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序章•〈夢〉

目の前にーーまるで物語の世界に登場する、壮大な舞台のような光景が、広がっていた。


……すごい………


これほどはっきりと、鮮明に見渡せたのは、はじめてだ……


今見ている〈夢〉は、物心ついたときからーーもう何度も見ている〈夢〉だった。

他に見る夢とはちがい……うまく言葉にするのは難しかったが……なにか特別さ……真に迫り……強く訴えかけてくる……心を震わす……そのようなものが、あった……。

ただいつもは、景色全体に、濃く薄くーー霧のようなものがかかりーーそのため、全景を明瞭に、見たことはなかった。

しかし、自分がーー(身体は存在せず、透明な球体のようななかに、〈意識〉と〈眼〉とがある)ーーその景色をかなり高いところからーー言ってしまえば、天空からーー恐怖におののくことなく、傍観し、眺めていることは、わかっていた。


そして、もう一つーーー


今眼前に広がる、壮大な舞台は、はじめのうち、〈光〉と〈影〉ーー〈白〉と〈黒〉の、真っ二つにわかれているのだが、それがある瞬間を境にーー〈黒い影〉がその威力を増し、夏の入道雲のごとく、もくもくと湧き立ち、巨大におぞましい塊となって、やがて黒々とした魔物のようなすがたに、凄まじい力と速さで、一挙に〈白い光〉のほうへ、襲いかかるのだ……。

そして、〈白い光〉のほうも、巨大な魔物を迎え撃つように、眩いほどの輝きを増す……。

相反する二つの色が、金色の火花を散らして、激しく交えようとしたーーそのとき……はっと目が覚め、いつも〈夢〉は終わる。

そこから先は、見たことがなかった。


俯瞰する、〈夢〉のなかの〈眼〉が、左の方へ向くーーー


小高い丘に建つ、白いレンガ造りに、みずみずしい緑の蔦に飾られた、美しい〈城〉ーー煌めく純白の〈旗〉が、風にはためいていたーー

その〈城〉と向かい合うように、目の前には、深緑の大きな〈山〉が、鮮やかな紫に彩られた〈街〉と、〈城〉とを守る緑の盾のように、凛と雄大にそびえていた。

そして、〈山〉を越えた先ーー壮麗な〈湖〉があった。

広大な〈湖〉の真ん中に、ぽつんと、〈小さな島〉のすがたが見えた。

〈光〉と〈影〉は、ちょうどこの〈島〉の真上で、二つにわかれていた。

そのため、広い湖面の半分は、息をのむほどの紺碧に輝きーーもう半分は、同じ〈湖〉とは思えぬ暗さで、漆黒に沈んでいるのだった。


自分はいつもーーこの〈湖〉の上からーー不気味な灰色に染まる、二つの天空の狭間近くから、世界を見下ろしていた。

左から移り、中央でとまっていた〈眼〉が、右の方へ向くーー

自分のいる高さには、不思議と恐怖を感じなかったが、映った光景にーー今度は確かに、寒気を覚えた……。

今はっきりと……〈黒い影〉の包むすがたを、見ることができた………


おどろおどろしい、ギザギザと鋭く尖った、真っ黒な〈岩山〉が、いくつも威嚇的に、そそり立っていた。

屹立する、そのなかでも一つーー圧倒的な存在がーーー


……あれは……〈城〉……?


そのときーー例の瞬間ーー身の毛のよだつ、冷たく恐ろしい叫び声が響き渡り、〈黒い影〉がもくもくとーーそれは見る間に、巨大な黒雲の塊となって、膨れ上がっていった………

闇黒の天に、激しく龍を巻きはじめた黒雲から、ほとばしるように、おびただしい数の黒い点々が、次々に飛び出してきた!


ギラギラ光る真っ赤な目ーー二つの鋭い牙ーー二股に分かれた青い舌ーー毒々しい紫の長い髪ーーー

醜悪な顔の下に、体は見えず、代わり濃い闇に包まれていた。

なんとも気色の悪い、闇のマントを纏ったようなすがたの下で、存在の見えぬ長い手足を広げているのか、ぞっとする黒いすがたが、あたかも翼のように、顔から左右に伸び広がっていた。


黒雲の渦から吐き出されていく、千万無量の黒の大軍が、弾丸のごとく、凄まじい速さで空を裂き進み、〈白い光〉のほうへ、襲来する……!

〈意識〉の詰まった球体が震え……ぎゅっと〈眼〉が閉じる………


……〈夢〉はここで……終わるはずだ………


……終われ……はやく終われ……目覚めて………っつ!………


聞こえた声にーーぱっと〈眼〉が開くーーー


……なんで………


凍りついた視線の先ーーはじめて、人のすがたが、映っていたーー

きらきらと光り輝く、神秘的な〈赤の衣装〉に身を包みーーさながら女神のように見えたすがたーーそのすがたはーーまぎれもなく……自分自身………

〈城〉の一番高い〈塔〉に立ち、両手を大きく広げ、掌にはーー赫々と燃え盛る炎がーーー

襲いくる黒の大軍に、真紅の炎を手にした自分が、立ち向かっている!………


……そんな………やめて………


……「やめてっ!……」


自分の声で、はっと目覚める。

横になった心臓がーードキドキしていた……。

風邪をひいたときのように、じっとりと汗をかき、パジャマが身体に張りついて、気持ちが悪かった。

(……ただの夢だ……大丈夫……悪い夢を見ただけ……)

心を落ち着かせ、言い聞かせるように、目を閉じて繰り返すと、紅はベッドからゆっくり身を起こす。

薄暗い部屋にぼんやりと光を差した、窓を見つめる。

(そうだ……)

昨夜は、ひどい〈嵐〉だった。

この時期、このあたりに、〈嵐〉がやってくることは極めて稀で、そのため住民たちはみな、寝つきの悪い、そしてなかなか眠れぬ一夜を、過ごしたのだ。

紅も寝る前、刻一刻と雨風の荒々しさを増していく、外の様子を、不安な思いに眺めた。ーーきっとそのせいで、あんな悪夢を見たのだ。そして、そのとき、窓を覆うカーテンの端が、少し開いたままになってしまったのだろう。

ヒュウヒュウ、ガタガタと、打ちつけられた雨の音が鳴り響いていた窓は今、ひっそりと静まり返り、昨夜の〈嵐〉が、まるで嘘のようだった。

(……〈双子桜〉は、大丈夫だったかな……)

カーテンの隙間から差す、明け方の淡い光の先にーーそのすがたを思い案じて、紅は深くため息をついた。

汗に濡れた身体が冷やされ、ぶるっと身震いをする。このままでは、本当に風邪をひきそうだった。

(とりあえず、着替えないと……)

足の上にある上掛けを、どけようと、手元に視線を落とすーー


「……えっ……」


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