ショートショート 夢で泳ぐ〜バブリーガール〜
私は石田良子、55歳、独身。
老人ホームで介護の仕事をしています。
ご存知のとおり、介護の仕事は決して楽ではありません。
腰は痛くなったり、体調を崩すこともよくあって、以前は仕事を休むこともよくありました。
今はね、大丈夫ですよ。
元気に働いてます。
お金も大したことないですけど、一人で暮らす分にはなんとかやっていけます。
私は大学生の頃からアパートで一人暮らしをしています。
学生の時はそこそこ新しくて、きれいだったんですよ。
でも、人間と同じで、時が過ぎればそれなりに古くなっていくのは仕方のないことで。
たまに変な匂いがしたりしたりするんですよ。
あ、言っておきますが,私きれい好きです。
ちゃんとお掃除とかしてますよ。
でも、できることの限界ってありますよね。
引っ越そうとかも思ったんですよ。
女性が一階で一人暮らしするなんて危ないとか言われたりもしたんですけど、床下収納とか小さな庭とかもあって、いろんなものを収納したり、お庭に種を植えたり、古いながらも、愛着があるんです。
あ、でもお庭にいろんな種を植えるんですけど、なぜかお花とか咲いたためしがないんです。
どうやら私、そういうの苦手みたいで。
あ、先に言っておきますね。
私、一人で勝手におしゃべりします。
私がこれからお話しするのは昔の楽しかった頃の話です。
よかったら聞いてください。
私の年齢を聞いたら大体わかるかもしれませんが、私バブル世代で。
とても盛り上がりました。
学生の頃、バイトなんかもいい時給で働いて、たくさんもらいました。
それで、バイトで貯めたお金でどこに行っていたかって言いますと……。
そう、あそこです!
シリアナ・トーキョー‼︎
イェーイ‼︎
あッ!ごめんなさい。
つい、あの頃を思い出すと、その時のノリが出てしまって……。
シリアナ・トーキョー。
若い方はご存知ないかもしれないけど、同世代の方は懐かしいでしょう?
女性たちはお立ち台で扇子を持って……。
スレッスレのきわどい衣装……。
男性たちのギラギラした目……。
みんな、狂ったように踊るんです。
えぇ、実際みんなクレージーでした!
私もその一人で。
今思えば、ただのお馬鹿さんだったんですけど、でも、あの時の私を見る男性たちの、あの欲望剥き出しの視線が最高に気持ちよかったんです!
ここだけの話、それだけで私何度もイっちゃいそうになりました‼︎
だからね、つい調子に乗ってしまって、朝気づいたら知らない男性がベッドに……なんてことありました。
えぇ、白状します。
一度や二度ではなかったです。
ワンナイト・ラブ。
言い寄ってくる男性がみんな素敵に見えたんです。
ほんと、あの頃は浮かれていたんです、私。
そのまま浮かれていたかったんですけどね。
残念ですが、バブルがはじけた後、時代の波に乗れなくて……。
でもね、バブル崩壊した後も不思議なんですけど、男性にはモテたんですよ。
結婚寸前までいった方もいたんです。
それも残念ながらうまくいかなかったんですけど。
仕方ないですね。
こういうことはご縁ですから。
まぁ、これが私の話です。
いたって普通の、よくある話でしょ?
大して面白くもない話だったかもしれません。
でも、あと一つだけ話を聞いてくれませんか?
どちらかと言うと、こっちの方が面白いと思っているんですよ。
えぇっと、数ヶ月前なんですけどね。
大家さんから立ち退きの話があったんです。
最初にお話ししましたけど、かなり年季の入ったアパートでして。
もういよいよ建て替えないとダメということになって。
だから、来月にはいよいよ引っ越さなくちゃいけないんです。
お金は大丈夫なんです。
引越し代くらいは用意できてるんです。
新しいところに住みたいとも思うんです。
綺麗なところに住みたいですもの。
でもね、できないんですよ。
そうしたいけど、できない事情があって。
いるんですよ。
かつて愛した男たちが……
私のかわいい子供たちが……
床下とか
押入れとか
お庭とか………
みんな、埋まってるの……。
私、埋めたの……。
えっ、そんなに驚くほどの話じゃない?
アハハ、そうですよね。
よくある話ですよね。
正直、私も建て替えの話がなかったら、思い出すこともなかったんですよ。
そもそも埋めたのは何人だったかなって。
それすらも覚えていないっていう……。
ふふっ、だから皆さんにはホント、期待させてしまってごめんなさい!
でもね、私自身はちょっと面白いと思っているんですよ。
これからどうしたらいいかなぁ、どこから手をつければいいかなぁって。
そう考えただけで、もう私……ワクワクがとまらなくて!
なんだろう?
この感覚!
この快感‼︎
だからお願いです!
どうかみなさん!
ここだけの話として、そっと胸にしまっておいてください。
くれぐれも、お願いですから、自首したほうがいいとか、そんな野暮なこと言わないでくださいね!
あぁ、おしゃべりすぎちゃって喉がカラカラ。
もう、この辺で失礼しようかしら。
彼らをどうするか一人作戦会議しなくちゃいけないし。
そうそう!
ここでお会いできたのも何かのご縁。
みなさんのナイスなアイデアとかあったら、ぜひ教えてください!
何事も一人で考えるより、みんなで考えたほうが物事は上手くいきますものね!
それじゃあ、みなさん!
私のつまらない話を最後まで聞いてくださって、どうもありがとう!
機会があったら、またお会いしましょう‼︎
それまで、お元気で‼︎