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お父様とお母様に許可をもらった2日後。私とトラ丸はゲドウさんとラゴーネさんと一緒に、エフルの森に来ていた。
「おっ!」
《おお!》
前回とは少し、森の様子が変わっていた。何も生えていない戦禍の残る土地に、新芽がポツポツ生えていたのだ。1番驚いたのは、精霊が宿ると言っていた巨木の炎が――ほんの少し和らいだように見えた。
ゲドウさんは瞳を大きくしながら、その巨木を静かに見上げていた。
「未知の力とはすごいな。ボクもこの手に欲しかった……」
そう呟き、固く握った手。
ラゴーネさんは、ゲドウさんの肩をポンと叩き。
「人それぞれ持つものは違う。羨ましがるな、人は人、自分は自分だ。自分ができることを伸ばせばいいんだ」
そうだ。私にもできないことはたくさんあるだろう。今は、神様からもらったであろう、力を伸ばしているだけ。
《マリ、やるぞ!》
「えぇ、やるわよ!」
数分後。魔力減りのヘロヘロな私とほっそりトラ丸が出来上がった。私はマジックバッグから取り出した魔力石を砕き、トラ丸は山盛りのポテチを食べている。今日は多めに作ったので、ラゴーネさんとゲドウさんにもお裾分けをした。
パリパリ、サクサクといい音。
「相変わらずの美味さ、ポテチはいいなぁ~」
「な、な? 味が似てる? これはシャドゥクイーンか?」
「……シャドゥクイーン?」
《?》
トラ丸と首を傾げる。
「そっか、2人は知らないか。シャドゥクイーンとは――マリ達が言う、ジャガイモの事だ」
え、ジャガイモ?
《ジャガイモ?》
ラゴーネさんはコクっと頷き。
「シャドゥクイーンは紫色のジャガイモ。野生種と言われて、自然が持つパワーが優れているんだ」
「紫色のジャガイモで、自然が持つパワーをふくむ?」
「あぁ食べればドンドン、元気になるよ」
元気になるジャガイモかぁ、欲しいかも。
「フフ、元気になるジャガイモね。それにしてもこのポテチ、ジャガイモを薄く切って油で揚げているのかぁ~面白い食べ方だね。やっぱりマリちゃんは面白い」
ヒォ――……ゲドウさんの瞳がキラッと怪しげに光った。面白いって言ってくれるのは嬉しいが少しビビる。トラ丸なんて、体と尻尾が膨らんでシャーって威嚇したよ。
「ゲドウ、あまり驚かすな。仲良くしてもらえなくなるぞ。ワレはマリ、トラ丸とこれからも仲良くしたい。そしてもっと美味いジャガイモが食べたい!」
ラゴーネさんは食欲かぁ。
美味しいジャガイモ……今度、芋餅を作ろう!
「さてと、魔力も回復したし。もう少しだけ、やるかな」
《だな。しかしあまり遅くまでやると、ヴォルフが来てしまうぞ》
「そうだね」
昨夜、夕方ごろ会いにいくって書いた手紙が届いた。もう少し畑を育てたら帰って、お風呂に入って準備しなくちゃ。
《マリ、嬉し過ぎて飛ばすなよ》
「わかってるよ、でも嬉しいね」
顔がニヤけちゃうよ。
息を吸い、気持ちを落ち着けて。
畑の前で"実って!"と、願いを込めて魔力を流す、トラ丸は周りを走り生えた目を伸ばしていく。畑に一つだった新芽はポツン、ポツンと土を盛り上げ芽をだした。
「いい調子、もっと行くわよ」
《おう!》
これがいけなかった?
何が原因かわからない。
魔力を放ったとき、トラ丸と魔力が溶け込む感じがした。
「え?」
《あ?》
このとき、私はトラ丸とはじめての憑依をしてしまったのだ。