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ヴォルフ殿下から手紙だなんて嬉しいな。
《なんて書いてあるんだ?》
《今開けると、お父様にお行儀が悪いって言われるから、後でね》
《そうなのか》
まあ、頭の上にいるトラ丸についてお母様が何も言わないのは、聖獣だからなんだろうな。でもトラ丸ってどちらかと言うと飼い猫……友達のような感じ。お母様のジロウは食事が終わるまで、横で大人しく待っている。
お茶会の日、ヴォルフ殿下がクロと言葉を交わせた事は私達の秘密だ。もし聖獣と話せる事が知られちゃうと、魔法大国が凄いことになるらしい。だから、2人だけの秘密にしてくれと言われた。
「マリーナ、このコロッケとガレットおいしいわ」
「うん、これなら領地に住む人々も作れるな」
「ほんとですか! 嬉しい。あ、コロッケは油で揚げなくても揚げ焼きにもできます」
「すごいな、書庫に各国の料理の本があったのか……知らなかった」
「私も知りませんでしたわ」
「ぐ、偶然見つけたんです」
ほんとうは前世の記憶なんだけど――
《コロッケ、くれ》
《いまはダメ、後であげる》
《一口、いい匂い》
《我慢しなさい、トラ丸》
黙って入れなくなったのかジロウが止めてくれたが、暴れるのでコロッケを一切れあげた。
《うまい、ケチャップがほしいな》
《ケチャップかぁ、いいね》
《まったく食いしん坊だな》
カチャッと食事をしていたお父様が手を止めて、私に話しかけた。
「そうだ、マリーナにも聖獣様がいらっしゃるのだろう? 本来はヴォルフ殿下からデリオン殿下へのプレゼント。その聖獣様の卵が偶然にマリーナの手に渡り、卵を孵させたそうじゃないか。城で噂にもなったしカカナから聞いた」
(ほんとうは顔にくっついたモフモフの卵。その孵化に、ヴォルフ殿下が手を貸したのは知らないみたい)
「どんな聖獣なんだい?」
「トラ丸と言う、猫の聖獣です」
「猫? 珍しいな。魔力が低い私に聖獣様は見えないが、よくやった――ここだけの話、マリーナに辛くあたるデリオン殿下が許せなかった……いつか殴ってしまいそうだったからな!」
「ええ、私も魔法を打ってしまいそうでしたわ!」
ハハハ、ホホホと和やかに笑う、お父様とお母様の瞳の奥はマジだった。
《マリの両親……やりかねないぞ》
《私もそう思った》
《ボクも噛みつきそうだったよ》
《《ジロウも!》》
そうとうデリオン殿下は私が嫌いで、王城でも色々言っていたんだろうな。聖獣の卵のことでも……
「マリーナ、聖獣様を大切にしなさい」
「はい!」
夕食が終わり部屋に戻ってヴォルフ殿下の手紙を開き、書いてある内容に驚くしかない。
「トラ丸、見て見て! 来年の春になったら、ヴォルフ殿下がロベルト国に来るって!」
この手紙の終わりに。
【マリーナ嬢に面白そうな土産もたくさん持っていく、楽しみに待っていてくれ。】
とも書いてあった。
「面白そうな、お土産?」
《よかった、マリ》
《え?》
《声が嬉しそうだ》
《そうかな? クロ君にも会えるからね》
ヴォルフ殿下に春になったら会える、うれしいな。
でも彼ってこの乙女ゲームの隠しキャラで、攻略対象なんだよなぁ――忘れてたけど。