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私が魔法と礼儀作法を頑張るのにはワケがあった。それは週に3度、冒険に出ていいと両親と約束しているのだ。今日はその冒険にでる日。私は早朝――動きやすい服の上からローブをはおり、赤毛の髪色と琥珀色の瞳を茶色に変えて姿を消し、トラ丸の背中に乗って屋敷近くのギルドがあるルノン街へと向かった。
私が髪色と瞳の色を変えたのには理由がある。ルノンはカッツェ公爵の領地の中にある街。公爵の娘――マリーナだとわからない様にしているのと、魔力訓練でもある。
魔力で髪色と瞳を変えるには魔力調整が必要となると、カカナお母様からの宿題でもある。
(最初の頃より、髪色を変えるのも楽になってきたわ)
ここルノンは小さな街だけど、美味しいジャガイモの店がたくさんある。ヴォルフ殿下が国へと帰ったあとお父様と話し、領地特産のジャガイモをつかったポテチ、フライドポテトなどを、屋敷の調理人カルロと作り広めた。
いまじゃ、このルノンの街でしか食べれない、丸ごとジャガイモのチーズ乗せという新しいメニューも出来た。他にもジャガイモのグラタン、ピザ、スパゲッティ。おいしいジャガイモのデザートもある。
――私とトラ丸にとって夢のような街。
(さてと、デリオン殿下との婚約破棄後、すぐ冒険に出れるように日々特訓よ!)
今年に入ってからギルドに通い。ギルドカードを作った。マリーナ・レベル2、冒険者ランクF。採取2のまだ駆け出しの冒険者だ。だから受けれるクエストはまだまだ少ないが、ファンタジーゲームも好きだった私はこの雰囲気がたまらない。
木製の建物、冒険者達。
クエストボード、受付嬢。
ここは王都とは違い、ルノンの街にある小さなギルドだから、人も少なくクエストも少ないけど。
(屋敷の中にいたら、ぜったいに味わえなかった)
私はクエストボードの前に立ち、頭の上のトラ丸と念話しながらクエストを選ぶ。
〈トラ丸、なに受けようか〉
〈マリの実力なら、薬草集めだな〉
〈それがいいわね〉
クエストボードでクエストを選ぶ私たちの後ろで、女性冒険者の感高い声が上がる。それに私とトラ丸はまたかとため息をつく。
最近になってくる様になったAランクの、若くてイケメン、黒髪のカイとトルという冒険者2人組。なぜ? 強い彼らが王都へはいかず、このルノンの街にいるのかわからない。人それぞれ事情があるのもわかるけど、彼らは苦手だ。
――それは。
「マリ、またいたのか」
「いますけど、なんですか?」
「クク、マリは弱いのに頑張るな」
「あなたには関係ありません」
私を冒険者ギルドで見つけるとカイの方が、イヤミばかり言ってくるのだ。




