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こちらの話を聞きもしないで――口が動き、反論しようとした私の言葉は、彼の凛とした声に掻き消された。
「いい加減にしてください! ボクは今、マリーナ嬢と楽しく談話している。関係のない者はわざわざ、ボクたちの会話の聞き耳を立てないでもらおうか!」
ヴォルフ殿下は王子らしく堂々と、周りの大人たちを静かにさせた。しかし周りにいた貴族は、ヴォルフ殿下のことを知らなかったようで。
「子供が、何を偉そうな口をたたく」
「失礼しちゃうわね」
「どこの貴族だ!」
ヴォルフ殿下を悪く言った。
《お前ら、いい加減にしろ!》
彼の聖獣のクロの怒りが、あたりを冷やす。
この国の人達は魔法大国のヴォルフ殿下を知らない? その行為は不敬にあたる。言われたヴォルフ殿下はフッと笑い、悲しげに眉を下げ「大丈夫」だとクロをなだめた。
「いい加減にしてください! この方は――」
魔法大国ヴォルフ殿下だと、私の言葉を遮る声……この声は知っている――デリオン殿下だ。
「おい、そこ、国王主催のお茶会で何をしているんだ?」
「これはデリオン殿下、失礼しました」
「失礼致しました」
私達に文句を言っていた貴族たちは、殿下の登場に一歩下がり頭を下げた。その間を側近、近衛騎士を連れてやって来るデリオン殿下。
彼は私とヴォルフ殿下を見つめて、大袈裟なため息をついた。
「クク、何かと思って来れば"引きこもりのヴォルフ王子"と"問題児のマリーナ嬢"か……何があった?」
「別に何もない」
「ようやく外に出てこれたのにな! マリーナ嬢と関わりを持つと、4年前のように厄介ごとが迷い込むぞ」
「4年前は違うだろう! ボクとデリオンのケンカを止めようと、ボクたちを突き飛ばしただけ。それなのに君はマリーナ嬢だけを悪者呼ばわりして、彼女を側の池に突き落としたくせに!」
引きこもりヴォルフ殿下だと、言われたこともだけど。4年前といえばマリーナは5歳だ。その出来事が原因で、マリーナは王城に呼ばれなくなった?
「ボクは知っている、あの後からマリーナは乱暴者だと言われはじめた――言いだしたのはデリオンだろう!」
「ウソは言っていない! マリーナが俺に乱暴を働いたのは本当の事、事実を言ったまでだ」
その言葉がマリーナを乱暴者にしたんだ。
彼女はただ2人のケンカを止めただけ。
それなのに――マリーナだけが乱暴者だと言われた。
マリーナは反論もできず、ずっと周りに言われて……嫌で嫌で『言葉の暴力から』自分を守ろうとして――手を出してしまい。さらに乱暴者だと言われる原因になったんだ。
(全部、ぜんぶ! デリオン殿下のせいじゃん!)
だけどマリーナはこのあと起こる、あの事件の後、更におかしくなる。
本来なら、嫌いなはずのデリオン殿下への執着がはじまった。