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私たちがいる応接間に現れた魔獣。その魔獣にヴォルフ様、クロ君、ポ君、トラ丸、シラさんが臨戦体制にはいり黒犬は焦る。
《おいおい、ちょっ、待てよ。オレはお前らを襲う気持ちも、戦う気持ちもない。ただ、アイツの話に疲れてここに休みに来たんだよ》
黒犬はほんとうに戦う気がないらしく、ソファに体を休めるようにして座った。みんなは黒犬に敵意なしとわかり臨戦体制を解いた。
《お前、茶でも飲むか?》
《飲む! それにオレはお前じゃねぇ魔獣グラウだ。あと黒犬じゃなくてオオカミだからな》
「オオカミ?」
「オオカミの魔獣グラウ……魔獣といえばクエルノ国にも昔は存在していたらしいが。今では、ほとんど見かけなくなったと聞いている」
《だろうな。人間が増えて住みにくくなった。この土地を離れて他に移動したんだろう。オレは封印されていたからよく分からんが》
「「封印⁉︎」」
ヴォルフ様と言葉が被る。封印といえばドラゴンのラゴーネさんもだ。乙女ゲームの彼は1年後に封印が解けて出てくるはずだった。それがいま封印が解けてしまい、さらに呪いまで受けていた。
封印されていた魔獣グラウが今ここにいると言うことは……誰かが彼らの封印を解いたことになる。それに、お母様の話ではラゴーネさんの封印の場所は結界魔法に守られていて、関係者以外知らないと言っていた。
関係者。封印を解いたのはゲドウさん? そうだとしたら……彼の側に魔獣グラウの姿があったはず。だが彼のそばにグラウはいなかった……封印を解いたのがゲドウさんじゃないとしたら。
(今、この教会の何処かに封印を解いた人物がいる?)
〈マリーナ、シラ、クロ、トラ丸、ポ、推測だが。僕達の前に魔獣グラウがいると言うことは……教会に封印を解いた者がいる。と言うことじゃないか?〉
〈ヴォルフ様……私も、今そう思いました〉
〈はい。考えていくうちに、その答えに辿り着きました〉
《ヤツが今、面会している者ではないのか?》
《そうだね》
《ポ、見てくる?》
ヴォルフ様がコクリと頷き。シラさんがポ君をさぐりにいかせようとしたが。魔獣グラウがムクリと起き上がりコチラに目を向けた。
《悪いが、お前達の話は全てオレにも聞こえている。おい! そこのフクロウ行くのはやめとけ、厄介ごとに巻き込まれるぞ。オレは関わることなく傍観者でいたい……楽しいことさえあればいい》
《楽しいこと? それはわかるぞ、マリと出会ってから、今も昔も楽しいことばかりだ》
《ウンウン、楽しいね》
《ポも楽しい!》
《ワレも、同意見だな》
いつのまにか応接間の扉が開いていて。そこにツノと尻尾がなく燕尾服を身につけ、私達と同じくらいの歳に見えるドラゴンのラゴーネさんがいた。
「え、ラゴ……」
《あ、マリ! いまは我の名を呼ぶな!》
彼が瞬時に私の側まで移動して、手で口元を押さえ《あの女の匂いに覚えがある。ワシの名前をソイツに知られたくない!》と言った。




