50
呪い――私が知っている呪いは丑三つ参りくらい?
異世界の呪いって……不気味。
両手でつかんだ呪いの矢は"ぬるっ"としていた。はじめて感じる黒い魔力、感覚、視覚にも気持ち悪く、すぐ矢から手を離したくなる。何より驚いたのは矢が動くたび、ドラゴンの脇腹からドロドロした液体が流れ落ちるのだ。
(ヒョエ……お母様とみんなの事がなかったら泣く、喚いて失神できる!)
ほんと、気持ち悪い!
「うっ、うう……」
《マリ、平気か?》
トラ丸もこの矢は気持ち悪くて、不気味なのだろう。それなのに自分の心配より、私の心配てくれた。
「……トラ丸、この矢へんな感じ! トラ丸は平気なの?」
《うーん。ワシもなんとも言えないな……この矢は不気味すぎる》
2人の意見は一致。
この矢に触った者にしわからない、なんとも摩訶不思議な呪いの矢。何故? こんな矢が静かに封印されていたドラゴンの、脇腹に刺さっているのだろう。
そして……なぜ? 私はこんな事をしているの?
こんな矢、私とトラ丸は抜ける?
もう、手がベトベトして気持ち悪い。
あー嫌だ。こんな矢を抜くなんて無理、無理!
私とトラ丸がこんな苦労……
《らちがあかん! マリ! 矢を一気に抜くぞ!》
「う、うん、わかった!」
(今、めちゃくちゃ後ろ向きの考えをしていた……このままのペースだと、ウダウダして、もっと変なことを考える)
矢を抜くのが無理だの、なぜ? だの考えるな!
矢に集中しろ、自分!!
「《せーの!》」
トラ丸と掛け声を合わせて矢を抜くが、ドラゴンの脇腹に根深く刺さっているのか、それとも呪いのせいなのかわからないが。いくら引っ張っても2人の力では、一度に数センチしか動かなかった。
だけど、諦めない!
「グヌヌ!」
《ウググッ!》
「「マリーナ!」」
こちらに、クロ君と駆けつけたようたしたが、シラさんに止められたヴォルフ様は防御魔法をかかさずかけてくれた。騎士団とお母様たちは静かに見守ってくれている。私とトラ丸は見守られながら矢を抜いていく。
そんな中、ドラゴンは矢が抜けるときの痛みで、悲鳴をあげた。
「[イタイ、イタイ、カラダガ……ヤケルヨウニ、イタイ!]」
「ドラゴン……」
《ドラゴンよ、すまぬ》
「[ワレノコトハキスルナ、フタリガ、タスケヨウト――シテクレテイル。カンシャスル』」
その痛みに耐えるドラゴンの声に、わたしの瞳から"ブワッ"と涙が溢れた。
「ぜ、ぜ、絶対にこの矢を抜く! トラ丸、がんばろう!」
《ああ、がんばるぞ!》
気合いを入れた私達に。
「おつかれぇ~解呪魔法も使わずによくここまでやったね。さすが魔術師長カカナの娘さんと珍しい聖獣君だ。あとはオジサンに任せなさいな。ドラゴンも安心してね」
「⁉︎」
《⁉︎》
「[⁉︎]」
とつじょ真っ白なシャツとスラックスを着た、お母様と同じくらいの歳の男性が側に現れた。




