魔法の鏡
テラスで彼が言った8時過ぎ、私は貰った鏡に手を添えて名前を読んだ。「ヴォルフ様、いらっしゃいますか」と。その返事はすぐに帰ってくる。
「ああ、いるよ」
《ボクも、いるよ》
鏡に映ったヴォルフ様はいつもとはラフな髪型と、薄水色のパジャマを着ていた。側にクロ君もいるみたい。
「こんばんはヴォルフ様。凄いわ、まるで側にいるみたい」
「うん、そうだね。いまはまだ、魔力を持つものしか使えないけどコレは映像もキレイだし、なかなか良いものだね。まだまだ改良する点もあるみたいだけど」
「でも、実用化したらステキですね。だって、離れていても大切な人と話せるから」
《そうだな、コレはなかなか面白い!》
私の横からヌッとトラ丸が、ヴォルフ様と話す鏡を覗いた。ふんふん鼻を動かして、トラ丸もこの鏡が気になるみたい。
《なぁヴォルフ、明日の朝食は馬車の中になるだろう? 何が食べたい?》
「あ、トラ丸? それは私がヴォルフ様に、聞こうと思っていたのに」
《フン。早くしないと、ヴォルフとの通信が切れてしまうぞ》
「もう、そうかもしれないけど……」
鏡の前で、兄妹ケンカをする私とトラ丸を。
ヴォルフ様は笑いながら止めてくれる。
「はい、はい。マリーナとトラ丸、鏡の前でも兄妹ケンカをしない。ボクはたまごのサンドイッチかな」
《ボクはポテト!》
クロ君もしっかり好物を伝えてきた。
「わかりました。たまごとポテトのサンドイッチと。あとはサラダ、鶏肉もいいかな? 作って持っていきます」
「ありがとう、楽しみだ」
そのあとは魔法のこと。明日のことを話して「おやすみ」の挨拶をして。今日の10分の通話は終わった。
私はウキウキした余韻を残しながら、ベッドに飛び乗り、仰向けに寝転んだ。すぐに隣もトラ丸がやってきて、側でまるまる。
「ハァ、楽しかったね。トラ丸」
《そうだな。ワシのはポテト多めにな》
「わかった! 明日は、とびきりなサンドイッチをカルロと作るよ!」
明日の、ヴォルフ様とのお出かけ楽しみだ!