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お風呂上がりパジャマ姿で、寝室のテーブルで私は魔力石になる石を眺めていた。トラ丸はというと毛繕いを終わらせ、私のベッドの真ん中をじんどり、モフモフなのお腹を見せびらかせへそ天中。
あのお腹で顔をもふりたい。
あのお腹はモフモフ天国やぁ~
《マリ、触るなよ》
ギクッ。
「わかってる! えーっと。ヴォルフ様が教えてくれた"あの量"の魔力をこの石に込めればいいのよね」
《覚えてるのか?》
「一応かな? 何個か作ってみようとしたけど……全部、砕けちゃった」
石は魔力を込めすぎると砕け散る。石にこめられる魔力の量を見極めないといけないから、魔力コントロールの練習にもなるみたいだけどぉ。
(まだ、習いたての私にはそれが難しい……もう少しやってみよっと)
ゲドウさんから貰った木箱から石を取り出し、魔力を込めるも。バギッ、バギッ、バギッと石が砕ける音が部屋に響く。
「クウッ、むすがしぃ~」
《マリ、我を忘れるなよ》
「わかってる」
私はトラ丸に見守られながら石に魔力を込める。ヴォルフ様の魔力の量は……これくらいだった? それともこれくらい? ――集中して魔力を石に込めると、手の中の石がピカッと光を放った。
(え? ええ――⁉︎)
真っ白い石が、透明な石に変わっていた。
「これって出来た? トラ丸、魔力石が私1人でも出来た?」
《おお、それは紛れもなく魔力石!》
「ヤッタァ! すごい、すごい!」
出来上がった魔力石を見つめた。そして無性にヴォルフ様に会いたくなる。時刻は8時過ぎ――子供は寝る時間だけど、少しならヴォルフ様に会えるかも。
「トラ丸、大きくなって!」
《はぁ? 王子のところに行くには遅いぞ!》
「見せたい、見てもらいたい……お願いトラ丸」
《王子が、寝ていても知らんぞ!》
「そうだったらすぐ帰るから」
《仕方ないな》
「ありがとう、トラ丸!」
大きくなったトラ丸に飛び乗り、ヴォルフ様の屋敷へとパジャマ姿で向かった。
トラ丸に乗って、ものの数秒でヴォルフ様の屋敷へと着くと、庭先から声が聞こえた。私とトラマルはソッと近付き、茂みから庭を覗くと。月明かりの下、庭で上半身裸で剣を振るうヴォルフ様がいた。
わぁ!
彼のいつもの笑顔は消え真剣な瞳と息、剣を振るう音が庭に聞こえる。クロ君は離れた位置で大人しく眠っているようだ。
これは、近寄ってはいけない空気を感じトラ丸に。
〈邪魔しちゃマズイ、帰ろう〉
《そうだな、明日見せればいい》
音もなく、帰ろうとしたが。
「誰だ、そこにいるのは?」
ヴォルフ様に見つかった……
「…………」
「いるのは分かっている。もう一度聞く、誰だ?」
「……あ、あ、あの、ヴォルフ様」
「え? マリーナ? こんな時間に何かあったのか?」
《ふえっ? マリーナ?》
ヴォルフ様の声にクロ君まで飛び起きてしまう。私は魔力石が出来た喜びだけで屋敷を飛び出し、ここまで来てしまった。
そんな行動をして、いまさがながら恥ずかしくなってくる。
格好も薄ピンク色のカボチャパンツの可愛いパジャマに、おさげと前髪はちゃんまげ……こんな姿をヴォルフ様には見せられないし、上半身裸のヴォルフ様は直視できない。
〈トラ丸、どうしよう〉
《マリは、いま気付いたのか?》
〈……うん〉
《まあ、会うだけあって……》
「マリーナ、トラ丸? どうして出てこない? こっちから行くよ」
え? 上半身裸で⁉︎
「ま、ま、待って、出ます。すぐに出ます!」
トラ丸と一緒に茂みから飛びでた。