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〈マリ……お前はもう少し、物事を考えてから話したほうがいいのでは? 嫌いな王子との婚約はしたくないのだろう〉
聞き覚えのない念話の声が聞こえた。
この声は誰? ヴォルフ様、シラさんの声ではない、誰からかの念話が飛んできた。辺り見回すとドラゴンがいた位置にシャツとスラックスを着た、短い赤髪、黒い瞳の男性がいた。その男性の頭には黒いツノとウロコ状の尻尾があった。
〈まさか、この念話はドラゴンさんからですか?〉
〈そうだワレだ。いまマリはワレの言葉がわかると言い、大事になっている〉
〈え? うそ?〉
周りを見渡すと騎士団、魔術師達は何か話をしている。明らかに変だ……私がドラゴンの言葉がわかると言ってしまったから? マズイ、まずい……デリオン殿下の婚約者になるのは嫌だ。
〈ククク、そう面白い顔をするな。仕方がない、ここは助けてもらったお礼をしよう。あとワレの名はラゴーネだ〉
その、ラゴーネさんは。
「皆の者聞け! ワレが、この少々変わった能力を持った小娘に「助けて欲しい」と念話を飛ばした。小娘はただ、それに従っただけである!」
声を張り上げた。その張り上げた声はよる圧力と威厳に、みんなは跪きラゴーネさんの話を信じた。
〈フン、人間は相変わらず弱いな……と言いたいが呪いにかかったワレが言うのもな。マリ、ここまではしてやった。後は自分でどうにかしろ。ワシはゲドウの元へ向かう〉
そう言い残すとラゴーネさんは姿を消した。
辺りの圧力と威厳が消えてみんなが動けるようになった。騎士団は「残っていては魔術師達の迷惑になる、この場から撤退する」と言い森の出口に向かった。「団長さんもわかってきたようね」とお母様がいい。残った魔術師達は休憩後、土、緑魔法を使い。倒れてしまった木々、穴があいた土地を元通りにするようだ。
これで終わったのかな?
まあ帰ったらまたお母様と、今度は事情を知ったお父様に叱られるだろう。
でも……あ、危なかった。頭に思った事をスルッと、口に出すのは危険だと知った。
さてと。
「ヴォルフ様、トラ丸、みんな! 私が変な事を言ってしまう前に帰りましょう」
《そうだな。今回は大事にはならなかったが……まったく、ドラゴンのおかげだぞ! マリ、もう少し考えろ!》
〈そうだね。デリオン王子の婚約者まっしぐらになるところだった〉
《ウンウン、まっしぐら!》
〈でもさ、あれだけ嫌われていたら、それはないと思うけど……ううん、これからはもう少し考えたから話すようにする〉
〈絶対にしたほうがいい。王族の力を甘く見ちゃダメだ、デリオン王子との婚約者じゃなくても、逃げられなくする方法はいくらでもある。あのゲドウとか言う聖職者も、マリーナの事を気に入ったぞ!〉
少し強い口調でヴォルフ様に言われる。私が危険な事をしたから怒っているのかな?
みんなと屋敷に帰ろうとしたが。はっていた緊張が解けたのかわからないけど――私の足がガクガク震えはじめ、地面にペタリと座ってしまう。
トラ丸も大きな体から、いつものトラ丸に戻ってしまった。
「どうした、マリーナ?」
「ヴォルフ様、急に足に力が入らなくて、立てない」
すぐ側に来てくれて、ヴォルフ様が手を出した手を掴んだ。
《マリの魔力が少ないな》
「なに? 魔力切れか――」
魔力切れ?
あ、手と手!
「だとしたら、アレがあるじゃない。こんな時のためにヴォルフ様と作った『魔力石』が!」
「「魔力石?」」
休憩中の、魔術師達が食いついた。
「マリーナ?」
「一緒に手を繋いでテラスで作ったでしょう? 私だけだと出来なかったから……(悔しかった)」
「「⁉︎」」
いつも表情を出さない、ヴォルフ様の頬がボッと赤くなる。それにつられて(作っていた時を思い出して)私の頬まで赤くなる。
《うむ。仲良きことは美しきかな(仲良くしている姿はとても美しい)》
〈〈ト、トラ丸⁉︎〉〉
《仲良いのはいいね~》
《ポもそう思う》
《マリーナ、良かったな》
ジロウと、シラさんはコクコク頷いた。魔力石で騒いでいた魔術師とお母様は私達の様子を見て、和やかに笑った。