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乙女ゲームになかった場面?
いいえ。よく考えればこの場面は乙女ゲームが始まる前で。攻略本、本編にも詳しく書かれていない――主人公のヒロインには関係ない話。
「[クルシイ、クルシイ。ココニイル、ヤツラ――タオセバ、トマル?]」
ドラゴンがここにいる人達を倒すと言いだした。
マズイ……はやくしないと、ドラゴンが暴走してしまう。
「カカナお母様、団長様! 言い合うのはあとにして、はやく呪いについて調べましょう!」
私の上げた声に2人はハッとした。お母様は魔術師達を側に呼び寄せ、いまからドラゴンを【鑑定】すると命を出した。その鑑定には数名の魔術師と、カカナお母様は付きっきりになってしまうらしい。
「団長、騎士団の皆様。私達はいまから鑑定魔法の詠唱に入ります」
「了解! いくぞお前らぁ!!」
「「おう!」」
防御魔法、俊速魔法をかけられた騎士団が、ドラゴンと対峙するために剣を握る。ドラゴンと戦う騎士達の剣の音と、少し離れた場所で魔法詠唱が聞こえる。
私はそれを聞き、一つ疑問が浮きあがる。
(アレが魔法詠唱だとしたら……ちょっと待って、ヴォルフ様って詠唱していた? いいえ。【鑑定】をしたときも魔法詠唱をしていないわ)
それって、ファンタジーでよく言われている無詠唱? ――それは従者のシラさんもよね。2人ともすごい魔法使い!
「プッ」
隣にいるヴォルフ様は私の瞳を見て、吹き出しだしクスクス笑った。
〈フフ、そんなに見つめられると照れる。それに考えている事が透けてわかるよ。……マリーナ聞いて、僕とシラは無詠唱ではない。この魔道具に必要な魔法陣がいくつか入っているんだ〉
そう言ってヴォルフ様は――小指に付いているシルバーの指輪を見せ、シラさんはブレスレットを見せた。
〈他にもいくつか魔道具を持っているよ、すぐに魔法が打てるから使いやすいけど。まだ、試験段階の魔道具だからロベルト国に輸出していない〉
〈魔道具? ……そうだったのですね〉
〈あ、そうだ。無詠唱はマリーナの方だから……気付いていた?〉
〈私が無詠唱?〉
〈やっぱり気付いていないか……そうだよね。僕達と同じように魔法を使用していたから気付かないか〉
気付かない……魔法陣が組み込まれた魔道具を持つヴォルフ様と、それを見よう見まねで魔法を使っていた私。
(それって転生者特権のチートじゃない!)
〈自分が、かなり変わっているって気が付いた?〉
〈私が変わっている?〉
私が変わり者だから、ヴォルフ様は側にいてくれるの?
そうか。人より変わった人だから、ヴォルフ様はいつも面白いって言うのか――なーんだ、そうだったんだ。
〈だから他の者に目をつけられたくない。特にマリーナを傷付けた――デリオンにはね〉
〈え?〉
〈マリーナ、そろそろ魔術師たちの鑑定が終わる。呪いがより詳しくわかるよ、行こう〉
ヴォルフ様は私の手を握ると、カカナお母様のところへと走っていく。
《フン! だからと言って、まだ認めたわけじゃない。マリはワシの大切な妹だからな》
ずっと黙っていたトラ丸がボソッと呟く。
それにヴォルフ様は「認めてもらえるよう、がんばるよ」とトラ丸に返した。




