88 第二章
気になって、寂しくて、一度だけ手紙をヴォルフ様へと送ったが。――彼からの返事は返ってこなかった。
(好かれていたとか、自惚れてはいないけど。返事は欲しかったなぁ……)
――だけど、ヴォルフ様は魔法大国クエルノへと帰られて、第二王子だから忙しいのだろう。もう関係のない、手紙を送るのは迷惑になるかもしれない。
この日から私はヴォルフ様への手紙を書くことも、送る事もやめた。
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それから時が経ち、私は15歳になった。来年の春から、乙女ゲームがはじまるシロノール学園へと通う。婚約者となるデリオン殿下とはヴォルフ様とお別れした、翌月に開かれたお茶会の席でお会いした。
『嫌だが。マリーナ嬢は今日から、オレの婚約者候補になった』
『え、私が婚約者候補?』
デリオン殿下は私のことを嫌いなままだけど、宰相の娘だかなのか、彼から婚約者候補になったと告げられた。そのまま王妃教育が始まり、婚約者になるのかと思ったのだけど。王妃教育もなく、何年経っても婚約者候補のままだった。
それでいいのなら、それでいい。
私は毎日を楽しむのだ。
「トラ丸、畑に行こう!」
《おう、ジャガイモを育てるぞ!》
ジェスターお父様とカカナお母様がさみしがる私に、屋敷の敷地内に畑をプレゼントしてくれた。そこにジャガイモを植えている。
「トラ丸見て、ジャガイモがもう収穫できそうだよ」
《5日前に、タネを植えたばかりなのにな》
「私の魔法おかげじゃない?」
《はぁ? でも、すぐ新ジャガが食べれるな》
「早く食べたいね」
だけど、今日はお昼過ぎに魔法の訓練があるから、収穫は明日かな。明日、収穫したら皮を剥かずに素揚げして、バターと塩で味付けして食べよう。
「トラ丸、お腹すいたね。お昼なに食べる?」
《ポテトサンドがいいな》
「いいね。カルロに頼んで作ってもらおう」
《作ってもらおう! 行こう、マリ!》
トラ丸はヴォルフ様との事をなにも聞かず、いつも通りだから、私も笑っていられる。学園が始まったらどうなるかわからないけど、私がデリオン殿下の事は好きにはならない。だって、私はヴォルフ様が好きだから……密かに、想うだけはいいと思う。
彼の大国へと、つながるであろう空をあげた。




