表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
枯れ葉  作者: 栄行
2/2

不穏な空気

第二章 『不穏』


あっと言う間に二週間が過ぎ去った。

その日もいつものように旅館へと向かう。街の至る所に生茂る木々が綺麗な紅葉に色づく一方で、この頃から彼との関係は徐々に暗雲に覆われはじめていた。

きっかけは些細なことだった。

職場での休憩時間、スバスはいつものように笑顔で私に話しかけてきた。

「ウエダサン、タバコカイタイ、センエンチョウダイネ」

「頂戴?」

「はい、わたしお金ないです」

「返さないってこと?」

「いえ、給料日にかえします」

「わかった。今、財布ないからあとでね」

結局、その日彼にお金を貸すタイミングはなかった。いや、仮にタイミングがあったとしても私は先ほどの約束を忘れたふりして、素通りをしただろう。

遭遇するなり挨拶も交わさずに金銭要求をされ、さらにその理由が煙草の購入である。

何か私の中の直感的なものが彼を拒絶するのをその時に感じた。


数日後の夜、お風呂から上がり歯を磨いていると突然LINEの着信がなった。

画面を確認すると、それは彼からの着信であった。

「もしもし、どうしたん?」

「上田さんあさっては休み?」

「うん」

「あさって、ハイキング行きましょう」

「その日は行かれへん」

「行きましょう、わたし、あさって休みですので行きましょう」

「いやごめん、明後日は予定がある」

「おねがいします」

「予定あるから無理って言ってるやん」

「ファッキュー」

「は?」

その瞬間、突発的に怒りがこみ上げてきた私は何も言わずに通話終了のボタンを押し、二度と誘いのこないように彼のLINEアカウントをブロックした。

少し時間が経過し怒りが鎮まってきた頃に、先ほどの彼の暴言に関して再考をしてみることにしたが、やはり私には彼のその行為に関して正当性があると証明できるとは思えず、私の即座にとった対処は適切であったと自分の中で結論付けた。


翌日の仕事終わり、少し肌寒くなった外気に涼みながら、旅館の目の前にある坂道を皆で下りながら話をしていると、どうやらスバスに違和感を覚えていたのは私だけではないらしいことが判明する。

「木下くんと後藤くんもスバスにお金要求されたんですか?」

「うん、ちなみに俺今日あいつに昼飯代貸したで。四百円。しかも、帰りに返すって言ってたのに普通に先帰って行った。やばくない?」怒りからか少し興奮している様子の後藤君。

「え、後藤くん優しいね、俺も今日食堂で言われたけど、お金ないって言ったよ。今日も俺が仕事の指示したら返事もせずに、むしろふてくされた態度とるから、俺あいつとこれからかかわらんよ。」木下君も表情こそ笑っているがやはり彼に対する不満を述べている。

噂をすればやってくるとはよくいったものだ。坂道を下ったところにある温泉街で唯一のファミリーマートの前に彼の姿が見えた。

「後藤くん、返してもらいなよ。」木下君が後藤君の肩に手を置く。

「うん、ちょっと行ってくる」

私と木下君は少し早歩きをしながら、後藤君のそばに駆けて行った。

「スバス、さっきのお金。」後藤くんが話しかける。

彼は無表情のままポケットから小銭を取り出しおもむろに数えはじめた。

どうやら小銭を合計しても350円ほどしかないように見える。

「今少し足りないので後でわたすね」明るく振る舞ってはいるが、やはり表情の硬いスバス。

「今ある分だけででいいよ。残りはいらんから。」

「わかりました」

そう言うと彼は、少し不機嫌そうな表情で、手に持っていた10枚ほどの硬貨を後藤くんに手渡した。そして何も言わずそそくさとその場を去っていった。

なぜ、借りた側の彼が不機嫌そうな顔をしていたのか、なぜ借りたことに対する礼を言わなかったのか。

その場にいた私たちは、満場一致で、彼への不信感を募らした。


休みが開けた次の日、彼は笑顔で私に話しかけてきた。

「おはようございます、上田さんげんき?」

「おはよう。うん、元気。」

先日の出来事が幻だったのかと一瞬考えたくらいさっぱりした様子で話しかけてきたので、私は少し戸惑ってしまった。

だがやはり彼とは距離を置きたいという思いは変わらなかったので少々冷たい対応をしてその場を去った。


その日以降、私の変貌した態度に気が付いたからなのか彼の方から距離を詰めてくるようなことは少なくなった。

それも私自身に対してというよりは旅館の全従業員に対して接し方を考え直している様子にも見えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