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なぜ、カイが私の腕を掴んでいるのだろう。ジッと彼を見るとしまったと、自分の行動に戸惑っていた。
「どうしましたカイさん、何か用ですか?」
「い、いや、何でもない」
そういう割には唇を尖らして、機嫌も悪そう。相方のトルの方は終始、にこやかに笑っているだけ、いつにもまして変な2人だけど……冒険者のカイが、私のダンス相手を気にするのはもっと変。
「……えーっと、よく分かりませんが。そんなに気になるのなら教えます。ダンスの相手はこの国の王子、デリオン殿下です」
「……!」
カイはそに名前を聞いて瞳をひらき、黙り何か考えはじめた。あまりこんな場所で口にしたくないし、デリオン殿下とのファーストダンスよりも。私は隠しキャラとして登場する、ヴォルフ様と踊りたかった。
(だけど、手紙を送っても返事はかえってこないし。彼が同じ学園に入学しても、悪役令嬢の私ではなくヒロインの事を好きになる……)
まだ、諦め切れない気持ちが心の中で渦巻く――でも仕方がない、彼はクエルノ魔法大国の王子で、私はロベルト国の公爵令嬢で悪役令嬢。
《マリ、受け付けで、採取のクエストを受けたのだろう?》
(うん、受けてきたよ。クエストに行こう)
「ラゴーネさん、私達はギルド裏で採取クエストをするけど、どうする? 先に街に行ってる?」
そう聞くと、ラゴーネさんは首を振り。
「いや、マリ達のクエストが終わるまで待ってるよ」
「それじゃ、一緒にギルド裏へ行きましょう」
なにより、この冒険者ギルドの女性達に人気のあるカイが私の手を握ったことで、ギルド内で睨まれたりと人目も集めている。私はいまだ考える素振りを見せるカイに「失礼します」と礼をして、ギルド裏の採取畑に移動した。
ギルドの裏にある採取畑の囲いの中は、あいかわらずの草ぼうぼう。多分、いまは新人冒険者がほとんどおらず、手入れしていないのだろう。私はラゴーネさんに待っていてと伝えて、頭の上のトラ丸と採取カゴを持って、息の中へはいる。
ぼうぼうの雑草を避けて、目的の薬草を見つけ畑の中を歩く。その私の足元に目的の薬草を見つけた。
「あ、あった! 薬草みっけ!」
まだレベルの低い採取スキルを駆使し、クエストの薬草を見つけてはカゴに摘む。大体カゴいっぱいになればクエストは終わり。いつもクエストが終わるまで、トラ丸は頭の上でクークー寝ているだけど。
《マリ、先ほどの2人……いつもよりも、変だったな》
と、カイの様子が気になるみたい。
(いつにも増して、変なのはカイさんのほうだと思う。関係ないのに、ダンスの相手なんか聞いてくるし)
《そうだな》
でも――彼の手は私とは違い大きくて、服の上からわかる、カタイ剣ダコがあった。