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ラゴーネさん、トラ丸と一緒に着いた先は森の中だった。しかし木々は倒れ、家は崩れ、中央の巨木は戦禍の炎がくすぶっていた。
(呼吸がしづらく、息が詰まる……そんな感覚が襲ってくる)
《マリ、ここは息苦しいな》
「トラ丸も、そう思う? 私も同じ」
「そうだろうな。ここは長年の怨念が溜まる、エフルの森だ」
え、エフルの…… それって、さっき書庫で調べていたときに見つけた書物に書いてあった……呪われた森だ。この戦禍の傷跡が残る、エフルの森に"万能の実"があるというの?
でも、この場所に私とトラ丸が連れてこられたということは。ここに万能の実があるということ。
ーー信じてもいいのかな?
隣にいるラゴーネさんは、どこかにいるゲドウさんに声をかけた。
「おい、ゲドウ! マリとトラ丸を連れてきた!」
「ありがとう。ラゴーネ、マリちゃんとトラ丸を連れて奥まで来て欲しい」
わかった。とラゴーネさんは私とトラ丸を、エフルの森の奥に連れていく。そして着いた場所は……焼けてしまった畑だった。畑を焼き、灰が肥料となって元気な作物を作るために行う……焼畑とは違う。
通ってきた森と同じく、荒らされてしまった畑。
その場所にゲドウさんは私たちを待っていた。
「マリちゃん、トラ丸君をこの様な辺地へ連れてきて悪いね。でもね。この畑で採れる植物が万能の実、奇跡の植物と言われていた……」
「え? この畑で採れる植物が万能の実?」
《どういうことだ?》
いつもは余裕ありげな、彼の瞳が揺れる。
「ボクの家族、仲間はお人好しすぎて人間に騙され、奪われ、燃やされてしまったんだよ。仲間が逃げるさいこの土地に人を入れないよう呪いをかけた……その呪いがいまも残る」
「呪いがいまも残るっている? ……それで、ゲドウさんの家族、仲間たちはどうなったの?」
「今も住み慣れない土地で、細々と人間と関わらないようにして生きている。先祖から受け継いだこの土地に、いまもなお帰りたいと願いながら……ボクたちは長寿だからキツイね」
――長寿?
《書庫の古書に載っているくらいだ、相当長生きだな》
「だな。マリ、トラ丸も来るときに見たろ? あの巨木はこの村の守り神で、巨木には精霊が宿っているらしいんだ。その精霊が何故か、焼けてしまった森を村を元の姿に戻そうと。いまも巨木に宿り続けている、が――その命が、いまにも尽きようとしているんだとよ」
「え?」
《なに!》
守り神、巨木に宿る精霊の力が尽きてしまうと……どうなる? もしかして、2度と万能の実が手に入らなくなってしまう?
そうなったら、大変だ。
私とトラ丸はなんとしても、この目の前に広がる、畑を再現させないといけないらしい。
「トラ丸、やるしかないようね」
《うむ、無理だと思う前にやるしかないな》
私は焼け野原の畑に手をつき、ヴォルフ様に習った通り魔力を高めた。




