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「【解呪】」
聖職者のゲドウさんが杖を構えて、神聖魔法を唱えた。この"解呪魔法"にドラゴンは痛みを感じたのか。[グギャ――――――!]と悲鳴を上げた。その悲鳴は辺りの木々を揺らして、地面をも揺らした。
「「グヌヌ――グワァ――――――!!]」
その声は私とトラ丸には悲鳴に聞こえたが。周りのヴォルフ様達、お母様、騎士団、魔術師には違って聞こえたらしく。魔法の杖と剣を構えて、ドラゴンとゲドウさんを見つめた。
「[ヒノリユウノ、ワレガ――アツサヲ、カンジテイル! ――ググ、ヴワァ――――!!]」
「ド、ドラゴン、平気?」
《なんと痛々しい声だ……地響きを引き起こしているぞ!》
私達も慌てたが、ゲドウさんと弟子の聖職者は落ち着いていた。
「はーい、平気、平気。まあ、呪いをかけるのは簡単だけど、かけられた呪いを解くのは進行度によって大変なんだよ。このドラゴン――ちょっと根深く呪いが進行していて、激痛をともなっているだけだから」
「そうなんだ……頑張ってドラゴン!」
《そうだ! がんばるのだぞドラゴン》
「[ノロイノ、シンコウガ、ススンデイタ? ソウカ、ソウナノカ……マリ、トラマル、アリガトウ]」
ドラゴンの赤い瞳が私達を見つめた。
――がんばれ、ドラゴン!
「あと、ひとーつだけ言うとね。その呪い、ドラゴンが寝こけていなかったら、自力で解けたよ」
(え?)
《え?》
「[ナニ!]」
「まっドラゴンには、遠い昔にほどこされた封印が効いていたし。ドラゴン自身が封印を解いて出てこようとしていなかった。言うならば、その大きな図体だから、気付くのが遅れたんだろうね」
呪いに慣れているのか、ゲドウさんは簡単にドラゴンと私達に話し。矢を見つめ、私達に命令を発した。
「よし!娘ちゃん、トラ丸、その矢を一気に抜いちゃって!」
呪いの矢を抜く?
「はい! トラ丸、行くよっ!」
《おう!》
私とトラ丸は呪いの矢をつかんで、咥えて抜いた。
《おっ?》
「うそ、矢が軽いわ」
さっきはあんなに抜けなかった、矢がスルッと抜けていく。このまま引っ張れば矢が全部、抜ける? そう思った私とトラ丸にゲドウさんは今度はストップをかけた。
「君たちが矢を抜くのはそこまで!」
「え?」
《え?》
「あとは、ボクに任せて!」
ゲドウさんは矢をつかみ、己の手で引き抜いた。私達に見えてくるのは矢の先端だと思っていたが違った。黒くドロドロとしたスプラッタ級の物が、矢の先端にくっ付いて出てきた。
「きゃっ! アレ何?」
《不気味だな》
「アレが呪いの元、矢はそれを塞ぐ栓だったんだ。ドラゴン! まだまだ激痛が走ると思うが、しばらくの辛抱だ!」
そう、ドラゴンに伝えると。ゲドウさんは己の体に神聖魔法をかけ、矢が刺さって出来た穴に右手を突っ込んだ。




