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しかし、いきなりヴォルフ殿下の手を握るのは、不敬にあたるかも。さりげなく触る? どうやって? 前世は男性と手すら握ったことがない私ができる?
(こうなったら、恥ずかしいけど)
「ヴォルフ殿下、失礼します!」
ガシッと彼の手を握った。
いきなりの私の行動に驚く彼と。
「ヴォルフ殿下にも、クロの声が聞こえるようになぁ~れ」
「はあ? なんだよそれ」
「だって、ヴォルフ殿下とクロってすごく仲良しだから。声が聞こえたら、もっともっと仲良しに、幸せになる!」
《トラ丸の主人は優しくて、面白いな》
《そうだろう、ずっと一緒にいたい》
ウンウンと、ヴォルフ殿下は頷き。
「マリーナ嬢が面白いのはあっているし、ずっと、いたいのもわかる」
「ええ! ヴォルフ殿下? いまクロとトラ丸の声聞こえたの?」
《主人、ボクの声……聞こえる?》
「ああ、クロの声が聞こえる。奇跡が起こったようだ」
「やった! 2人の想いが神様に通じたんだよきっと!」
《神様はすごい。ワシはマリに会えたからな》
「ねえ、トラ丸」
抱き抱えようとして、お約束の猫キックを喰らった。それも幸せ~!
もしかすると彼は魔法大国の王子だから、魔力が高い。聖獣と心が通じあえば話せるようになるんじゃない!
2人が戯れ合う姿を微笑んで見守った。
「談話中、失礼します、ヴォルフ様。頼まれた飲み物をお待ちいたしました」
私達がいる東屋に燕尾服を着た、1人の男性が近付く。彼は飲み物とケーキがのった、トレーを持っていた。
「ありがとう、シラ」
「いいえ、お嬢様もご一緒に召し上がってください」
「ありがとうございます」
「それでは失礼します。なにか御用がありましたらお呼びください」
彼は音もなく消えた。
(忍者みたい!)
「フフ、彼は僕の従者シラって言うんだ、さっきここに来る前に連絡しといた」
ヴォルフ殿下はそういうと小指の指を見せた。魔導具? もしかして通信機になっているのかな? さすが魔法大国だ、面白い魔導具がたくさんありそう。
「ちなみにシラの聖獣はフクロウね」
「フクロウ?」
「上を見てみて、僕らを護衛してくれているから」
言われた通り東屋から少し出て空を見上げると、フクロウが飛んでいた。それも陽気に歌っていた。
《ポは賢いフクロウ~見た目も素敵~!》
ポという名前なのかな?
「陽気に歌っているね」
「歌っていますね」
彼の陽気な歌を聴きながら、ヴォルフ殿下とのお茶の時間が始まった。
《ポはカッコいい~フクロウ!》