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このポテチ……お母様から貰った保存ができる魔導具に入れておいて食感はサクサクだけど、カルロが作るときより微妙。少し焦げているし、塩が少ない?
《何か足りない、その何かはわからない》
「トラ丸もそう思う? そうなんだよね。美味しいのだけど、何か足りない」
「僕は好きだけど……(お、魔力が回復したな)」
《ボクも好き(疲れとれる)》
「私も好きですよ(体力回復)」
《ポ、スキスキ(幸せ)》
マリーナが作るお菓子にはいろんな付与がつく。ヴォルフたちは気付いているが言わない。それは、それを知ったマリーナが暴走するからだ。前のラゴーネのときのように暴走させたくない。自分にはまだ守れる力が少ないとヴォルフは感じた。
(大切なんだ、君を誰にも渡したくない)
まだまだ魔法の勉強、体力――どれにしても足らない。マリーナをどんな脅威からも守れる男になりたい。指輪を渡してはいるものの……僕が近くにいなければ、権力はマリーナを襲う。
(なくしたくない、マリーナの笑顔が僕を守るんだ)
「ヴォルフ様、図鑑を見てます」
「え、見てるよ。マリーナはスライムを見た? 説明欄にドロドロしていて、何でも溶かす溶液を出すって書いてあるだろう?」
《マリ、これはダメだ!》
「う、うん――思っていてのと違う、危ないね」
(目をまんまるにして可愛いなぁ)
図鑑よりマリーナを見ていた僕にシラが近付き、耳打ちした。念話だと、マリーナに聞こえてしまうから。
「(ヴォルフ様、例のものが届きました。マリーナ様にお見せしますか?)」
「(いいね、取り出して)」
シラはクエルノ国にいる父上、母上との、やり取りができる魔道具の箱を持っている。大きな物、重い物、生物は送れないが。その箱に入れると、入れてもらうと本人の手元に届く仕組み。
「(取りに戻ってきます)」
そう言って僕の屋敷に転移して、すぐに例のものを持って戻ってきた。それを渡すのは少し緊張する。マリーナは喜んでくれるかな? いろんな思考が繰り広げられる。
(笑顔で受け取って欲しいな)
「いきなりだけど、マリーナにプレゼントがある」
「私にプレゼント?」
シラが取り出したのは僕の色ーー白銀の髪と水色の瞳を使ったワンピース。もうすぐ来るマリーナの誕生日に着て欲しいと思って、母上に頼んだ。母上はそれはもう大喜び、サイズは? 色は? マリーナのことを聞いてきた。
「これなんだけど、誕生日の日に着てくれる?」
送られたワンピースを見せた。マリーナの反応は?
なんだよ。そのキラキラした瞳と嬉しそうに上がった口元。
「わぁ、可愛い……このワンピースを私が貰ってもいいの? 嬉しい、ありがとうヴォルフ様。待って、早く汚れ防止の袋に入れて、クローゼットにしまわなくっちゃ」
《そうだな、汚すなよ》
「ええ、汚さないわ。でも、この可愛いワンピースを一度だけ姿見で合わせたいわ、私の好きな色なんだもの」
(好きな色⁉︎)
きゅっと、ワンピースを大切そうに抱きしめたマリーナに、僕の気持ちは全て持っていかれた。