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《信用ならん!》
「別にトラ丸くんには信用を求めていないよ。マリちゃんの意見だけ欲しい。どうする?」
私はゲドウさんの話を聞きたいけど……トラ丸がすごく嫌がってる。迷うけど、ゲドウさんの話が本当なのなら聞きたい。ヴォルフ様の悲しむ顔は見たくない。
「トラ丸、聞いてもいい? 私……」
《マリ、わかってるぞ。ヴォルフの事を悲しませたくないのだろう》
コクっと頷く。
「大丈夫だ2人とも、ゲドウの話は本当だ。ワレもその場所は知っている」
黙っていたラゴーネさんが口を開く。場所? 万能の実が採れる場所を知っているということ? ラゴーネさんまで、そう言うのなら信じるしかないかな?
「トラ丸、お願い。話を聞いてみよう」
《そうだな、ラゴーネまで言うなら信じるか。ワシとマリでは行き詰まっていたと思う〉
「話は決まったかな? そうだね。ここで話をするより、マリちゃん達を場所に連れて行こう」
「その方がわかるか……危険な場所だ」
危険な場所?
「じゃ、ボクが先に行って呪いを弱くしておこう。いま作る転移魔法はそのままにしておくから、10分後にきて」
ゲドウさんは応接間のテーブルと椅子を魔法でどかして空間を作ると、杖をだして魔法を唱えた。応接間の中央に緑色の魔法陣が浮かぶ。
「10分後ね」
そう言い残して魔法陣の中に消えていった。
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10分が経ち。ラゴーネさんと一緒にゲドウさんの後を追う。
「マリ、離れないよう、トラ丸を胸にしっかり抱きしめろ」
「う、うん。トラ丸、嫌だろうけど抱きしめるね」
《うむ。優しくな》
もふもふのトラ丸を抱きしめ、ラゴーネさんが出した手を握った。どこに行くのかわからない……でも、そこで万能の実が手に入れば、ヴォルフ様のお父様が助かる。
――ヴォルフ様の悲しむ顔ではなく、私は笑顔をみたい。
「ラゴーネさんよろしく」
「ああ、トラ丸とワレの手を離すなよ」
《大丈夫、安心しろ。危なくなればワシが、マリの服に爪をたてて引っ付く》
「行くぞ!」
ラゴーネさん、トラ丸と一緒に、ゲドウさんが作った魔法陣の中に入った。
その数分後。ピンク色な髪の女の子と、黒いオオカミが応接間の扉を開けた。
「誰もいない。ちょっと前……何か魔力のようなものを感じたんだけど? 何だったのかな?」
〈さぁーな。この部屋を見る限り、誰かが魔法で掃除しようとしたんじゃね〉
オオカミは端に寄せられたテーブルとソファを鼻でさした。それを見て、女の子もコクコク頷く。
「そうみたいね。まあ、わたしには関係ないかな? グラウ! さっさとゲドウを探すわよ。今日こそ、わたしが他の人よりも優れていて、聖女の素質を持っているってわからせないと」
ーーフフ、わたしの才能が怖いわ。
(……才能ね。封印を解く力はあるが、コイツに聖女は無理だと思う)
だが、この自信満々な態度が打ち砕かれる瞬間をみたい、と。今日もグラウは女の子の側にいるのだ。
〈がんばれ。だが、あの男は相当な切れ者だと思う〉
「それは平気よ。わたしの、この可愛さがあればイチコロよ!」
自分で言うように、可愛い顔はしていると思うが……それほど力を持っているようには見えないな。