーーーーーーー

これは高校を卒業してからのお話

数年後

ーーーーーーーーーーーーーーー

彼女は大学に行かず就職した。

自分は大学に進学した。

大学二年の春。

俺は一人暮らしをしている。

そして――

「合鍵、持ってますからね」


当たり前みたいに言って、春宮澪は俺の部屋に入ってくる。

付き合って、もう四年。

高校時代の“条件付き交際”は、まだ有効だ。

監視しない。

壊さない。

俺の世界を奪わない。

春宮は守っている。

……ほぼ。

「今日、ゼミの飲み会ですよね」


エプロン姿で振り向く。

「帰り、何時ですか?」


声は穏やか。

目も穏やか。

でも質問は具体的だ。

「十時くらい」

「誰が来ますか?」

「教授とゼミ生」

「女子は何人?」


俺は笑う。

「尋問か」


彼女は少しむっとする。

「確認です」


変わってない。

でも。

昔みたいな黒板事件も、排除も、脅しもない。

ただ少し、確認が多いだけだ。

それくらいなら。

今の俺には、愛嬌に思える。

スマホを見ると、通知が一件。

『お疲れさまです』

一通だけ。

位置情報も、連投もない。

俺は少しだけ安心して帰宅する。

ドアを開けると、電気がついている。

春宮がソファで寝落ちしていた。

テーブルには、温め直せるようにラップされた夕飯。

胸が少し締まる。

俺が毛布をかけると、彼女が目を開ける。


「何時ですか」

「十時半」

「……三十分オーバー」


うっすら笑う。

「誰と最後までいました?」

「男三人」


じっと見る。

数秒。

それから小さく息を吐く。

「嘘じゃないですね」

「なんで分かる」

「分かります」


少しだけ、ヤンデレの名残。

人の表情を読むのが、異様に上手い。

でも。

「信じます」


その一言が昔と違う。

疑うより先に、信じると言えるようになった。

そこが、成長だ。

ある夜。

ベランダで二人並んで座る。

春の風。

静かな街。

「まだ、怖いです」


春宮がぽつりと言う。

「何が」

「いつか、普通の子の方がいいって言われること」


胸が少し痛む。

昔の彼女なら。

その不安を潰すために、誰かを排除していた。

でも今は。

俺に直接言う。

「言わない」


即答する。

「なんでですか?」

「お前だから付き合ってる」


沈黙。

それから。

小さく笑う。

「独占欲、ゼロにはなりませんよ」

「知ってる」

「たまに、想像します」


少し俯く。

「悠真くんのスマホ、全部壊して、連絡先消して、私だけにするとか」


さらっと怖いこと言うな。

俺が苦笑すると、彼女も笑う。

「しませんよ」


分かっている。

もう“しない”と選べる。

それが今の彼女だ。

更に数年後

社会人になった春宮は、忙しい。

俺も就活が始まる。

会えない日が増える。

それでも。

彼女は壊れない。

ある日、俺が女の先輩と二人でカフェにいるところを偶然見られた。

高校時代なら、再暴走案件だ。

夜、部屋。

春宮は静かだった。

「好きですか、その人」


真っ直ぐな質問。

「尊敬してるだけ」


嘘はつかない。

彼女はじっと俺を見る。

長い沈黙。

昔なら、この沈黙のあとに何か起きた。

でも今は。

「……じゃあ大丈夫です」


深呼吸して、そう言った。

指先は少し震えている。

戦っているんだ。

自分の中の衝動と。

俺はその手を握る。

「選ぶのは俺だ」


彼女が顔を上げる。

「今も、これからも」

「……私ですか」

「お前」


数秒。

そして。

春宮は泣きながら笑った。

「まだ独占したいです」

「ほどほどにしろ」

「努力します」


高校のあの日と同じ会話。

