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いまここで。お母様を助けにきたなんて大それた事は言えない。ドラゴンが見たかったと、とぼける? いや、こんな危険な場所に。魔法大国の王子ヴォルフ様まで連れてきている……下手なことは言えない。
(カカナお母様に危険が起きる夢を見たと言う?)
私は頭をフル回転して言葉を選んでいた。隣のヴォルフ様がいきなり頭を下げて。
「僕がマリーナに、ドラゴンを見たいとわがままを言いました」
「ヴォルフ様が?」
「それは本当なのですか?」
私達にはわかる嘘を言った――そして、お母様が驚くのもわかる。私が「ドラゴンを見たい」と真面目なヴォルフ様にわがまま言った方がしっくりくる。
(わがままだけど――ここに来た理由はお母様を守るため)
周りの大人達がざわつく中、私は声に出さず念話でヴォルフ様に話しかけた。
〈まってまって、ヴォルフ様……それ嘘だよ〉
〈マリーナ落ち着いて、僕がこう言った方が大人は納得して、この場が丸くおさまる。ゆうちょうに長話をしていい状況でもないから〉
〈そうだけど……怒られるとき、私も一緒に怒られるから〉
〈怒られるか――初めての経験をするのも楽しそうだ〉
ククッと声に出さず喉の奥で笑った。
「お叱りは後で受けます。あのドラゴンについての、僕の話を聞いてくれますか?」
「ドラゴンについての話? ええ聞きます」
「ヴォルフ殿下、話してみてくだされ」
切迫詰まった状態なのか、カカナお母様と騎士団長だけではなく周りの騎士団、魔術師達もヴォルフ様に詰め寄った。だが、ヴォルフ様は尻込みすることなく、落ち着いた様子でドラゴンの状態を話し始める。
「あのドラゴンに少し違和感を感じました。何かあるのでは? とドラゴンを鑑定魔法を使用したところ、何者に呪いを受けていると鑑定にでました」
「呪い?」
「呪いだと……封印が解けて、出てきたのではないのか?」
――封印?
「ギルルイ騎士団長! その話はしてはなりません」
「おっと、言葉が口が滑った――しかし、カカナ魔術師長、呪いの鑑定をされたヴォルフ様に伝えた方がいいのでは?」
「口外禁止だと、陛下が決めた事です」
「しかし! 今は、その様なことを言っている場合ではありません」
お互いの意見が違い、団長同士が睨み言い合いをはじめ、周りが「おやめください」「言い合いをしている場合ではありません」《落ち着いて》とジロウも止める。
その話に私はゴクリと息を呑む。
頭と心の中はパニック状態。
(はあ? まって、まって、まって――このストール山にドラゴンが封印されていた? こ、こ、こんな話……乙女ゲームに出てこなかったよぉ)