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「マリーナ、さっそく書庫で地図をみよう」
「わっ、ヴォルフ様?」
《マリ、行こう》
《そうだね、地図を見よう》
《ポも探す!》
ヴォルフ様に手を引かれて屋敷の書庫に向かっている。あんなに慌てたのに場所を知らないなんて、私は恥ずかしくて顔から火が出そうだし、泣きっぱなしで目も真っ赤。
「うぇ~ん。ヴォルフ様、みんなありがとう」
「おっと泣くのもお礼もまだ早い。カカナさんを助けに行くんだろう?」
《マリ、しっかりしろ》
「う、うん」
私達は書庫で地図を探す。ポ君が本棚の上の方で見つけたのか一冊の薄い本を咥え、シラさんのところへ戻って行った。
《主人、ポが見つけた褒めて》
「ポ、よくやった。――ヴォルフ様、マリーナ様ロベルト国の地図です」
「ありがとう。テラスに戻ろう!」
「はい、戻りましょう」
シラさんはポ君の頭を撫でて、頬と頬をくっつけた。ステキ! 私もトラ丸とやってみたいかも。2人を見て、ニヤニヤしているのがわかったのか。
頭のトラ丸がプルプルふるえる。
《また、変なことを考えたな》
「フフ、バレた? 考えてたよ」
《気が向いたら、やってやらんこともないが。誰もいないときな》
「マジ! やったぉ!」
さっきまで慌てて、大泣きの私がいつもの調子に戻り、ヴォルフ様がこっちらをみて優しく笑った。その笑みにドキッとする。
慌てふためいて泣き喚いたとき、力強く引き寄せられ抱きしめてくれて、落ち着かせてくれた。
(だけど、ヴォルフ様はこの乙女ゲームの攻略対象……学園に入学したらヒロインを好きになるだろう)
傷付きたくない私は心に芽生えはじめた気持ちを、ソッと奥にしまった。大丈夫、大丈夫、その時がきても、私にはトラ丸がいるから――寂しくない。
テラスに戻り地図を開き、東にそびえるストール山を探し見つけた。ドラゴンは得体が知れなくてもの凄く怖い、でもお母様は助けたい。
「ヴォルフ様、私行ってきます」
《行ってくる》
「あ? 何を言っている? マリーナとトラ丸を2人で行かせるわけないだろう!」
《ウンウン、主人のいう通り》
「みんなで参りましょう。私の防御魔法をかけますし、ポと守ります」
《主人とポは強い! みんな守る》
一緒に来てくれるのは嬉しいけど、彼は魔法大国クエルノ国の王子――危険な目に合わせたくない。ケガをさせてしまったら、大ごとになるに決まっている。
「…………」
「マリーナ、ここで置いていくのは酷い。それに、ドラゴンに(図鑑でだけど)くわしい僕を連れて行ったほうがいいぞ」
《そそ、主人はドラゴンに詳しいよ》
ううっ、ドラゴンにくわしいヴォルフ様が来てくれるのは心強い。
「――わかりました。危なくなったら絶対、ぜったいに逃げてください」
「それは、マリーナとトラ丸もだからね」