でも意味は違う。

条件付きじゃない。

脅しもない。

ただ。

少し歪で、少し重い愛を。

お互い理解した上で、選び続けている。

春宮澪は、完全には治らない。

でも。

俺たちは、壊れなかった。

それで充分だ。


更に数年後


大学を卒業し、就職した。

社会人三年目。

俺はショーケースの前で固まっていた。

結婚指輪。

正直、場違いな気分だ。

まだ少し早いんじゃないか。

でも――

春宮澪と付き合って七年。

一緒にいるのが当たり前になっている。

それでも。

“正式に選ぶ”のは、少し怖い。

店員に勧められたリングを試着する。

細い、シンプルなデザイン。

春宮の指を思い浮かべる。

あの、少し冷たい指先。

強く掴む癖。

今は、だいぶ優しくなったけど。

俺は決めた。

逃げない。

昔みたいに条件付きじゃない。

ちゃんと、自分の意志で。

プロポーズの前日。

俺はうっかりスマホをテーブルに置いたまま風呂に入った。

戻ると、春宮が触っていた。

昔なら、日常だった光景。

でも今は、ほとんどしない。

目が合う。

数秒の沈黙。

彼女はゆっくり手を離す。

「……ごめんなさい」


小さな声。

「癖、抜けませんね」


怒る気になれなかった。

「不安か?」


彼女は少し迷ってから頷く。

「幸せすぎると、怖いです」


その本音に、胸が締まる。

「失う前提で考えちゃうんです」


昔はその不安を外に向けていた。

排除して、縛って、閉じ込めて。

でも今は、俺に向けて言う。

それだけで十分だ。

俺はスマホを彼女に渡す。

「見ろよ」


彼女が目を見開く。

「何もない」


数秒、画面を見る。

それから、ゆっくり首を振る。

「……見ません」

「いいのか」

「信じます」


震えている。

でも、見ないと選んだ。

それが、答えだった。


プロポーズ日


夜景が見える高台。

ベタすぎる場所。

緊張で手汗がひどい。

「どうしました?」


春宮が首を傾げる。

俺はポケットから小さな箱を出す。

彼女が固まる。

「条件、覚えてるか」


高校の廊下。

“壊さないなら付き合う”。

あの約束。

「覚えてます」


静かな声。

「守れなかったら終わり、でしたね」

「今は違う」


箱を開ける。

リングが月明かりを反射する。

「壊れても、話せ」


喉が渇く。

「不安でも、疑っても、暴走しそうでも」


一歩近づく。

「俺から逃げるな」


彼女の目に涙が溜まる。

「俺も逃げない」


心臓がうるさい。

「結婚しよう、澪」


風が止まった気がした。

数秒。

いや、数十秒。

彼女は声を出せない。

そして。

ぽろぽろと涙を落としながら、笑う。

「……独占していいですか」


泣き笑いの顔。

俺は笑う。

「法律の範囲内でな」


彼女が小さく吹き出す。

「はい」


震える声。

「一生、努力します」


俺は指輪をはめる。

その指は、もう昔みたいに強く掴まない。

代わりに。

両手で、そっと包む。

「悠真くん」


名前を呼ぶ声が、穏やかだ。

「逃げません」


あの頃みたいに、壊れそうな目じゃない。

不安は残っている。

独占欲も消えていない。

でも。

それを自覚して、抑えて、戦える。

それが今の春宮澪だ。

俺はその手を握る。

今度は逃げ道を残さない握り方で。

自分の意志で。

選んだ。

歪だった恋は、

少し重たい愛になって、

やがて――

一生ものになった。


――結婚編 END



ーーーーーーーーーーーーーーー

完全闇堕ちifルート

これは――

「もしあの約束が守られなかったら」の世界。

見たい方だけどうぞ。(文章量は少ないかも)

