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ヴォルフ様がロベルト国にやってきて、私の魔法の先生になってはや一月。
彼は週一で、報告の為に魔法大国クエルノ国へ転移魔法で戻っている。いろいろ知っているヴォルフ様。彼もまた11歳だから、ご両親が心配しているのだろう。
本日はヴォルフ様がいないので授業は休み。
私は朝の日課、ジョギングを終わらせてオレンジジュースを飲んでいた。
「最近、太ったね――トラ丸」
聖獣のトラ丸がまんまるに太った様な気がする。異世界に体重計はないので抱っこして測って、自分の体重を測ってトラ丸の体重を出す事ができない。
でも頭の上にトラ丸はよく乗るけど、重さは感じないが、フォルムがモチモチ、モフモフだ。
《ワシは太っていないぞ》
「そうみたいだけど。お腹の辺りがモチモチで可愛くなってるよ」
トテトテと走ると左右にブリンブリン揺れるお腹――でも魅惑のそこはデッドゾーンだから、触ると容赦なく猫パンチが飛んでくる。
前、へそ天しているトラ丸のモチモチのお腹に、顔を埋めて、パンチとキックをフルにくらった。でも顔が至福のひとときだったなぁ。
トラ丸、またへそ天しないかな?
《マリ、変なこと考えてるだろう?》
「考えてないよ。オヤツはプリンが食べたいなって思ってたの」
《何? プリンだと――ワシは硬めのプリンが好きだな》
「私も硬めが好きで、たまに作っていたなぁ」
――塩と砂糖を間違えたときは悲しかった。
何度か試してみたけど、トラ丸は大きくなっても空を飛べない。それなら背中に乗せてもらって走るのは? と考えて、トラ丸に聞いてみた。
《マリを背中に乗せて走るか。それなら、ワシにも出来そうだな》
「じゃ、オヤツの後やってみようよ」
《マリのプリン半分くれたらな》
カラメルが程よく香ばしく、オーブンで焼かれた硬めのプリンは家族とメイド、カルロの家族みんな大好き。砂糖と卵が貴重だけど、私の家は公爵家なのでたまに食べられる。
「プリンを半分かぁ……わかった。それで背中に乗せてよ」
《ああ、約束な》
約束どおり半分のプリンと引き換えに背中に乗せてもらったが、聖獣のトラ丸は魔力が無いと周りに見えない。もし乗るのなら姿を現さないとダメな事を、すっかり私とトラ丸は忘れていた。
「トラ丸、早い早い!」
《マリ、楽しいか?》
「とても楽しいわ!」
屋敷の周りをグルングルン、トラ丸の背中に乗って走った。その姿を見たメイドのパレットが悲鳴をあげて気絶した。
「え?」
「「きゃぁ――――!」」
「マリーナお嬢様がものすごい速さで、空を飛んでいらっしゃる?」
「マリーナお嬢様がぁ!!」
「マリーナお嬢様!」
屋敷は騒然。それもそう――メイド達とカルロ達が見たのは、空に浮いて飛び回る私の姿だったのだ。