蓮の花零輪 ~拝啓、父へ。俺も旅に出るぞ(導入部分)~
はじめましての方ははじめまして!
そうではない方は大変お久しぶりです!
あらすじに記載の通り、別作品の設定などを主軸に作った作品です。
リメイク……のように書くつもりが色々あって全く別作品になっちゃいました……。
それでも面白いと思えるように書いたつもりですので是非とも読んでくださると幸いです!
「いつかオレを越える男になれ」
歳は30を越えたくらいの男が、自身の面影を残す幼い少年と目線を合わせて話す。
その少年の瞳は自身の瞳と同じく、焔のように朱い。
自分が短く切り揃えた髪は自身が愛して止まない女性。
その美しい髪色にそっくりな黒。
所々跳ねる癖っ毛まで女性……母親にそっくりである。
その姿が男の朱い瞳に写る。
「越えるって?」
幼いながらもどこか理性を残す声に、男は内に秘めた親バカが出そうになるのを堪え、問いに答える。
「何でもいい。父ちゃんが出来ないことをしてみせるんだ。オレとの組手に勝つでもいい。父ちゃんが認める男になれ」
その言葉に少年はふと遠い記憶がよぎる。
高層ビルが立ち並び、周りを人々が過ぎ去っていくモノクロの世界。
過ぎ行く人々の顔は曖昧で、そこには信じる気持ちはなく、どこか避けるような、孤独感にも似た気持ちが過ぎる。
『俺は……もう間違いたくない』
記憶の言葉が少年の心に影響を与えた。
「わかった」
記憶を思い返しながら記憶の言葉に答えた少年。
男は問う。
「何がわかったんだ?」
男を見据えて少年は言う。
「友達を作って楽しく生きる」
その答えに男は微笑み、こう言った。
「ならオレのように。……いや、オレの信頼出来る友達以上の友達や仲間を作って旅してみたらいい。友達や仲間とする旅はいいぞ。色んなのことが見えてくる。そのときはオレを越えれるかもな」
なにかを含みながら話す男の顔が少年には印象的に写る。
「旅路の果てでお前を待つ」
●○●○●○
そこで記憶が途絶え、目を覚ます。
起き上がり、寝具の上で一息溢すと寝起き特有の微睡みから覚め、瞳に意思が宿る。
「久々に見たなぁ。昔の夢」
夢の中では幼かった少年も目が覚めると、夢の中の幼さは成りを潜め、大人に近づきつつある顔立ちがそこにはあった。
思い出すのは夢で見た、かつて父と交わした約束と残した言葉が今の彼に根付いている。
「……そうか、今日で俺も17か……」
その根付いた言葉が、意思の宿った瞳に炎のような灯火を宿した。
「親父が旅に出て5年……。長くて短いような時間が経った気がするけどようやく俺も旅に出れるな」
父との約束を思いだし、胸の高鳴りを隠すことなく独りしゃべる。
朝の心地の良い日差しが照らす窓辺のベッドから降りると、着替えを済まして旅支度を終えると家を見渡す。
この世界に生を受け17年。
思い出が残る家を空ける寂しさを抱えながら、床下の物入れを開ける。
そこには、柄の部分が黒く染まった竜の顔が、まるで灰色の刀身を飲み込もうとしたような意匠をもつ一振りの剣が姿を表す。
その剣の名は、瞋黙刀褝。
全長は80センチ程の短剣に分類されるファルシオンと言う種類の武器だ。
苦い記憶を思い返すもこれも彼を形成する物の一つとして割りきり手にとると、灰色の刀身が火を灯したかのように紅く煌めいた。
煌めいた時間は短かったものの、刀身が暗い灰色となり、灯火揺らめくように紅い模様が薄く残る姿となった武器を腰の後ろにつけた鞘にしまうと、床下の扉を閉じて玄関の扉を開け、外に出る。
心地の良い日差しを浴び、延びを行うと家の側にある小さな石碑に手を合わせ、瞳を閉じた。
「母さん……俺17になったんだ。旅に出た親父を探して俺も旅に出る。母さんには寂しい思いさせちゃうな。でも親父との約束も忘れられない。だから行ってくるよ。またちゃんと戻ってくるから」
閉じた瞳を開き、振り替えると歩き出した。
気持ちのいい風が後ろから、優しく見守るような気配をのせて吹いた。
「行ってきます」
その風に答えるように少年は笑顔で前を向き言葉をこぼす。
『行ってらっしゃいレンカ』
そう、石碑から聞こえた気がしたからだ。
少年――レンカが家から離れると石碑に木漏れ日があたりうっすらと女性の姿が現れたように見えた。
その顔は困ったような、悲しむような。
それでいて嬉しさを隠しきれないような表情でレンカを見送った。
彼の名はレンカ・アスタルーク。
旅はまだ始まったばかり。
いかがでしたかね?
主人公が旅に出るきっかけっぽい部分を書きました。
次回は村を出て町に行きます!
本格的な旅の描写はもう少し先になります。
あ、もうひとつの「蓮の花」とは違い、三人称(神様視点)で書いて行きます。
一応、視点は三人称で固定して書きますが視点が変わる際はサブタイに記載します。
誤字脱字の報告、感想待ってます!
「面白い」「続きが気になる」「続きはよ」って方はブックマークもしてくださると作者の励みになります!