第一章:戦争の影
1940年の春、イギリスの田舎町ウィンチェスターでは、季節の変わり目を迎えていた。青々とした草原と美しい丘陵地帯が広がり、穏やかな風が草を揺らす。トム・フィンレイ(19歳)は、自転車をこいで小さな町の通りを駆け抜け、いつもの場所へと向かった。それは、町の外れにある小さな湖で、幼なじみのデイジー・クレイトン(18歳)と会うためだった。
デイジーはすでに湖のほとりで待っていた。彼女は空を見上げ、心配そうな表情を浮かべていた。空には何機かの戦闘機が飛んでいたが、それは彼女にとっていつも以上に不安を感じさせるものだった。トムが自転車を止め、笑顔でデイジーに近づくと、彼女も笑みを浮かべたが、その目はまだ心配げだった。
「最近、戦闘機が多いわね」とデイジーは言った。トムは肩をすくめて、平然とした態度を装った。
「そうだね。でも、気にしなくていいよ。ここは安全だから」とトムは答えた。
デイジーは頷いたが、彼女の心は穏やかではなかった。ヨーロッパ全体が戦争に巻き込まれ、イギリスもそれに向かっていることを、二人とも感じていた。数週間前、首相のチャーチルが演説を行い、国民に覚悟を呼びかけた。その言葉はウィンチェスターのような小さな町にも届いていた。
「トム、私たち、これからどうなるのかな?」デイジーは不安げに問いかけた。
「わからない。でも、僕たちにはお互いがいる。どんなことがあっても、一緒に乗り越えよう」とトムは優しく言った。
その言葉に、デイジーは少しだけ安心したように微笑んだ。湖のほとりで、二人は一緒に時間を過ごし、未来について話した。デイジーは学校を卒業し、大学に進学するつもりだったが、戦争の影響でその計画は不透明になっていた。トムもまた、将来について考えていたが、戦争が彼の進むべき道を変えるかもしれなかった。
その日は、静かな青い空が広がっていたが、二人の心には、戦争の影が差し始めていた。町に戻ると、通りには兵士の姿が増え、店の窓には防空のための準備が進められていた。これが、平和な日々の終わりを告げる始まりだった。
それでも、トムとデイジーはお互いを見つめ、強く手を握った。彼らは、どんな困難が待ち受けていても、一緒に乗り越えることを誓った。これが、彼らの戦争との戦いの始まりだった。