26(ヴォルフ)
僕の名前はヴォルフ・クエルノ。魔法大国クエルノ国の第二王子……11歳だ。マリーナは同じ歳だと思っているだろうけど、1歳年上なんだ。
三つ歳が離れた第一王子の兄がいる、兄上は王妃の子で僕は側妃の子。何かと比べられてしまう。実際に魔力量、教養、聖獣は僕の方が優れていた。
だけど僕は優しい兄上が大好きで、母上も僕を国王にしたいと願っていない。しかし周りがうるさい、僕は魔法が好きで、聖獣のクロが好きただそれだけ。
将来国王となった兄上を後ろで支えたい。僕は引きこもり、表に出ることをやめた。
僕が6歳になった頃、父上、兄上と共に隣国ロベルトの第一王子デリオン5歳の誕生会に招かれた。初めての隣国、僕は兄上の後につき挨拶していた。
王子デリオンとの挨拶も終わり、父上と兄上と一緒にいた僕にいきなり。
「お前、聖獣がいるんだったな。その聖獣を見せてみろよ」
どこで聞いたのかは知らないが。名前も呼ばず、いきなり突っかかってきた。僕は5歳のデリオン王子より小柄で背も低いからだろう。
「すみません、見せることはできせん」
父上、兄上の側にも聖獣はいる。聖獣は我が国で特別な存在、彼らが自ら姿を現すことは滅多にない。
「いいだろう、俺が見たいって言ったんだ見せろ!」
「無理です(クロがおびえてる)」
生まれたばかりのクロは僕の足元で縮こまっている。父上と兄上の聖獣は自ら結界を張り、ジッと突然現れたデリオン王子を見ているし、父上と兄上も静かにことの成り行きを見守っていた。
(子供同士の喧嘩だと思っているのだろう)
「見せろ」「いやだ」何度か同じ問答を繰り返している僕たちの所へ、ブルーのドレスを身につけた、1人の女の子が走ってきた。
「デリオン殿下! 嫌だと、もうちていますわ。無理じいはダメです」
「うるさい、俺が見たいって言ってる」
「わがままです。あちらでみんながお待ちです。おちゃを飲みながらお花をみましょう」
「いやだ、見ると言ったら見るんだ!」
デリオン王子はその女の子を力任せに突き飛ばした。この光景に僕の怒りの感情が湧き上がった。
「やめろ!」
その言葉に少量だけど魔力が乗ってしまい、デリオン王子を尻もちさてしまった。その尻もちを彼はその女の子に、突き飛ばされたと勘違いした。
「じごうじとくです」
彼女が発した言葉も勘違いさせるものだった。僕はすぐ謝ろうとしたが言葉がでず――そうどうは終わった。
僕は謝りたかった君のせいじゃないと、言えなかったショックと魔法の制御ができていなかった。僕はさらに引きこもり勉強をはじめた。
毎年、招待状がきていたが参加することなく、魔法の勉強に打ち込んだ。
3年が経ち――精神ともに落ち着いた僕は、デリオン殿下の誕生会への参加を決めた。その会場で聖獣を連れた1人の女の子がいた。彼女と聖獣は念話を使い会話している。
(聖獣と会話? 父上と兄上、僕にもできないことだ)
彼女が気になり観察していた。その子はデリオン殿下へ誕生の挨拶に向かったが……みんなの前で彼に罵られていた。
このとき気づく、あの日の子だと。あの子はあの日から、周りにひどいことを言われ続けていた。なにも言えなかった僕のせいだ。
いま僕がでていって……前のようになったら? 彼女をまた傷付ける?
僕が悩んでいるうちに、彼女の側にいた聖獣の怒りが風を起こし。彼女の顔にデリオン殿下のプレゼントとして持ってきた、聖獣の卵がくっついた。
嫌がってる?
くっついて離れない?
(卵はあの子が好きみたい。嫌味なデリオンに渡したくないな)
「その子に君の魔力をあげて! なんでもいい、好きな形を思い浮かべて」
と伝えた。
その子は迷いながらも願い、聖獣の卵は丸いネコの姿に変え、すぐに女の子と楽しく話をして戯れている。
(うらやましい)
あの子が気になって仕方がない、仲良くなりたい。
もう一度会いたいとお茶会にでて、もっともっと彼女が気に入った。彼女の不思議な力で、クロと話せるようになった。
笑顔が可愛い。
話していて楽しい。
僕を見つめる瞳がキレイ。
可愛い、彼女が他の誰のものにもならないよう、先手は打った。デリオン殿下――彼女が気になっても、もう僕のものだからね。