第4章 君のいない夜(後半)
――星の声を聴く夜――
それから、千紗は再び丘へ行くようになった。雨が上がった夜、翔と過ごしたあの場所へ。
手には、翔の指輪と手紙を握りしめて。
風が優しく頬を撫で、木々のざわめきが遠くで響く。
夜空には薄雲がかかり、星の光はわずかしか見えなかった。
けれど、それでも千紗は望遠鏡を組み立てた。
翔が隣にいるような気がした。
「……見えてる?翔」
静寂の中で、小さく声を出す。
返事はない。
けれど、どこかで風が吹き抜け、草が揺れた。
まるで、答えるように。
千紗は涙を拭い、空を見上げた。
星たちは確かにそこにあった。
どれも遠くて、どれも届かない。
けれど、それでも光っていた。
翔が言っていた――
「光は時間を越える」
「想いも、いつか届く」
あの言葉を信じたい。
信じることでしか、自分を保てなかった。
気づけば夜は深まり、風が冷たくなってきた。
千紗は小さく微笑んで空に向かって囁いた。
「翔。あなたの光、まだここにあるよ」
その瞬間、雲の切れ間から一筋の光が差した。
淡く、白く、まるで流星のようだった。
――生きて。
そんな声が、確かに聞こえた気がした。
涙が頬を伝い、千紗はそっと笑った。
「うん……ありがとう」
その夜、千紗は一度も泣かなかった。
代わりに、何度も夜空を見上げた。
翔の夢を、自分の手で叶えるために。
指輪の冷たい輝きが、星の光と重なって見えた。
風の中で、彼の声が優しく響く。
――“Soar”。翔けろ。
その言葉が、千紗の胸に確かな灯をともした。
人は星を見上げて祈る。
けれど、星はいつも黙って見守ってくれている。
光は遠くても、
想いが消えなければ――
それは、いつか空へと届く。




