30
昼食時間まで、ヴォルフ様の講義がテラスで始まった。彼は持ってきた小さなカバンからあきらかに容量オーバーの大量の書物、手書きのノートを取り出しテーブルに置いた。
ま、まさかそれは!
「ヴォルフ様のそのバッグ! なんでも収納ができるマジックバッグですか?」
「よく知っているね、そうだよ」
(すごい! みためは可愛い革製の小さなカバン。でも、アレがマジックバッグ? あのバッグの中に手を入れたら、どうなるのかしら?)
マジックバッグを見て、ウキウキワクワクの私よりも頭の上のトラ丸がくいつき。クリームパンの様な前足で、ヴォルフ様のカバンをチョイチョイ突っつく。
《摩訶不思議だ! そんな小さなカバンから大量の書物が出てくるとは……なんでも、入れたい放題じゃないか》
《でしょう。主人のカバンおもしろいよね》
《ポの主人も持ってる》
ヴォルフ様の側近のシラさんも? と彼を見た。彼はトラ丸とわたしの視線に気付き、執事服の前を開けて、さりげなく腰に付けている小さいカバンを見せてくれた。
「あれも、マジックバッグですか?」
「そうだよ。バッグに空間魔法がかけられているんだ」
「空間魔法?」
「そう、バッグの中は時間が止まっていて、食べ物を入れても腐らないんだ」
「ええ⁉︎ バッグの中に入れた食べ物が腐らない?」
《マリ、この世界はすごいなぁ》
「うん、うん。すごいね」
トラ丸が驚くのもわかる。マジックバッグ――小さなバッグに沢山のものをしまえて、食べ物が傷まないなんてありえない。
「フフ、驚いた? このマジックバッグを持つ者は、僕達の国でもごく僅かなんだ」
「ごくわずか……貴重なものなんですね」
「そうだよ。それに魔法も貴重。魔法一つで火をつけたり、灯りをともしたり、水を出したり出来る。だけど使い方を間違えると、人を傷付ける危険なものに変わってしまう」
それじゃ。と、ヴォルフ様はマジックバッグから、手のひらサイズの水晶玉を取り出して「この水晶に手をかざして、いまからマリーナの魔法属性を調べるから」と言った。
言われたとおり手をかざすと水晶玉の中で渦巻きが起こり、それが消えると、今度は緑の葉が水晶玉を覆った。ヴォルフ様が水晶を見て頷く。
「へぇ、マリーナの属性は風と植物魔法か。2つの属性を持つのは珍しいね。ちなみに僕は水属性と氷属性で、シラは火属性ね」
「ヴォルフ様が水属性と氷属性。シラさんが火属性」
「そうだよ」
(ヴォルフ様の属性はゲームと同じだけど、私が風属性の他にもう一つの属性を持っているなんて、設定になかったはず)
それに、この植物魔法って初めて聞く。
「ヴォルフ様、風属性はわかるのですが。植物魔法ってどの様な魔法が使えるのですか?」
ヴォルフ様はテーブルに置かれた書物から、一冊を手に取って開いた。
「えっと、植物魔法は植物をイキイキと育てられたり、枯れた土地の土を生き返せるって、書いてあるよ」
なんですって!
「植物をイキイキ育てられる! だとしたら、ジャガイモをたくさん実らせることができるってこと?」
魔法で、ジャガイモを実らして食べ放題!
こんな嬉しいことはない。
《いや、マリ。ジャガイモに限った事ではないぞ、いろんな植物が実らせられる》
「え? そうか。いろんな野菜のタネを手に入れて植えたいね」
《おお、いいな!》