ピンク髪の女の子と灰色オオカミ
深夜遅く。ふわふわなピンク色の髪をした少女と灰色の狼が、灯りの魔法を使いストール山の入り口の森にいた。そこは先ほど、ドラゴンが現れた場所だ。
場所はすでに魔術師達の魔法によって、木々は戻り、凹んだ地面もほぼ元に戻っていた。
この場所で少女はウキウキ、スキップをして、鼻歌を歌っている。
「フ、フフン~ラゴーネはどこにいるのかな? わたしの特別な回復魔法で、ケガを負ったあなたを治してあげる! ねぇ、グラウがかけた呪いはそのままでいいのよね」
《いいんじゃないか? 恋の呪いだし、効いたままの方が都合がいいだろう?》
「都合か? そうね。いまラゴーネのキズを治せばフラグが立つ。本来なら、王都学園の2年になって再びラゴーネとは会うんだけど。そんなの待っていられない! わたしは早く、みんなの恋人になりたいの!」
少女が歩けば、フワフワなピンクの髪が踊る。
その少女の隣を歩く、オオカミのグラウは"から笑い"(作り笑い)をした。
「グラウ、バカにしてる? 前にも言ったでしょう、この世界は私の世界なの。だから、わたしがラゴーネとグラウの封印を解いてあげたのよ!」
ドラゴン――ラゴーネの封印を解いたのは、このマリーナと同じくらいの(中身は歳上の)少女だった。
《フウッ(封印の解き方は攻略の本に書いてあった、だったか?)別にオレは眠ったままでもよかったな。この世界に楽しいことがあるとは限らん》
「また楽しいこと? わたしといれば楽しいって! グラウにも、たくさんお友達も出来るよぉ~」
《友に興味はない! オレは気楽な1人でいい》
「ええ、嘘っ! わたしはたくさんの人に愛されたい! こんなに可愛い子に生まれ変わったし、特別な力だって持っている! ――みんなは可愛い、わたしを好きになる」
グラウは少女の話にあきれ、ため息を吐きながらもついて行く。まあ、ほかに楽しいことが見つかれば、そっちに行くだけだからと。
(まだいまは、コイツの考え方が面白いからな)
数分後、少女は悲鳴の様な声を上げた。
「どうして? どうして? わたしがこんなに探しているのに! いない! いない! ラゴーネと傷付いた生き残りの騎士は? 魔術師も? 誰もいないじゃない! ここでわたしがラゴーネと大勢の人の傷を癒して、聖女の生まれ変わりだって噂されるようになるのに!」
(ハァ、聖女ね。魔獣のオレを連れているくせによく言える。お前より、前の聖女は強かった。オレは負けを認めたから封印されたんだ)
グラウは大昔悪さをして、当時の聖女によって封印されていた魔獣であった。乙女ゲームで"マリーナ闇堕ちルート"に入ると出てくる設定の魔獣。彼は乙女ゲームらしく人型にもなれるオオカミだ。
「いやぁ――――! わたしのラゴーネがいない??? 誰よ、連れていったのは? 誰なのよぉ――??」
すごい執着だ。少女は諦め切れず森をくまなく探したが、お目当てのラゴーネは見つからなかった。
「なんで、どこにも誰もいないのよ……」
今度はグズグス泣き出した。
(ハァ……コイツの能力と性格は面白いが。思い込みの激しいヤツは面倒だな)
「おい、泣くな! 日が上ってから、また来ればいいだろ?」
「そっか! 明るくなったら探しに来よ!」
この、おかしな少女と早々に別れた方がいいと、グラウは考えはじめた。