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冒険者のカイとトルにはトラ丸と同じく、黒犬と鷹の聖獣がついていた。彼らがヴォルフ様と同じく、魔法大国クエルノの出身かもしれない。そんな彼らが、この街の冒険者ギルドにいるのが不思議だ。
「マリは、いつもの薬草採取のクエスト?」
「そうですけど……Aランクのあなたには関係ない話です」
私が受けるレベル2の薬草採取のクエストは、ギルド裏にある草ぼうぼうの畑から、薬草を見つけるというクエスト。まだレベルの低いがいきなり森にいかないよう、冒険レベルをはじめ、採取レベルを上げる為の練習場だ。
その隣には戦闘レベルを上げる為の、放牧スライムがウニョウニョしている。それはレベル3からなので、まだクエストが受けれない。
(ここの、レベルの上げ方が乙女ゲームと同じで面白い。ヒロインも同じやり方で、ゲーム内でレベル上げをしたり。隠しキャラ(ヴォルフ様)との、イベントがあったんだよね)
《マリ、行くぞ》
(う、うん)
初心者の採取クエストの紙を剥がすと同時に、ラゴーネさんがギルドへと現れた。彼は変装する私を見つけると、手をあげた。
(はじめて変装したときも、すぐラゴーネさんにはバレたんだよね)
「お、マリ! いたいた」
「あれ? 今日は授業の日じゃないけど」
「うん、それはわかってる。マリに伝言がある、明日の午後、ダンスレッスンに来い! だって」
――明日、ダンスレッスンに来い? その言い方って、デリオン殿下からの伝言だ。殿下はあいかわらずだけど、入学祝いの舞踏会で。一応彼の婚約者候補だからファーストダンスを踊らなくちゃ、ならないんだったかな?
「ダンスレッスンですね。はい、わかりました。明日、お伺いします。とお伝えください」
「了解した。――よし、仕事は終わり、マリは今から採取クエストか? ワレも手伝うか?」
「え、大丈夫だよ。ラゴーネさん……前にそう言って、ギルド裏の畑を吹き飛ばそうとしたでしょう!」
「そうだったっけ?」
《そうだ、忘れたとは言わさんぞ!》
頭の上でトラ丸が言うが、ラゴーネさんは笑って「じゃ、クエストが終わるまで見てる」と、デリオン殿下へ伝えに帰る気はないようだ。
「いいよ、クエスト受けてくるね」
「ああ、帰りに丸ごとジャガイモのチーズ乗せ、食べて帰ろうぜ」
――そっちが目的か。
「わかった、食べに行こうね」
《ワシも食べるぞ》
「ええ、みんなで食べましょう。じゃ、受付行ってくるね」
受け付けで初心者の採取クエストを受けて、ギルド裏に向かう私の腕をカイが「待って」と掴んだ。振り向くと、カイの瞳がいつものイヤミなものではなく、どことなく焦っているように思えた。




