78
〈トラ丸!〉
《クク、アイツの驚いた顔がいい! こっちが先手を取れば、なにも言えないんだな》
まだ頭の上で笑い転げるトラ丸。デリオン殿下とゲドウさんはしばらく私を見ていたが、本棚で必要な本を探しはじめた。
私も彼らを気にせず、持ってきた本を開く。
《ククク》
〈ほら、笑っていないでトラ丸も探してよ〉
《わかった、わかった》
頭の上から、私が開く本を覗いた。
《歴史書か。結構、古いのまで持ってきたな》
そう、本棚で目についた歴史書の古い順から持ってきている。戦争、政治の中で"万能の実"が使用されていないか、調べるためだ。あとは医学書でも探そうと思っていた。
書庫で探しても見つからない場合。王都にある冒険者ギルドで"万能の実"の話を聞きに行こうかとも考えている。
〈だって、私達って万能の実について、なにも知らないじゃない。片っ端から気になった本を読もうと思ってね〉
《そうか……。それならマリ、ラゴーネに聞いた方がいいのでは? アヤツ、結構昔からいそうだぞ》
〈ラゴーネさん?〉
東のストール山に封印されていた、ドラゴンのラゴーネさん。彼に会えば、封印前の話を聞けば何かわかるかも。今はどんな手がかりでも欲しいからアリな話ね。
〈でも教会かぁ……今日は許可を貰っていないから、中には入れないかも〉
《なに? また許可いるのか……マリが中に入れないんだったら、ワシが中に入ってヤツを呼んでくるか?》
〈トラ丸が?〉
そっか、トラ丸の姿はみんなに見えない。サッと入って、ラゴーネさんを呼んで帰ってくればいいか。
〈危なかったら逃げてよ。心配だけど、トラ丸にお願いする〉
《大丈夫だ。任せておけ!》
次に行く場所は教会に決まった。
そして、書庫で最後に開いた本に興味を引くものがあった。それは王都から西の端にあるエフルの森。その場所に人が入れない危険区域があるらしい。その土地はいまだに大昔の戦火の炎が残る――呪われた土地と書いてあった。
〈エフルの森、呪われた土地かぁ~〉
《マリ、気になっても連れて行かないぞ》
〈わかってる。トラ丸、時間だし教会に寄って帰ろう〉
筆記用具をしまい出した本を本棚に返して、書庫で勉強している2人に挨拶した。
「デリオン殿下、ゲドウさん、私達……私はお先に失礼いたしますわ」
「ああ」
「おつかれさま。またね」
おほほほっと、書庫番に許可書を返して私達は王城も後にした。書庫に置いてあった歴史書、医学書に"万能の実"の名前は出てこなかった。だが、いまから200年前に大勢の人の病気を治した『奇跡の植物』があったことが記されていた。
それについて、どんな植物かは記されていないし。
どこで採れるのか、書物に書いてなかった。
「ふうっ、万能の実、奇跡の植物かぁ~。ねぇトラ丸、どちらが見つかっても良さそうじゃない?」
《うむ。どちらも病気に効くとなれば、どちらでも良いな》
「だよね」
教会で、ラゴーネさんに両方の事を聞いてみることにした。教会に向かう途中で苺のアイスクリームの屋台を見つけて、トラ丸の瞳が光ったのはいうまでもない。
《マリ、苺だ!》
〈ほんとうだ!〉




