男の独り言
男が1人、クッキーを一枚かかげ【鑑定】と唱えた。鑑定の結果を見て男は"やはり"と微笑む。このクッキーには微量だが体力向上、魔力向上の付与が付いていたのだ。
竜と、オオカミはわからないが。
本人と、周りはまだ気付いていない。
「少し手伝っただけかな? 聖獣、植物魔法、緑の手ときて……料理にまで付与が付くとは、計り知れない力を持っているな」
鑑定終わりのクッキーを口に放り込み、男はニタっと笑った。あの子が手に入ればワタシの悲願が叶う。父上、母上――もう少しで自国復活の願いが叶う。
地図にもならない小さな国だったが、精霊、魔法とともに歩んできた、ワタシにとって大切な国だった。父上の政略の失敗が元で国は消滅した。
当時は父上を恨んだが――父上は騙されていたのだ。
ギリリと歯軋りの音。込み上げた感情で、手の中のクッキーを握りつぶそうとしたが、押しとどめた。
(味もいいし、なにより魔法付与付きだ、勿体無い)
あ、そういえば。
もう1人を思い出した。
「あの女の子はどうするかな? 魔獣を手懐けているのかと思えばただのツレ。回復魔法が使えるみたいだけど――並以下。自分に自信があり、見た目だけが良い女の子」
いまから、鍛錬を積めば使い物にはなるか?
それとも、人をたらし込むコツを教えるか?
まあ、何かに使えるだろう。
問題は言うことを聞かない竜だな。あの家に側近として送り込めば、いくらか面白くなるか。その前に婚約者のあの王子を国にお帰り願わないと。
しかし。
あの国で、小指のシルバーの指輪は婚約の証。
いつの間に婚約の話を進めたのやら。
でも、まだ婚約だ。
どうにでもなる。
クッキーをもう一枚、口に放り込み。
ハァ……先は長いが諦めない。
ようやく、か細いが道はできたんだ。