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聞き覚えのある声に振り向いたが。
《な、なに⁉︎》
「だ、誰?」
私とトラ丸は首を傾げた。
呼びかけた人物はフッと笑い。
「あれ~気付かない? 娘ちゃんと呼んだほうがいい? ボク、ゲドウ。ゲドウだけど~」
⁉︎
「え、ゲドウさん?」
《なぬ?》
笑った顔は変わっていないが。ドラゴンのとき出会ったシャツとスラックスの格好ではなく、今日の彼は聖職者の姿をしていた。
頭の上のトラ丸が彼の登場でブルっと縮こまる。そうだ、彼は私に声をかけてくるまで。ぜんぜん気配を感じさせていない。
(まるで、忍者だわ)
《マリに、同意見だ!》
彼の登場に焦る私の気持ちを知ってかしらぬか、彼は笑顔で手をひらひら振った。
「あらためて。おはよう、マリちゃん」
「おはようございます、ゲドウ様」
「ハハ、様はいいよ。君もお茶会に呼ばれたの? それにしちゃ~ラフな可愛い格好だね」
私のワンピース姿を見つめた。
「はい。本日のお茶会の招待を受けていません。ヴォルフ様と書庫に調べものをするために来ました。そのあとは王都見学をして。午後になりましたら、教会に伺う予定です」
そう伝えると、彼の瞳が弓形に弧を描いた。その笑みにゾクッとする。トラ丸は頭の上で"フシャーっ"とゲドウさんを威嚇した。……確か、ゲドウさんにトラ丸は見えていたはず。
――だけど、彼は気にせず笑顔のまま。
「ほんと! マリちゃんが教会に来てくれるの? お茶会を早く切り上げて帰らなくてはね。ラゴーネも会いたいと言っていたから、喜ぶよ。それで、調べ物はなに? ボクにも教えられる?」
「え?」
「めんどうなお茶会よりも、マリちゃんの調べものに付き合いたいなぁ~」
(主催のデリオン殿下の前でそれ言っちゃうの?)
《コヤツ、中々の強者だな》
「フフ。ボク、魔法も詳しいし。賢いから色々教えられるよ」
大丈夫です。と断ろうとした。だけど、私を見つめる彼の瞳を見ていると「はい」と頷きたくな、る? ……い、、いいえ、私は昨日……あ、あれ? なに、なにコレ。自分の中に別の意思を持った私が……
「マリーナ、トラ丸!!」
《それ~ダメ、ダメだよぉ~》
「ヴォルフ様? とクロ君?」
こちらに走ってきた、ヴォルフ様に手を握られて、引き寄せられた。クロ君は私達を守るように前に出る。
「ゲドウさん、おはようございます。マリーナには僕が教えるので大丈夫です」
「……あらら、もう来てしまいましたか~残念……。そろそろ時間ですね。デリオン殿下お茶会に向かいましょう?」
「……あ? ああ」
「では失礼します、ヴォルフ殿下、マリちゃん。午後、教会にてお待ちしておりますね」
いつの間にか。落ち着き、静かになっていたデリオン殿下を連れて、ゲドウさんはお茶会に向かっていった。