ーーーーーーーーーーーーーーー

付き合って三ヶ月。

春宮は頑張っていた。

本当に。

でも――

俺が文化祭の実行委員になったのが、まずかった。

準備で女子と話す時間が増えた。

帰りも遅くなった。

連絡も減った。

ある日。

教室のロッカーを開けると、中に入っていた。

俺の写真。

文化祭準備中の。

遠くから撮られたもの。

裏には一言。


『楽しそう』


心臓が冷える。

放課後。

屋上に呼び出される。

春宮は、笑っていた。

でも目の下が濃い。

「約束、守れてますか?」


静かな声。

「守ってる」

「じゃあ、どうして」


一歩近づく。

「他の子とあんなに笑うんですか」


息が荒い。

「……普通だろ」


その一言が、引き金だった。

彼女の笑みが、ゆっくり崩れる。

「普通、いりません」


その瞬間、俺は理解した。

もう、あの“努力している春宮”じゃない。

何かが、戻ってきている。

翌日から、異変が始まった。

文化祭実行委員の女子が欠席。

その次の日も。

さらに一人。

噂が回る。

「誰かに脅されたらしい」


俺のスマホが震える。

春宮からのメッセージ。

『大丈夫です』

『排除しました』


血の気が引く。

放課後、俺は彼女を問い詰めた。

「何した」

「何も」


微笑む。

「お願いしただけです」

「近づかないでって」


その目は、完全に戻っていた。

でも前より静かだ。

暴れない。

騒がない。

冷たい。

「悠真くんが困るの、嫌なんです」


そう言って、俺の頬に触れる。

「だから、私が処理します」


背筋が凍る。


俺は決めた。

別れる、と。

放課後、教室。

誰もいない。

「もう無理だ」


そう言った瞬間。

春宮は泣かなかった。

ただ、スマホを取り出す。

再生。

俺と従姉妹の動画。

手を振って笑っているだけの映像。

でも、切り取り方が悪意だらけだ。

「これ、流れたらどう思いますか?」


声は平坦。

「先生も、親も」


喉が締まる。

「脅してるのか」

「違います」


一歩近づく。

「お願いしてるだけです」


指が俺の胸を押す。

「離れないでって」


俺は初めて、恐怖を感じた。

恋人じゃない。

これは――

監禁一歩手前だ。

俺は距離を取ろうとした。

連絡を減らす。

一人で帰る。

でも。

ある夜。

家の前に立っていた。

春宮が。

暗い中、じっと。

「どうやって住所」

「知ってますよ、最初から」


震える。

「好きなんです」


一歩、近づく。

「全部知ってたい」

「全部、私だけのものにしたい」


その夜、俺は理解する。

俺が曖昧に優しくしたこと。

条件付きで付き合ったこと。

期待を持たせたこと。

全部、彼女を救わなかった。

中途半端が、一番残酷だった。

「一緒に逃げましょうか」


彼女が言う。

「二人だけの場所に」


目は本気だ。

冗談じゃない。

本当にやる目だ。

俺は、否定できなかった。

完全に、主導権を失っていた。

冬休み。

俺は、ほとんど友達と連絡を取らなくなった。

春宮が常に隣にいる。

笑っている。

優しい。

でも。

俺のスマホは彼女の指紋で解除できる。

俺の予定は全部共有。

誰と話したか報告。

少しでも嘘があれば。

あの動画。

あの噂。

あの“お願い”。

使われる。

俺は逃げられない。

ある夜。


「幸せですか?」


布団の中、隣で囁く。

俺は答えない。

すると、彼女は微笑む。

「私は幸せです」


ぎゅっと抱きつく。

「やっと、私のものになりました」


その腕は細いのに、重い。

逃げられない重さ。

俺は天井を見る。

好きだったはずの彼女。

守ろうとしたはずの存在。

でも今は。

俺が守られているのか。

閉じ込められているのか。

分からない。

春宮澪は、壊れた。

そして俺も、少しずつ壊れていく。

これが。

もし約束を破った世界。

救いのない、選択の先。

――IF END

こういうのを書いて行きたいです。これからもよろしくお願いします!!

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