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しとしと雨が降っている。人々は黒い傘をさし、黒い服を身につけ参列している。その参列者達は皆――悲しみに満ちた瞳をしていた。
「マリーナ、最後のお別れをいいなさい」
「はい、お父様。さようなら、カカナお母様」
集まった人々の中で……マリーナだけ冷たい瞳のまま、お母様が眠るお墓を睨みつけていた。
《マリ、マリ!》
寒い冬の季節が終わり、季節は徐々に春を迎えていた。マリーナこと私は同じ夢を繰り返し見ては、同じベッドで眠るトラ丸に叩き起こされていた。
「あ、トラ丸? もう朝か――」
《また、うなされていたぞ》
「うん……また、あの夢を見ていたの」
《そうか……》
毎回、お母様のお墓の前で最後のお別れを告げるという――同じ場面の夢を見ていた。乙女ゲームだと来年、カカナお母様に何かが起こり亡くなってしまう。
その何かがわからない。
乙女ゲームは学園から始まる。それ以前の話は回想シーンでしか登場しないため、お母様に何が起こったのかがわからない。
「私はお母様を守りたい。その為にはトラ丸と一緒に魔法、剣、体を鍛える!」
《おう!》
春になって、出来ることから始めようと。早朝、屋敷の周りをトラ丸と走り、腕立て伏せ、腹筋――自分で思いつくだけのトレーニングを始めた。
それともう一つ、私にも魔力があると分かったので、書庫で読んだ本に書いてあった。魔石(魔力石)を作る訓練を始めた。モンスターから手に入る魔石(魔結石)は冒険者にならなくてはならない。冒険者になれるのは15歳からで、10歳になったばかりの私は冒険者になれない。
魔力石は石に魔力を込めるだけで出来るらしいから、トラ丸と話してやってみようとなった。いろんな石を集め魔力を込めて、それを魔法の先生が来るまで、お母様に見てもらうのだけど。
「マリーナ残念だけど、どの石も魔力石になっていないわ」
「ほんと? なかなか難しいね」
トラ丸とガッカリする私にお母様は、執務机の上の木箱を渡した。
「お母様、この木箱はなに?」
「……マリーナが春になって、いきなり魔力石を作るっていい出して驚いたわ。その渡した木箱の中は……魔力石を作るための石が入っているわ」
「え、普通の石じゃダメだったの?」
「ええ、研究してわかったのだけど。普通の石に魔力を込めても、すぐに出ていってしまうの。だけど、いまマリーナに渡した石を使えば魔力を使うまで、その石の中に魔力を閉じ込めることができるの」
これさえあれば魔力石が作れる――けど。
箱を開けると、3センチくらいの長細い透明な石が入っていた。
「カカナお母様……この貴重な石を私が貰ってもいいの?」
「いいわ。ここ数週間のマリーナとトラ丸を見てきて、大丈夫だと判断いたしました。だけど、たくさん石があるからと一度に魔力を込めるのはやめなさい。今のマリーナなら、せいぜい1日3個までね」
一度にやると魔力を枯渇してしまい、命を危険に晒すとお母様に言われた。これは守らなくてはならない。私に危険が及ぶと、トラ丸まで危険に晒されてしまうから。
「1日3個まで、わかりました。ありがとう、カカナお母様」