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ヴォルフ様を思い青空を見上げている私の元へ、お昼寝から目が覚めたのだろう。小さな手を伸ばし、緑色の髪と赤い瞳の男の子がヨチヨチ歩いてくる。私は手を伸ばして、その男の子を抱きしめた。
「おはよう、ロール。お昼寝から起きたの」
「うん。ねね、おちた」
乙女ゲームでは、ドラゴンとの戦いで亡くなるはずだった、カカナお母様の運命を変えたからか、私にかわいい弟ができた。いま3歳になるロール・カッツェだ。前世ひとりっ子だった、私には嬉しくてたまらない弟だ。
その弟のロールは私の頭に乗る、モフモフのトラ丸にまんまるな瞳を向けた。
「ニャーも、おはにょ」
〈おはよう、よく寝たか?〉
「うん、ねちゃ」
さすが私の弟だ。ロールは一歳になったとき、聖獣のトラ丸に「あーあー」と話しかけた。両親はロールの才能に喜び、トラ丸はというと妹の私と弟のロールができて嬉しそう。
弟のロールは大切な公爵カッツェ家の後継者。私が婚約破棄されて国外追放になっても、ロールがいるから大丈夫。私はトラ丸と一緒に冒険者になるつもりだ。
「ロール、ねねとポテトサラダ食べに行こう」
「ポテトチャラダ! たべゆ」
《腹減った、早く行こう》
私はロールを抱っこして、トラ丸と厨房へと向かった。
翌日の午後、畑を見まわった後。私はテラスで魔法の授業をロール、トラ丸と受けていた。と言っても、ロールとトラ丸は庭の芝生の上でボールで遊んでいる。
「この魔力石の出来は……マリちゃん、弟さんとトラ丸が可愛いからとよそ見をしない」
「は、はい、ゲドウ先生」
「ククク、違うぞゲドウ。マリは腹が減ったのだ」
「……ラゴーネさん!」
「やっぱり図星だな。ポテチを食べようぜ」
お父様とお母様がドラゴンのラゴーネさんと聖職者のゲドウさんに教師を頼んだのか、自分から名乗りだしなとかは知らないけど。魔法の基礎と礼儀作法までを教えてくれる。
(前までは怖い人だと思っていたけど、教え方は優しくてわかりやすい。出来なかったダンスも様になってきた)
ゲドウさんは持参した教科書を閉じ。
「ふぅ、ラゴーネのせいでマリちゃんの集中が切れましたね。今日の魔法の授業は終わりにして、お茶にしますか」
お茶の後に、礼儀作法の授業をしましょうと言った。
「ヤッタァ! ポテチを出せ!」
《なに? ポテチだと!》
「ポポチ、ポテチ!」
いつの間にか大きくなったトラ丸に乗る、ロールもポテチとトラ丸の真似をする。これは――教育にいいのかはわからないけど。お父様とお母様がなにも言わないのだから、いいのだろう。
「カルロに頼んでポテチとお茶をもらってくるから、待っていて」
「マリ、ワレも手伝おう」
「ありがとう、ラゴーネさん」
2人で厨房へ、みんなの好きなポテチとお茶を取りに向かった。