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あのピンクの髪ってまさか?
そのピンクの髪を、十字架の模様が記された袋にしまい。戻っていくゲドウさんと聖職者を見送った。
私の脳裏に"この乙女ゲーム"のヒロインの顔が浮かんだ。違うよね。私が知っているあの子は、ほんわか、ゆるふわないい子だったじゃない。
ただ髪の色が一緒なだけよ。
それより、やった!
お母様を助けられたわ。
ほっと胸を撫で下ろす私を、お母様が呼ぶ。
「マリーナ、こっちにいらっしゃい」
それも、とびきりな笑顔で私を呼んだ。周りの魔術師達の表情は固まり、カタカタ震えて、青くなっていたことに気付かず。私はカカナお母様の側に、喜んでトラ丸に乗って向かった。
「お、お母様? ……おかあ、さま?」
《マリ?》
いきなり、ほっぺをつままれた。
おう、お母様はかなりご立腹だ。
「あなたって子はなんて危ない事をするのです! 側で大人しく見学しているかと思いきや。大切なお友達のトラ丸と一緒にドラゴンに近付くなんて、おかあさん信じられません! ――あなた達はわたしの心臓を止める気ですか!」
「ごめんなさい」
《すまなかった》
声が届かない、トラ丸も一緒に謝ってくれる。
私のわがままだけで、迷惑をかけたのに。
〈トラ丸にも怖い目にあわせて、ごめんね〉
《ワシは妹に甘い》
〈フフ。ほんと、トラ丸お兄ちゃんは優しいね〉
《妹にだけな――帰ったら、ポテチをたらふく食べたい》
〈たくさん用意するね〉
前世、怒られた記憶があまりなかった。今世、初めてお母様に怒られた――私は嬉しくて仕方がなかった。そう、怒る相手の気持ちを理解していなかったのだ。
「マリーナ、聞いているのですか?」
《マリーナ、主人の言葉をしっかり聞いてください。主人はずっとマリーナを思って、手が震えていました》
お母様の手が震えていた? よく見ると、今もカカナお母様の手が震えている。私が無茶を心配してくれた、それは私を愛しているから、大切だから。
初めての気持ちだ。……前世、お母さんとお父さんが怒ったら、こんな感じだったのかな? まあ、2人とも私を邪魔扱いしていたから……そんなことないか。
私を愛してくれて、悪いことをしたら怒ってくれる。
お母様……カカナお母様、大好き。
「お、お母様……カカナお母様、ごめんなさい。ドラゴンの苦しむ声を聞いて……我慢できなくなったの。たくさん怒っていいよ、私は悪いことをしたんだもん」
「「「⁉︎」」」
感情がたかぶり、ポロポロ泣いていて気付かなかった。いま私は騎士団と魔術師達がいる前で、とんでもないことを言っていた。
《マリ……》
〈マリーナ……〉
《あちゃ、グフフ》
《ポもグフフ》
それに気付いたトラ丸とヴォルフ様、クロ君が"あっ"と驚く表情も、涙目で見えていなかった。ただ人型となったドラゴンだけが気付いていた。




