表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翔ける星 Soar -ソア-  作者: 無咲 油圧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

第2章 光の庭で(前半)

――風の音が止まる場所――


春の夜気がやわらかく、丘の草が露に濡れていた。

千紗はいつものように望遠鏡を組み立てながら、心の中で何度も時間を確かめていた。

翔はまだ来ない。

最近は少し遅れることもあったが、彼が来ない夜など一度もなかった。


風が頬を撫で、星がまたたく。

心臓の鼓動が、遠くで鳴る風鈴のように揺れている。


「……来ないのかな」


思わず口にした瞬間、背後から軽い足音が近づいた。


「お待たせ」


振り向くと、翔が息を切らして立っていた。

額には汗が光り、髪が少し乱れている。


「ごめん、バイトが長引いて」


「大丈夫。星は逃げないから」


千紗が笑うと、翔も少し照れくさそうに微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間、胸の奥がふっと温かくなった。


二人はいつものように並んで空を見上げた。

風が止み、夜の世界が一瞬だけ静止する。

見上げた空には、無数の星が流れるように輝いていた。


「ほら、あの星。あれがリゲル。青白いでしょ」


「ほんとだ。綺麗だな……。千紗、こうやって星を見てると、自分がすごく小さく感じるんだ」


「それがいいのよ。人間の悩みなんて、星の寿命から見たら一瞬だもの」


翔は少し黙ってから、ぽつりと言った。


「でも、その“一瞬”の中で誰かを好きになれるのって、奇跡かもしれないね」


千紗は息をのんだ。

風が一瞬だけ吹き、髪が頬に触れた。

言葉が喉に詰まり、何も返せなかった。


翔は何事もなかったかのように笑い、空を見上げた。


「ねぇ、千紗。俺、星の写真を撮ってるんだ」


「え? 本格的に?」


「いや、趣味だけどね。この前、撮ったんだ。君が教えてくれた“冬の大三角”。」


翔はスマホを取り出し、千紗に画面を見せた。

そこには、淡く光る三つの星――シリウス、プロキオン、ベテルギウスが

夜空の闇に優しく浮かんでいた。


「綺麗……」


「君が言ってた通りだった。“星も人も、繋がってる”って」


千紗は目を見開いた。

それは以前、何気なく口にした自分の言葉だった。

“星の光は、時間を超えて届く。だから、誰かの想いも、いつか必ず届く”――と。


 翔は続けた。


「俺、昔は何も信じられなかったんだ。努力しても報われないし、夢を語ると笑われるし……。

でも、千紗に会ってから変わった。

誰かと空を見上げるだけで、こんなに心が温かくなるなんて思わなかった」


千紗の喉が熱くなる。

何か言いたいのに、うまく言葉が出てこない。


翔は照れたように笑って言った。


「……だから、ありがとう」


その一言に、千紗の胸がいっぱいになった。

風がまた吹き、二人の間を通り抜ける。

空は変わらず光り、星たちは静かに見守っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